第15話 スキルボード、ガチャ、ログインボーナス

* * * *

 ライオネル一行が街から追い出されていくのを見届けると、アルトは木の燃える匂いが残る森で配信を切って気味の悪い笑みを浮かべる。どんなに努力しても、圧倒的な力の前に無駄だと思い知らせてやることがこんなにすがすがしく爽快だとは思っていなかったようで、喜びに打ち震えている。


「う~ん最っ高だね! 石版の壊し方に気づかれたときにはひやっとしたけど、手配が間に合ってよかった。人が寝てる時に不意打ちだなんて悪いことする勇者だよね、ナナ」

「ハイ、ライオネル、ハ、クソヤロウデス」

「うんうん、言葉を覚えるのが早くて助かるよ。今までの雑魚は芸もまともに出来なかったから。カオスドラゴンは賢いね」


 機嫌がよくなったアルトはナナの頭をなで、腐りかけの肉を放り投げて餌だよと食わせる。自分は残り火で新鮮な肉を焼き、食べながらフォレストドラゴンの死骸にナイフで切り込みを入れる。部位ごとに分けてギルドに売り払えば、いい儲けになるからだ。収納魔法を使えば、持ち運ぶ必要も服が汚れることもない。


「ごきげんよう。調子はいかがですか?」

 鼻歌を歌いながらマーキングをするアルトの背後に、天使コスモスが現れた。

「やあ天使サマ、とっても順調だよ」

「それは何より。今日は、貴方に新たな力を授けに来ました」

 天使は攻略本よりもやや小さめな石版を差し出す。中央に宝石がはめ込まれ、蜂の巣のような模様が刻まれている。


「これはスキルボード。必要に応じてスキル生成し、自由自在に取得できるアイテムです」

「す、スキルを!? もしそんなことが出来るなら、もう苦労なんてしなくていいじゃないか!」


 アルトが驚くのも無理はない。この世界でのスキルは努力の賜物であるからだ。例えば【鑑定】スキルは知識や失敗・成功経験を経てようやく身につくものだ。個人差があるのは経験の差で、よほどこのことがなければ差は埋まらない。それを何の対価もなく自由に使えるとなれば驚天動地の発明品だ。誰も努力をしなくなる。


「それと、これはガチャ。金貨を入れて回すと、アイテムが出てくるものです。中身は全部貴方の世界では入手が難しいものばかり。外れはありませんから、安心してくださいね」

 コスモスが指を鳴らすと、今度は設置型の中型機械が現れた。試しに回してみると、小さな球状の物から希少な完全回復薬フルポーションが出てきた。


「うわぁ。これ錬成するってなったら、少なくても数週間は高級な薬草を煮込み続けないといけないのに」

「稼いだお金で回すと良いでしょう。それから……」

「ま、まだあるの!?」

 流石のアルトも驚きを通り越して引いていた。


「ええ。貴方のような優秀で誠実で、優しさに満ちた人間は生きているだけで良いことがあるべきです。ログインボーナスとは、毎日朝良いことが起きる魔法です」

「ログインボーナス……」

「今日を一日目としましょう。配信機材をアップグレードしておきました。明日からは、毎朝枕元に天使からの贈り物が届きます」


 天使の言葉通り、配信機材は新品同様にきれいになり、画質も良くなった。ただ一方的に配信するのではなく、視聴者がコメントを送れる機能も付いた。


「それでは私はこれで。不遇なテイマーに幸あらんことを」

「あ、ちょ、ちょっと!」

 アルトが声をかける間もなく、天使コスモスは煙のように消えてしまった。


「ボクでも信じられないことばかりだ……どれどれ、スキルを作るにはっと。すごいな、最強剣技の【剣聖】も、知識の宝庫【大賢者】も作れる。【絶対幸運】は欲しいな。ん? 【ドロップ率アップ】ってなんだろう? 攻略本も出してっと。ああ、魔物を倒した時にアイテムを落とすようになるってことか。ふむふむ……」

 アルトは新たに手に入れたものをおもちゃのように遊び始めるのだった。森に住む魔物の残党をナナに狩らせて。



 一方その頃。死神たちにも動きがあった。

「あー、ダメだ。話が通じない。攻略本は持ってないみたいだったけど」

 青苑はため息をついて、民家の屋根の上に座り込んだ。彼の仕事は、天使が異世界に持ち込んだチートアイテムを回収することだ。出来ることならライオネル自身に直接問いただしたいのだが、現地の人間に直接干渉することは禁じられている。

 それ故夢に入り込んでいるのだが、もやもやと不鮮明で意思疎通もままならないでいた。


「夢への干渉なんてそんなもんっすよ。とはいえ、勇者がアイテム持ってないってのは不思議っすね。大体はああいうポジションの人間が持ってるもんっす」

「見ている限りチート使ってる感じもしないし、転生や転移でもないんだろ? ってなると、怪しいのはひたすら嫌がらせしてるテイマーの方じゃないかな」

「おっ、目の付け所が良くなってきたっすね。その調子っすよ」

「あっ! さてはお前全部知ってるんだろ赤屍!」

「さてね。これはキミの仕事っすから、自分はアドバイスしか出来ないっすよ」

「ちえっ、ケチ」


「……あんな酷い目に合わされまくって、マジで可哀想だ。どうにか助けてあげたいんだけどな」

 青苑は歯がゆそうに、ライオネルたちの行く末をただ見守るしか出来ない自分に苛立ち頭を掻いた。

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