第23話 お迎えありがとう


「あ、陽菜ちゃんお帰りなさい。どうだった?」


 踊りながらも私に気付いた朔夜ちゃんはそう尋ねてきた。


「うん……初めて会ったギルドの演習場の森まで転移できることは確認出来た。森の中に制限時間を1日に延長したバージョンのポータルを作っておいたから、逃げるときはあそこ集合にしよう」


 そう言って、あんまり朔夜ちゃんの方を見ないようにしながら先ほど作ったポータルの横に新しいポータルを作る。

 ポータルを作って振り向いても、朔夜ちゃんはまだ踊っていた。

 これ、聞いても大丈夫なヤツだよね?


「その踊りってなに?」

「私の魔法のオリジナルになった魔法少女がね、こうやって精神集中したりするから真似してみたんだ。本当に効果があるのかは分からないけど……さて、そろそろ呪文詠唱行くわね?」


 あ、ちゃんと理由があったんだ。

 歌ったり踊ったりしてパワーアップする系なのね。

 ピタリと踊りをやめ、短い杖を水竜がいるだろう方向に向ける朔夜ちゃん。

 戦闘服がキラキラと光っているのはラメのせいだけなのだろうか?

 あれ? 戦闘服がウエディングドレス、じゃない?


「また、戦闘服が変わってる?」


 踊りをやめた朔夜ちゃんの服装は、よく見ればウエディングドレスじゃなくなっていた。


 色合いは同じラメ入り純白で、腰回りがふわりとしたラインだから、後ろから見たら似てなくもないけど。

 なんて言うの? こう、強いて言えば。あくまでも強いて言えばだけど、アイヌの民族衣装アットゥシっぽいのに変わってる。

 ベースはラメ入り純白で朱色の縁取り。

 裾と帯には朱色とラメで四角い幾何学模様っぽいのがキラキラ。

 足元は多分普通のショートブーツ。鮭の皮じゃないと思う。

 耳には大きな丸いイヤリング。

 首にはなんだろあれ、50円玉を飾ったチョーカー? に、大粒の宝石を連ねて鏡をぶら下げた大きなネックレス。

 額にはバンダナみたいのを巻いてる。

 ステッキの形状は片刃の直刀っぽい何か。


「ふっふっふ、私はあと2回変身を残しているのです」

「マジですか」

「実際にはもっとかな。上限はあるけど、任意の組み合わせでデザインを登録できるんだ……色の選択肢が少ないのが不満だけど」

(水竜が来るぞ! 水面で加速して、速度をあまり落とさずに島に上陸。減速がなければ推定100秒で接触だ)


 コンパクトを確認すると、水竜が空を飛んでいた。7キロを100秒って事は、時速はざっと250キロ? 海上で加速しまくった勢いで飛んでるらしい。

 今もかなり低空を飛んでいるけど、陸には木が生えているから地面効果グランドエフェクトが得られるほどの低高度じゃない。これなら速度は落ちるね。


 と、突然、映像が乱れた。

 水竜の周囲を大雨? 嵐? が覆っているようで、画面が白で覆われた。


「見えない……どうなってるか分かる?」

(強い雨と風。海上で猛烈な嵐がいきなり発生し、急成長して水竜を飲み込んだ……で、水竜は大きく減速しつつもこちらに向かっている)


 言われて水竜の方向に視線を向けると、大きな雲の塊が接近してきていた。

 よく見れば、雲の下は真っ白い柱が立っている。あれは雨かな?


「減速ってどうして?」

(小さい台風のようなものが海上に発生した。風は台風の目に向かって吹く。水竜は今、向かい風の中にいる)


 あー……てっきり嵐で発生した風に乗って加速してくるのかと思いきや。

 ……そういや、水に関する現象はランダムとか言ってたっけ。


 しかし、嵐ねぇ……これも私たちの魔法では相性が悪い。特に大雨は天敵だ。

 まあ、一手間余計に必要になる程度ではあるけど。

 もしも接近してから嵐を使われてたら、その一手間が致命傷になったかもね。

 でもこの距離でならちゃんと考えて余裕を持って対処できる。


「朔夜ちゃん、魔法解除がくるかもだからコンパクトを準備してから詠唱開始して」

「了解」

「危ないときは私に構わずに逃げてね。私は転移で逃げられるんだから。もしもの時は、初めて私と会った森で待ち合わせだからね……それじゃ、対消滅反応弾を再装填リロードっと」


 猛烈な嵐は勢力を急速に拡大しつつあり、私たちのいる辺りの空でも、嵐の中心に向けて雲が流れ始めていた。

 前方の空は黒く、その下は豪雨。


 水竜はあの雨の柱の中かぁ。


 私たちの周囲でもかなりの風が吹き始めている。

 ピンクの長い髪が風で舞い、視界の中にチラチラと入る。のみならず、銃のスコープにも絡まる。


「あー! もー! 髪が鬱陶しい! 管理精霊、これ、サイド編み込んで後ろでシニョンにできない?」

(可能だ……やっておこう)

「ついで、髪の色を黒にしてもらえると」

(色の変更は許可されていない)


 ちっ!


(水竜まで2キロを切ったぞ)

「朔夜ちゃん。そのまま魔法発動は少し待って。私の方で風と雨を吹き飛ばす」


 私の魔法は水に当たれば拡散させられるが、同時にその一部を蒸発させる。

 それを利用すれば、一時的にでも雨粒と雲を吹き飛ばせると思う。

 竜巻や台風なんかの回転方向は……北半球でなら反時計回りだっけか?

 なら狙うのは中心から左側で良いか。

 朔夜ちゃんの攻撃を当てないとだから、水竜への直撃は避けないとね。


 私はコッキングレバーを引いて初弾を装填した。

 そのままMP5SD6を構え、スコープを覗く。

 管理精霊が水竜の位置を表示しているので、そこを避け、少しだけ左寄りを狙い、安全装置のレバーを単射に切り替える。


「撃つよ!」


 風に負けないように大きな声でそう言ってから引き金を引く。

 カシャンッと言う軽い音の後、集まりつつあった雲と、そこから生まれた大量の雨が白く閃光を放った。

 相変わらず音も爆風も私たちの方には向かってこない。ただ乱反射した光だけが戻ってくる。

 弾頭重量8グラム。水滴や空気が8グラム。合計16グラムの対消滅反応だ。私が考えた仕様通りなら、発生するエネルギーは銃弾一発だけでも広島型原爆の23発分に近い。

 光が通過した後には雨も雲も、水竜の姿も残っていなかった。

 だけど。

 これで倒せるような相手なら苦労はしていない。

 スコープを覗いても視界内に水竜を示すマークは見えない。


「管理精霊、水竜の方向と距離を」

(お前のスコープが見てる右側に1キロほど吹き飛んだ)


 直撃を避けてもそれだけ吹き飛ぶんだ。

 まあ結構な大雨だったからね。

 エネルギー量がとんでもなかった、というのに加えて発生した水蒸気も多かったんだろうね。


「まだこっちに向かってくる?」

(ああ、変わらずに。意地でもお前達を食いたいようだ。今回は大した傷はなかったらしく、既に速度は時速120キロ。直線距離で1.5キロで推定接触時刻は45秒後だが、ヤツはまだ加速できる筈だ。油断はするな)


 私はスコープを覗き込むと、スコープ内に管理精霊が表示した水竜のマークで方向を確認する。

 あ、あれがそうか。結構低いところを飛んでるから、見落としてたよ。


「朔夜ちゃん。水竜は低空飛行しているよ。目視確認出来たら魔法を!」

「……漆黒の盾よシュバルツシルト!」


 朔夜ちゃんが杖だか短剣だかを掲げると、生み出された光の珠が水竜に向かう。

 と、光の珠が命中するよりも先に水竜が真上を向いた。


「魔法解除! くる!」


 このタイミングでか。

 魔素を吸収しまくってないのにこれを使ってきたと言うことは、朔夜ちゃんの魔法がそれだけ脅威と判断したのかな?

 などと考える間もなく、私は朔夜ちゃんに魔法解除の警報を出しつつ、MP5SD6の安全装置が掛かっていることを指で確認し、銃を首からぶら下げコンパクトを抱きしめる。


「……あれ?」


 しかし、数秒が経過してもセーラー服は消えなかった。

 何があったんだろう? と水竜の方に視線を向けると、水竜は体を垂直に立て、急減速しつつ急上昇をして、朔夜ちゃんの魔法を避けていた。


「プガチョフズ・コブラ? 違う上昇してる。真上向いたのは、単に上に行きたかっただけか、紛らわしい! 朔夜ちゃん。下がって詠唱再開!」


 プガチョフズ・コブラとは、ロシアのプガチョフさんが披露した飛行機動マニューバで、水平飛行中、機体の高度と進行方向を変えずに機首を90度上に向け、その後、機首を元の方向に戻すという飛び方で、だから、上昇している水竜のそれはプガチョフズ・コブラ・マニューバではない。


 水竜は無茶な飛行機動をしてまで朔夜ちゃんの魔法を全力で回避した。

 一回目は当たらなかったと思ってたけど、あの過剰反応を見るに、少しは痛い目に合っているのかもしれない。


 私はMP5SD6を抱えて朔夜ちゃんの前に出ると、銃を構えて水竜の姿をスコープに捉える。

 水竜は上昇から水平に転じる途中で、こちらに腹を見せている。私の攻撃で倒せる自信があればそこを狙うんだけど、下手に当てて吹っ飛ばしちゃうのは避けたい。

 安全装置のレバーを三点バーストに切り替え、そのヒレの先端を狙って重量8グラムの弾頭を3発発射する。

 パラララッと軽い音の後、再び私たちの眼前に光に包まれた地獄が現れた。


 発生した爆音や爆風、熱や光はすべて水竜に向かう光に変換されるため、私たちには音は聞こえないし、爆風も感じない。光だけは、何回か反射したものが戻ってきていて、それがかなり眩しいが、今回は霧などがなかったため、見えないほどの乱反射は発生していない。

 光の奔流が収まった後、そこには、片方のヒレと、胴体の一部を失って地面に落ちた水竜の姿があった。体積にしたら。体の4割近くを喪失しているのに、なんでこれで死なないんだろう。


「管理精霊、朔夜ちゃんの詠唱は?」

(あと、15秒程度だな。朔夜、慌てる必要はないぞ。慎重に、丁寧にな)

「15秒程度なら……まあ余裕そうね」


 水竜がバタンと跳ねる。

 何をするのかと緊張しながら銃口を、水竜がこちらに向けた無傷のヒレに向ける。

 しかし、水竜はそれ以上跳ねることもせず、地面の上で動きを止めていた。


「管理精霊。水竜周辺の魔素は?」

(うむ。かなり薄まっているな。治癒に回しているのだろう)

「なら暫くは飛べないわね。朔夜ちゃんの魔法が早ければチェックメイトかな」


 銃口を下ろす。

 私の攻撃ではトドメを刺せるかが分からない。もしまた吹き飛ばしちゃったら今度こそ逃げられてしまうかも知れない。

 でも朔夜ちゃんの攻撃なら、見た感じマイクロブラックホールみたいな何かを大量発生させてるっぽいから、直撃すれば水竜は逃げられずに消滅するかも知れない。


 きちんと理由あってのことだ。

 決して舐めていたわけじゃない。

 だけどそこには、もう相手に打つ手は残っていないという私の驕りがあった。


 どかん、とものすごい音が響き渡り、水竜がいたあたりが真っ白く染まる。


(上だ! 奴め! 自分の真下の地下に水を生み、水蒸気爆発させおった。さっきも自分がランダムに生み出した嵐に翻弄されていたのに、このタイミングで狙ったかのように!)


 管理精霊の声に振り仰げば、水竜の体が宙に舞っていた。

 体の半分近くが消えてたはずなのに、既に8割近くまで回復している。魔素がある限り不死とか言わないわよね?

 水竜の巨体は、その巨大さゆえ、ゆっくりと上昇しているように見える。そして、放物線の頂点で速度がゼロになる。

 そのまま、ほとんど速度を感じさせない水竜の向かう先には、私たちのいる火山があった。


 何が起きたのかを理解できないまま、それでも朔夜ちゃんは魔法を放ち、それが再び水竜の体の後ろ半分を消し去る。

 それでも水竜はまだ生きていて、私たちを睨み付けていた。

 最強の精霊竜の一角としての矜持プライドをズタズタにされて、その命すら力に変えて挑んでくる……て言うか、あんた回復が早すぎでしょ!


 私も銃口を水竜に向けて引き金を引くが、安全装置が掛かったままで発射されず、慌ててフルオートに変えて撃ち始める。

 が、空に向けて撃った経験がないことが災いし、銃弾はすべて上方向に飛んでいき、そちらで光に変化した。


 そっか、銃は銃弾が落下することを計算に入れて斜め上に飛ぶ作りになってるから、真上に近い角度に撃つと落ちずに上方向に逸れるんだ。


 落下してくる水竜に私は再装填リロードをして連射する。

 反動は大きいし妙なズレ方をするけど、ズレが分かっていれば合わせられる。

 でも。

 このまま撃ち続けていたら、数秒後、かつてない至近距離で対消滅反応が発生する。


「……あの手を試してみるしか…………健康にはあんまりよくなさそうだけど」


 私は、再装填リロードを行いコッキングレバーを引くと、銃口を落ちてくる水竜に向け、数発放って落下速度を減速させて後方のポータルに触れた。

 頼むわよ、私の戦闘服セーラー服


「朔夜ちゃん。ちょっと行ってくる! 水竜を引き連れて上空8500メートル。転移」




 まず感じたのは寒さ。

 自由落下と呼ぶにはいささか不自由な落下の感覚。

 耳元で、ゴウゴウ、ヒューヒューと風の音がものすごい。

 少し遅れて息苦しさ。

 吸っても吸っても、呼吸が全然楽にならない。

 うん。まあね。エベレスト8848mには及ばないけど、8500メートルは人間が装備なしで上がれるとされる上限高度8000mを超えている。

 急激な気圧変化は戦闘服が軽減してくれてるみたいだ。潜水病にならなくて助かったよ。

 結構寒く感じるけど、温度低下も軽減されてるっぽいね。高度が1キロあがると6度低下するってのが本当なら、8キロ上昇すれば48度の低下。でも体感温度は真冬の都内の最低気温マイナス2~4度レベルだ。


 ――一定以上の破壊力を有する魔法は、接触前に無効化される。一定以上の衝撃も同じくだ。衣類に触れる前にエネルギーが安全レベルまで低下する。むき出しの顔や手も防御範囲に設定されているし、状態異常毒などへの耐性もある


 気圧変化を衝撃や破壊力と捉えたのか、状態異常と捉えたのか。それに安全レベルまで低下だけじゃなく、上昇もしてくれてるのかも知れない。でもまあそんな考察は後回し。

 今はとにかくがない。


 私の上空には水竜。

 うん。ぶっつけ本番だったけどできた。


 ――脳裏に描く場所に、触れた者本人と、と、触れた者の装備品や所有物を転移させる


 他の人を伴ってとか、大きくて手に持てない荷物や自動車とかを転移させるための条件だったんだけど、水竜も連れてこられた。


 見上げると水竜との距離が少しずつ開いていた。

 その巨体が、0.3気圧のこの高度でも大きな空気抵抗を生むのか、落下速度は私よりも若干遅め。

 そして、私たちの周囲には大量の雲。水竜との戦いの結果生まれたキノコ雲かな? これは想定外だけどありがたい。


 これなら行けるかな?


 私の攻撃で足りるかどうかは分からないけど。

 初めて体験する自由落下に苦労しながら、私は姿勢を変えて水竜に銃口を向けた。


 あ、この高度でも銃って使えるのかな? ま、撃てば分かるか。

 安全装置のレバーを連射に。

 フルオートで全弾射出。


「うわわわわっ!」


 自由落下で踏ん張れないもんだから、銃口が暴れる暴れる。

 でもそれで構わない。ランダムにばら撒かれた方が逃げ道がなくなる。


 雲が反応して光に変わる。

 水竜が光に飲まれる。


 さっき、嵐の中の水竜のヒレを狙ったら水竜は1キロ吹きとんだ。

 必要なのはその飛距離。


 光が薄れるとそこにはまだ水竜の姿があった。見た感じ、直撃はしなかったっぽい。

 真空になった射線に流れ込んでくる大量の雲が水竜を覆い隠そうとする。


再装填リロード!」


 コッキングレバーを引き、初弾を装填。

 安全装置を連射にして撃ちまくる。

 スコープを使わず、反動を自分の体の重心に置くようにしたらブレが小さくなった。

 その分反動が、ストレートに私を押し下げようとする。

 光の中、水竜が口を開いたような気がした。


再装填リロード!」


 またしても連射。

 突然、乱反射する光が増えた。

 すっごい眩しい。

 水竜、ブレスでも使った?

 だとしたら願ったり叶ったりだ。


再装填リロード!」


 念のため、トドメの連射。

 折角、こんな所まで連れエスコートしてきたんだ。油断しないできっちりやりきるよ。


再装填リロード!」


 初弾を薬室チャンバーに入れたところで、人差し指はトリガーガードに掛け、引き金を引かずに上空を確認する。

 周囲の雲もあらかた灼けたようで、濃紺の、宇宙みたいな空がそこには広がっていた。

 雲に空いた大穴から空を覗き込むが、そこに水竜の姿はなかった。

 灼き尽くしたのか。

 それとも反動で更なる高みへと飛んでいったのか。


 ふと気付いてスコープを覗くと、水竜のマークが映り込む。

 まっすぐ上に水竜はいるらしい。

 でも肉眼では見えない。


 うん。10キロとは言わない。

 5キロくらい上空に吹き飛んでくれてれば……ええと、あれ? かけ算できない。

 これは酸欠かなぁ。酸欠だよねぇ。

 さて、どうやって地面に落ちるんだっけ?

 落下の衝撃も戦闘服がカバーしてくれるかな?

 水面に落ちたら助かるかな?

 この高さだと地表到達時の速度は……かけ算めんどくさい。


 確か無事に落ちる方法はちゃんと考えてたはずなんだけど。

 ええと、たしか。

 そうそう。


「銃口から出たら、銃口から5センチ先に相対位置を固定したポータルを作成する銃弾。装填」


 カシャン。とコッキングレバーを引いて初弾装填。安全装置レバーを単射にして準備完了。

 行けるかな?

 頭痛くて眠くなってきたし、いいや、行っちゃえ。


 引き金を引く。

 目の前にポータルが生まれる。

 MP5SD6の安全装置を掛けようとすると、銃口の動きに連動してポータルが移動する。

 何コレ面白い。

 と、それどころじゃないんだっけ?


 私はそれに触れる。

 つるりとした感触は、コレジャナイ感がとても強い。


「朔夜ちゃんのところ。転移」




 はあー、ぬくい。

 空気が美味しい。

 頭痛いのは続いてるけど、楽になってきた。

 てゆーかあれ?

 ぬくい空気が体を撫でているけど。

 何でまだ落下してるの私。


「陽菜ちゃん!」


 背中に翼を広げた朔夜ちゃんが上から私を抱きしめ、ふたりでズルズルと高度を落としていく。


「朔夜ちゃん、なんで飛んでるの?」


 見れば結構な高さだ。うん。雲が真横に見える。

 てゆーか、あれ?

 ポータル弾丸って、転移先の『場所』のイメージが必要じゃなかったっけ?

 なに私、朔夜ちゃんを転移先に指定してるかな。

 転移できたから良かったものの、失敗していたらそのまま朦朧として、意識を失って死んでてもおかしくない。


「精霊さんが、このままだと陽菜ちゃんが音速で地面にぶつかるって言うから」


 だから迎えに来たと?

 音速で落下する私を捕まえようとしてたのか。

 落下速度だと、終端速度はルート2ghだっけ?

 えーと……面倒だから重力加速度10で計算すると……うん。確かに秒速370メートル超えそうだわ。

 すげー、空気抵抗がなければ生身で音速突破するところだったよ。


「お迎えありがとう。何とかするから、とりあえず、ちょっとそのまま無理のない速度でゆっくり落下しててね」



=====

補足


>私の魔法のオリジナルになった魔法少女がね

特にモデルはいません。


>足元は多分普通のショートブーツ。鮭の皮じゃないと思う。

アイヌ民族のブーツは鮭の皮を使ってます。


>50円玉を飾ったチョーカー

50円玉じゃなく、倭人が使う貨幣ですね。


>私はあと2回変身を残しているのです

私の給料(手取り)は53万です。とか言ってみたいw


>サイド編み込んで後ろでシニョンに

この指示ですぐに対応できる管理精霊さんマジスゲーw


>プガチョフズ・コブラとは、ロシアのプガチョフさんが披露した飛行機動(マニューバ)で、水平飛行中、機体の高度と進行方向を変えずに機首を90度上に向け、その後、機首を元の方向に戻すという飛び方

Pugachev's Cobra。空気抵抗が大きいから急減速します。そのまま落下して木の葉落としとかやるのが好き(エースコンバット)。


>銃は銃弾が落下することを計算に入れて斜め上に飛ぶ作りになってるから、真上に近い角度に撃つと落ちずに上方向に逸れるんだ。

逸れます。落下することを計算して作られてるのです。

戦艦の主砲って上向いてますよね、あそこまで露骨じゃないけどあんな感じです。で、もしも戦艦を直立させて主砲を撃ったら仰角を変えとかない限り逸れます、みたいな?


※高度8500メートルで何をやっていたのかは、次話で少し解説が入りますのでお待ち頂けますと幸いです。なお、設定との食い違いがありましたが、わざとです。全部じゃないけどそのあたりも次話で。。。

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