冤罪で魔族領に追放されましたが、魔王様に溺愛されているので幸せです!

アトハ

婚約破棄は受け入れるしかないみたいですね

「フィーネ・アレイドル公爵令嬢!

 私は、貴様との婚約を破棄することをここに宣言する!」


 その声は、突如としてパーティー会場に響き渡りました。

 


 あー、はい。分かりました。

 分かったので、どうか大声を出さないでいただけますかね。


「フォード王子? いきなり何をおっしゃるのですか?」


 私の名前はフィーネ・アレイドル。

 これでも、一応この国の公爵令嬢だったりします。


 そして私の目の前にいるのは、フォード王子。

 その美貌は見た目だけなら、国でもトップクラス。

 我が国の第一王子です。


 ひとときは婚約を羨まれました。

 そしてその羨みは、やがては憐れみに変わりました。


 ――あのバカな王子の面倒見るのは大変ね、と


 原因はこの王子の性格にあります。


「心当たりがない、とでも言うつもりか?」

「これっぽっちもございませんわ!」


 決めつけたら一直線。

 感情のままの振舞いは、とても王族だとは思えません。


「とぼける気か!

 貴様がしたジュリーヌに対する非道な仕打ちの数々。

 まさか忘れたとは言わさぬぞ!」


 なんとも一方的な物言いです。

 こちらの言うことに、まったく耳を貸そうとはしません。



「私はカレイドルさんに対して、何もしていません。

 婚約者がいるにも関わらず、人目も気にせず王子に気安く話しかけたこと。

 その非常識っぷりを、少し厳しく注意させて頂いただけです」

「……あくまで罪を認めぬつもりだな」


 ジュリーヌ・カレイドル。

 それはフォード王子の浮気相手の男爵令嬢でした。

 このバカ王子は私という婚約者がいながら、あろうことか日中から堂々と男爵令嬢に浮気をしていたのです。



「ふん。私と仲良くするのが許せなくて、嫌がらせをしていたのだろう」



 私は、なおも反論しようとして……


 ――これ、さっさと婚約破棄された方が良くね?


 そう気が付いてしまいました。



 もともとフォード王子と私の婚約は、フォード王子の地位を確固たるものにするための政略結婚にすぎません。

 そこには何の愛情もなく、あるのは己の役割を果たさねばならないという義務感のみ。


 もちろん王子の婚約者として、行き過ぎた行動があれば注意はしました。

 ですが、それはあくまで役割に従ったまでのこと。

 そんな私をフォード王子は『可愛げがない』と疎み、やがては疎遠になっていきました。


 そんな冷え切った関係性だったからこそ。

 フォード王子とジュリーヌさんの浮気を見ても、私は特に何も感じることはありませんでした。

 興味もなく、むしろ2人を相手にするのもバカらしいと思ってしまったのです。



「私の行動は、すべて王子のためを思ってのことでございます」


 だから私の返答はこれ。

 どうとでも取れるような言い方を、わざと選びます。

 私のことを疑うものが聞けば、さらに悪印象を持つような言い方。


「貴様の嫉妬心からの行動を、よりにもよって『王子のため』だと? 恥を知れ!」


 案の定、ジュリーヌさんを盲目的に信じる王子は、怒りに声を震わせました。



「事実です。

 ジュリーヌさん、あなたではフォード王子に釣り合いませんわ」

「ひどいですわ、フィーネ様。私は……」


「貴様! おのれ、まだ言うか!」


 嫉妬からジュリーヌさんを貶めた、と王子は激昂します。




 私は、なにも間違ったことは言っていませんからね?

 仮にこうして私との婚約を破棄したところで。

 家柄を考えれば、代わりに選ばれる婚約者がジュリーヌさんになる可能性は少ないでしょうに。


「改めてここに宣言する!

 私は貴様との婚約を破棄し、カレイドル男爵令嬢と新たに婚約すると!」

「フォード王子!」


 嬉しそうに名前を呼び、感極まったように涙ぐむカレイドル男爵令嬢。


 どうでもいいですが、その自由に涙を出し入れするスキルには感心します。

 『可愛げがない』と言われ続けた私としては、羨ましい限りです。



「そこまで言い切られてしまっては仕方ありませんね。

 婚約破棄は受け入れるしかないみたいですね」


 これだけ目撃者がいます。

 一国の王子が言い切ってしまった以上、今更取り消すことは簡単ではないでしょう。

 



 そのまま立ち去ろうとした私ですが……


「何を勝手に立ち去ろうとしている?」


 と王子の声が追いかけてきました。

 どうやら、この茶番ははまだ終わらないようです。




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