貴様を魔族領への追放処分とする!

「貴様が、未来の国母に働いたこれまでの罪。償ってもらうぞ」


 フォード王子の声に、私は驚いて振り返ります。

 真っ先に視界に入ったのは、ジュリーヌさんの嫌らしい笑みでした。


「罪とは何ですか? 

 確かにカレイドルさんの態度については、何度も注意したことはあります。

 あまりにも目に付く場面が多かったですから」


 ジュリーヌさんは、ところかまわず王子といちゃいちゃしていました。

 お茶会でも彼女の評判は最悪でした。


 不満も相当たまっていたはずです。

 私があそこで注意しなかったら、さらに本当に手ひどい苛めに繋がっていたかもしれません。

 それぐらいの想像は働かせてほしいものですが。


「すっとぼけるな! 暗殺未遂の件だ!」

「……お言葉ですが、おっしゃられる意味がサッパリ分かりません」


 このバカ王子は、いきなり何を言い出したのでしょうか?

 ここぞとばかりに王子は、言葉を続けました。


「あくまでとぼけるか。

 『証拠なんて見つからない』と、タカを括っていたのだろう?

 甘かったな。証拠もここにある」


 やってもいないことの証拠なんてあるわけが……。

 そう思っていましたが、すぐに王子の元に書類の束が届けられました。


「言葉を失っているな。ひっ捕らえた暗殺者が持っていたのだよ。

 貴様がジュリーヌを暗殺するよう指示した書類をな」



 ――まさか?


 いくらジュリーヌさんでも、そこまでするはずが……。

 そう驚きつつ視線を向けると、彼女はニタァっと嫌らしい笑みを浮かべました。


「私、いつ殺されるかって不安で。

 その、暗殺者に狙われるなんて今までにない経験で……。

 あの時は申し訳ありませんでした」

「良いんだよ。悪いのはフィーネ・アレイドルただ1人だ」


 バッとバカ王子の胸に飛び込むジュリーヌさん。

 フォード王子は、いとおしそうにジュリーヌさんを抱きしめます。

 とんだ茶番でした。



「そんなことしていません。冤罪です!」

「フィーネ・アレイドル、往生際が悪いぞ!

 この書類が、貴様の罪を証明している!」


 そんなもの。

 少し考えれば罪をなすりつけるために、用意された偽の証拠だと分かるでしょうに。


「そんな指示書、わざわざ書面で残すはずがないでしょう!?

 その道のプロである暗殺者が、依頼書を持ったまま依頼に当たるというのもありえません!」


「言い逃れはそれだけか?」



 私の必死の説得は実を結ぶことはなく。

 バカ王子は、すっかりジュリーヌさんを信じ切っているようでした。



 暗殺未遂なんて罪状、不名誉どころの騒ぎではありません。

 予想外の事態に慌てる私に対して、王子は自信満々に宣言しました。




「フィーネ・アレイドル。

 貴様を魔族領への追放処分とする!」



 一瞬、思考がフリーズしました。


「はい……? 魔族領、ですか?」



 魔族領。

 それは『魔族』と呼ばれる生物が支配する、恐ろしい土地のことでした。

 私たち人間は魔族から逃れるため、結界内に閉じこもりどうにか生きながらえてきたのです。

 フォード王子の宣言は、私をその結界の外に追放するというものでした。



 ――いやいや、冗談でしょう?


 その処遇は、処刑の存在しないこの国では最も重たい処分です。

 死刑の存在しない国で大罪人を裁くための、事実上の死刑宣告。



 まちがっても軽はずみに口にするようなものではありません。

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