第3話 アルトの思惑
* * * *
「ふう。ようやく追放された」
アルトはライオネルたちから遠く離れた場所にいた。取り替えアナグマたちは散り、大量のアイテムに埋もれて、堪えていた分笑い出す。怒りに震えるライオネルの顔を思い出して、もう一度大きな声を出して笑う。
「あ~ほんっと最低だったライオネルとかいうクソ勇者。なー、ナゴ」
「ナゴナゴ~」
名を呼ばれて姿を現したのは、透明になって姿を隠せる魔物の「隠れネコ」だった。アルトはこの魔物を勇者一行に出会うよりも前からずっと監視につけていたのだ。それも一匹だけでなく何匹も。
パーティ加入の際たまたま同じ宿にいたのではなく、最初から入る気で追跡させ、宿に先回りしていたのだ。勇者と共に行動し、邪神封印を成し遂げれば一躍有名になれるという下心全開で。
そう、アルトは決して役立たずのなりたてテイマーなどではない。むしろ凡庸なテイマーの何倍もの魔物を扱え、その生態にも詳しく「アレク」名義で本を書くような、その業界ではちょっとした有名人だ。
戦闘スキルも多く所持し、的確に弱点を突き仕留めることなど朝飯前で、使える魔法も属性魔法から移動、収納、異空間転送など多岐にわたる。
そんな彼が何故ひたすらに勇者一行の足を引っ張り続けていたのかというと、それは余りにも幼稚な嫉妬と承認欲求不満からのことであった。
簡単に言えば、自分の思い通りにならなかったから、むかついて引っ掻き回してやったということだ。アルトはライオネルのことを甘く見積もっていたのだ。
彼は数少ない職業故に、パーティ内ですごいです! 流石です! ともてはやされる心づもりでいた。腕試しで最初に出てくる魔物が何であれ、ばっちりテイムして実力を見せつけてやろうと意気込んでいた。
弱く見えていたやつが、実はとんでもない力を持っていましたとギャップを見せれば、勇者といえど一目置かざるを得ないだろうと、びくびくした弱気の少年を演じていた。
宿屋で勇者が声をかけてくるときに、偉大なテイマーをお迎えできて光栄ですとか、是非とも私達にお力添えをとか、相手が下手に出てくることを期待していたのだ。
ところが現実はそうはいかなかった。ライオネルはアルトがどのような人物であるかを知らなかった故に特別扱いせず、一人の人間として接してきたのだ。これが非常に気に入らなかった。だがら最初から失敗をして、出来損ないだとわからせとっとと出ていこうとしたのだが、ライオネルは改善しようとあれこれ腐心し、ことさらに神経を逆撫でした。
嘘を教えて痛い目に合わせることくらいしか楽しみがなく、それでさえ力を合わせて克服しようと努力するメンバーに、彼は段々と憎しみを抱くようになっていった。どうしてボクを輪に入れてくれないのか。頭を下げてお願いしますと頼み込むなら、いくらでも力を貸してやるというのに。
被害妄想は膨れ上がり、月日が流れる中で、悪知恵の回る彼は勇者一行を加害者に仕立て上げ、自分を被害者にする計画を思い立った。秘密裏に隠れネコたちを使いアイテムを集め、時にはパーティの金を使い込んでいた。出ていった後、有名になるための準備を。
その為には勇者の剣が必要なので、盗める日までじっと機会を伺っていた。寝首をかこうとしていると睨んだリリアンの判断は正しかったのだ。
つまるところ彼は追放『されたかった』のだ。自らの意思で出ていけば被害者になれないから。あくまで自分は必死に頑張ったテイマーだったが、理解されず荷物持ちにさせられて、挙句の果てには勇者から追放を言い渡された哀れな者だという状況が必要だった。
「ったく、なにが勇者だよ。手の届く範囲の人はみんな助けるとか、いかにもな偽善者じゃん。初心者用の練習させられてプライドに傷つきまくりだったし、飯の時はいっつも大して中身のない話を聞かされてうんざりだったよ。ああ、思い出しただけでも頭が痛い。それに付き従う連中はみんな馬鹿なんだ、だからボクがどれだけすごいのかわからないんだ。リリアンもなんであんなのと一緒にいるんだろうね、ナゴ」
ナゴの腹をもふもふ撫で回しながら、今までの苦労話を語って聞かせる。フレイヤとダグラスは表にこそ出さなかったが不信感を持っており、リリアンだけが彼に優しかった。
それは神が万人に与える平等な愛に等しいものなのだが、優しさを好意だと勘違いした彼はわざと部屋に魔物を送り込み撃退して、恩を着せがましい態度を取り性的な行為に及ぼうとした。断られてもなお、恥ずかしかっただけなんだと思いこむことで、彼は納得しているのだ。
「でもこれからは自由だ。散々コケにしてくれたあいつらには、地獄を見てもらわなくちゃね。お願いだから戻ってきてくださいと頭を地面につけて懇願されても、もう遅いって一蹴してやるんだ。ま、彼女が仲間になりたいって言ってきたら、入れてあげなくもないかな」
明確な悪意のこもった笑みを浮かべ、勇者の剣を手に取る。陽の光を浴びて燦然と輝く剣を、これはボクのものだと履いて立ち上がる。
「いるんだろう、おいで」
気配に振り返ることもなく、茂みに隠れていた大柄の魔物「豪腕クマ」を威圧感ある一言でテイムした。彼にとっては杖も自分を弱く見せるための飾りでしかないのだ。
大量のアイテムを収納魔法で異次元にしまうと、豪腕クマに乗って、走り出した。
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