第22話 なぁにが「空間まるごと灼いてあげるわ」よ
私の対消滅反応弾80発と朔夜ちゃんの重力魔法で水竜を倒したと思ったのもつかの間。
(なんだこれは……水竜は倒した……少なくとも休眠状態に持ち込んだと思ったのだが……なんなのだこれは)
管理精霊が驚愕の声を上げた。
「何が起きたの?」
(30キロほど離れた場所で水竜が活動を開始した? 別固体が偶然近くにいたのか? だが、反応は先ほどのものと同一……一体何が)
緊急事態なら事実だけほしい。
「距離と方向は?」
(先ほどの射線のまっすぐ向こう。距離は30キロ)
「どういう行動してる?」
(こちらに向かって移動中だ。速度は……うむ。時速30キロほどだが、少しずつ増速している。コンパクトにレーダーを出す)
そう言われてコンパクトを開くと水晶に水竜レーダーが表示される。
確かにこっちにまっすぐ向かって来てるみたいだ。
速度が遅いのは別固体なら個体差? 同一固体ならダメージの影響だろうか?
射線の向こう側ってことは、私の対消滅反応弾で弾き飛ばされた?
でもそんな遠くまで?
「さっき、この島に来たときの水竜って、時速180キロとかだったよね。それが現在30キロって、理由は推測できる?」
(待て……水竜周辺の魔素濃度が急激に低下していて、映像を確認できない。だが、水竜の速度が出ていないのはそれが理由だと思われる)
魔素が薄いと早く飛べないんだ?
「それって、飛行には周辺魔素が必要だけど、今は魔素が薄くて飛行に支障が出てるってこと?」
(ああ。飛翔魔法は、周辺魔素を足がかりにして加速する。だから、周りに魔素がなければ動きは鈍くなる。魔素濃度の薄さと速度の遅さは、想定される範囲内で符合している)
「ぼやけてても良いから、とにかく早く映像を頂戴! 魔素が減ってるってことは、さっきの水竜が回復中なのかも……で、朔夜ちゃん、さっきの重力魔法が朔夜ちゃんの最強魔法?」
「原作の設定ではもっと強力って言われてるのもあるけど、個人的にはさっきのが最強だと思ってるよ」
設定がどうあれ、威力を決めるのは朔夜ちゃんのイメージだろうから、朔夜ちゃんがそう言うのであればそれが真実となるのだろう。
「それじゃ、合図したら重力魔法を用意して……私の方は、個々の銃弾の威力増加は、MP7A1のままだと難しいんだよね……どうしよう?」
打ち出せる弾頭の質量が決まっている以上、それが一発当りのエネルギーの上限を決定する。
対戦車ライフルとかいうのなら、きっと銃弾も重くて、発生するエネルギーも増えるんだろうけど、私が射撃の反動に耐えられないだろうし。
あ、拳銃に使われる9mmパラベラムは弾頭重量が4.6mmの4倍もあるんだっけ。
拳銃の反動なら耐えられるかな? エアガン触ったことあるから操作は分かると思うけど、スコープなしだと当てられるかどうか……あ、そうか。これ出来るかな?
「ステッキの機種変更。MP7A1からMP5SD6。スコープ付きで」
ピンクの
太いサイレンサーに伸縮ストック。
バナナ状に曲がった細いマガジン。
全体的なフォルムはMP7A1に似ていなくもないが、マガジンの位置が
安全装置には連射、単射に加えて……これはもしかして三点バースト?
弾頭が重たくなれば破壊力が増すかと思ったけど、フルオートした場合の反動が怖かったんだよね。三点バーストがあるのはありがたい。
エアガンは撃ったことがあるけど、所詮はおもちゃだ。全部が同じとは限らない。
でも銃弾が重くてそれなり命中しそうな銃の中で、私がおもちゃであっても触れたことがあるのはこれ一択。
太いサイレンサー。特にこれと言ってギミックはなさそう。
その手前にハンドガード。その左上にコッキングレバーがある。スコープに手を引っかけないように気を付けよう。
フロントサイト、リアサイトは残っているけど、その間にスコープが入ってるから使えない。スコープはMP7A1についていたのと同じ仕様っぽい。マウント方法は違うけど。
マガジンの付け根部分には、レバーとボタンがあって、どちらを操作してもマガジンが取り出せる。
伸縮式のストックは、銃の後端のレバー操作。
……うん。エアガンと同じね。
あとは。
「一番重いフルメタルジャケット。全弾装填」
僅かに重量が増したのを確認し、マガジンを抜いてみる。
うん。薬莢に段差のない弾丸が詰まっている。
弾丸は弾頭の直径がMP7A1の二倍くらいあるのに、全体的に長さが短い……だからマガジンが細いんだね。
それにこれって……その場でしゃがんでマガジンから弾丸をぽろぽろ押し出してみると、
「うん。30発だ。装弾数も違うんだ」
10発も少ないんじゃ、使いにくいかな?
まあ、念じるだけで再装填できる私にはあんまり関係ないか。
「朔夜ちゃん、ちょっと普通の銃弾で試射するから」
「え? うん……それにしてもピンクの鉄砲って、なんか可愛いかも?」
「うん。まあ、私もそろそろ慣れてきたけどね。それじゃ、適当に撃つからうるさかったらごめんね?」
少し離れたところにある私の身長よりも大きな岩の地面から1メートルくらいの位置にある、ちょっと凹んだ場所をスコープで狙ってまずは単射。
引き金は拳銃なんかのと同じで、MP7A1みたいに引き金に安全装置が仕込まれていたりはしない。
スッと引き金を引くと、カシャッとパン、が混じったような音。
音はMP7A1よりも遙かに小さい。というか、電動エアガンみたいな? こんなに違うものなんだね。
でも反動は結構大きい。火薬が生み出すジュールは同程度なのに。やっぱり銃弾の重さって重要なんだろうか。
命中精度は……うん、スコープで拡大してみると、地面から1メートルくらいの、ほぼ狙った場所に当たっている。
上下のブレがなかったのは、たまたま調整した距離と試射した距離がマッチしていたからだろうけど、横方向のブレもほとんどなかった。
反動は強いけど割と保持しやすい形だからかな。
「次、三点バースト」
射撃姿勢を取り、安全装置のレバーを、銃弾が三つ並んだマークに切り替える。
引き金を引くと、パララッと、おもちゃみたいな軽い音。飛び散る薬莢の音の方が耳に付く。
ただし、撃ってる私は結構大変。
結構本気で押さえ込んでるんだけど、銃口が少し暴れる。
一発目は狙った位置に当たった。
二発目はその20センチ上。
三発目は二発目の右50センチで下30センチ。大きな岩だから当たった場所が分かるけど、シューティングレンジで使った的だったら、的から逸れてたかも。
「……一応、同じの
安全装置のレバーを銃弾がたくさん並んだマークに切り替える。
しっかりと両手でマガジンと
パラララララッという軽い音が続く。
おもちゃみたいな音に反して反動はかなりきつい。
成人男性ならともかく、12歳の東洋人の女の子にはかなり厳しい。
一発目はちゃんと当たってる。それだけじゃなく、10発くらいは狙った場所の直径30センチ付近にめり込んでいる。
でもそれってつまり、20発は外れてるってこと。
100メートルくらい離れて撃った結果、弾丸はブレまくって、一番外れたのは地面に当たっている。でも大半は狙った場所の上下50センチ以内にまとまっている。まとまってるって言って良い集弾率とは思えないけど。
うん。緊急時以外はフルオートは封印だね。
「陽菜ちゃん、さっきまでの鉄砲よりも静かだったね?」
「まあ、弾速が違うからね」
「弾速……弾丸の速度? で音の響き方が違うの?」
「私も詳しいわけじゃないけど、MP7A1の弾丸はマッハ2。この速度だと銃声はガスが膨張する際の破裂音だけじゃなく、音速を超えたことによる
「なるほど今使ってるのは音速を超えないから
「そういうこと」
朔夜ちゃんとそんな話をしていると。
(……映像、拾えた。出すぞ)
管理精霊の声が聞こえた。
慌ててコンパクトを確認すると、水晶のレーダーの上にフロートディスプレイ? が表示され、そこに水竜の姿が映し出された。
ゆらゆら揺れて見えるのは、そこが海面上空だからだろうか。それとも、水竜そのものが熱を持っているのだろうか。
それにしても。
「うわ、グロ。これ、生きてるの? あ、朔夜ちゃんは見ない方がいいかも」
「うん、ゾンビって言われても納得しちゃいそうな見た目だね……これはちょっと子供には見せられないかも」
朔夜ちゃんは気持ち悪そうにそう言った。
いや、あなたも十分に子供だからね?
あれ? 朔夜ちゃん、なんで私の頭を抱え込んで目隠しするの?
ってそうかっ! 子供って私のことかっ!
ジタバタと朔夜ちゃんの抱擁から抜け出し、再度コンパクトを確認する。
水竜の姿は、イトマキエイに似ているけど、胴体部分はサメっぽく丸く盛り上がっている。
その体積は私たちが対峙したときの半分程度になっているように見えた。
具体的には、片方のヒレが完全に欠落し、もう片方も半分くらいなくなっている。頭部は頭蓋骨が見えていて、胴体部分には正面から攻撃が直撃したのか、大きく抉れた傷が数本走っている。
そこら中から血のような液体が流れ出ているが、体に空いた穴の位置と大きさを考えると、その量はとても少なく見える。
ポタポタとしたたり落ちる血液は、空中で溶けるように消えていった。
そして傷は見て分るほどの速度で小さくなっていく。
この回復速度では、元々どの程度の傷だったのか、ちょっと見当も付かない。
「魔物って、魔力の影響を受けただけの動物って認識だったんだけど、これ見る限り、文字通りの化け物だね」
(魔物は魔素を操るため、様々な形質が強化されている……見たところ、水竜は活動可能な状態を維持していて、時間経過で回復しつつある。こちらに向かってきている理由が気になるところではあるな)
こちらに来ている理由。
「そう言えば水竜って、さっき、私たちの攻撃を受けたとき、回復してたよね。今の水竜って、周囲の魔素を使って回復してるんじゃない? だから、魔素が薄くなってるとか?」
(確かにそのように見える。傷が小さくなるに連れて周辺魔素の減少が小さくなっていることも、それを裏付ける)
ふむ。
これ以上見ていても仕方ないか。
こっちに来るって言うなら、対処するための準備をしておかなきゃだし。
「管理精霊、観測を継続して。動きや速度が大きく変化したら教えて」
(承知)
さて。
やりたかないけど、一応、再戦の可能性があると考えて行動しよう。
「現状は情報が不足しているから、さっきのと類似の攻撃をします。朔夜ちゃんは合図したら詠唱開始お願いね?」
「さっきと同じ攻撃をするの?」
「効果がなかったわけじゃないからね。でも同一じゃなく類似ね。順番は変えるよ。最初に朔夜ちゃんの重力魔法。その効果を目視確認してから私が足止めをして、その間にもう一回重力魔法の詠唱。できる?」
ロールプレイングゲームの魔法使いなんかと違って、魔素を生み出す
だからと言って好きなだけ魔法を使える訳ではない。
何回も使った感じ、連続使用すると集中が切れそうになる。
だから念のためにそう尋ねてみたわけだが、朔夜ちゃんはきょとんとしていた。
「詠唱時間さえくれれば、何回でも撃てるよ?」
これが若さかっ!
「そっか。あ、管理精霊は水竜の座標を監視。それと、可能なら水竜がどうやって生き延びたのかを考察して」
(うむ……先ほどから考えてはいた。可能性としてだが、水竜がブレスを使ったのかも知れぬ。あれは高圧で水を噴射する)
「水? 光が屈折、拡散されても、水が蒸発したところに次の光がくると思うんだけど」
パルスレーザーのように。
先に当たった光が道を作るから、次の光は更に奥まで突き進める。筈。
(光の到着に時間差があることを分った上でだが、水竜から大量の水が供給されている状況で、その水に着弾し、光が拡散して水竜本体への直撃が少なく済めば、水竜が一回目の連射を生き延びられた可能性はある……というか、実際に生きてるんだから生き延びたんだろうよ)
「でも、二連射したんだよ? 一回目は偶然ブレスとぶつかったかも知れないけど……」
(一連射目が今言ったような状態なら、水竜は発生した水蒸気で弾き飛ばされたのではないか?)
「ん? ……なるほ……ど?」
水のブレスで光が屈折拡散させられるけど、その際に水が蒸発する。
それを繰り返して光が通る道を作ると思ってたんだけど……うん。確かに大量の水蒸気が発生しちゃったら、水竜が吹き飛んでもおかしくはない、の、かな?
多少の水蒸気は想定してたけど、水竜を吹き飛ばすほどとは想定してなかった。
吹き飛ばす前に本体に光が当たると思ってたし……でもまあタイミングとか角度によっては、ありえなくはないのかな? 光の範囲外に弾き飛ばしたら、その後の光が当たらなくなるだろうし。
(だが、証拠はないぞ? 我が権能は全知全能にはほど遠い)
「まあでも、説得力はあったよ。とりあえず、その仮説に則って対策を決めよう」
「それで、陽菜ちゃん、私は何すれば良いの?」
「ん、と……さっきの指示通りかな。初手は朔夜ちゃんの重力魔法。効果があるようなら次は私が時間稼ぎ……まあ、水竜が吹き飛ばないように、今回は水竜のヒレとか狙うよ。連射はしないで単発か三点バーストでしっかり狙って。で、最後が朔夜ちゃんの重力魔法……まあ、初手が効いてない場合は連射して吹き飛ばす方向にシフトするけど。とにかく、こっちが先手を取って、相手に攻撃はさせないことを優先しよう」
(水竜が動きを止めた。傷はまだ残っているが、傷跡レベルにまで回復している)
慌ててコンパクトを覗くと、確かに水竜の傷跡が塞がって出血が止まっていた。
まだ傷跡は凹んでいて、肉は足りていないようだが、皮膚はあらかた塞がっていた。
「あれ? 何やってるんだろ?」
水竜は大きく口を開けて、そのまま海にダイブした。
「潜っちゃったね」
(まあ元々海棲の魔物だ。住処に戻ったとも言える。傷が塞がって、魔素が豊富な大気中に留まる必要がなくなったのだろう……しかし、このまま海中を通って接近された場合、対消滅反応弾では対処が難しくないか?)
あー、うん。
たしかに私の対消滅反応弾は純粋エネルギーを光にした強力なレーザーの親戚みたいなものだから、水の中を狙い撃つのには向いてない。
ええと1カロリーがざっくり4.2ジュールだから、MP7A1の4グラムの反応で得られるカロリーは90兆(J)×4(g)÷4.2……ざっくり85兆カロリー?
計算が面倒だから海水じゃなく真水と仮定して、温度上昇幅を100度としたら8500億カロリーで……ってことは8億5000万キロカロリーか?
1キロカロリーが1リットルに対応するから、更に1000で割って単位をトンにして、85万トンの0度の水を沸騰させるエネルギー量?
あれ? なんか少なく感じるな。85万トンってどのくらいだろう?
1トンは1mの立方体だっけ? 25mプールが私が通ってた中学校だと25×15×1で375トンくらい?
……てことは……。
あれ? 計算あってる?
4グラムが対消滅する際のエネルギーは、0度の25mプール2286杯分の水を100度にする程度でしかないの?
うわぁ。
なぁにが「空間まるごと灼いてあげるわ」よ。
いやまあ、ほらでも、25メートルプールを基準にしたのが間違い、だったのかも?
500メートル四方、深さ3.4メートルまでを瞬時に沸騰させるって考えると、それはそれで結構凄いし?
85万トンの水が沸騰して1700倍になったら14億立方メートル超えるし?
そ、それにあれだよ。
MP5SD6の銃弾は9×19mmパラベラム弾でMP7A1のより重い。見た感じ、4.6×30mm弾と比べて弾頭部の長さは2mmくらい長くて、直径が約2倍になったんだから、材質を考えなくても重量は4倍程度。アイアンコアから鉛が芯になった拳銃用のフルメタルジャケット弾なら、もう少し重くても不思議はないl
弾頭が8グラムなら反応質量は16グラムになるから、一発当り、0度の水を100度にするとして、4倍の340万トン。
うん。今回は卑近な例には落とし込まないでおこう。きっとそれなりに凄い量なんだ。
まあそれはさておき。
「水中の敵には私の武器だと辛いね。かと言って、朔夜ちゃんの魔法も霧が海水を吸い込んだだけで、ごちそうさまってなりそうだし」
「でも、相手だって海から出てないと私たちを攻撃できないから出てくるよね? 出てこなくても攻撃できるのかな?」
(この島の直径は16キロほどだ。ヤツの魔法解除は端から端まででも届く。ブレスの射程は先ほど見た限りでは射程数百メートル程度。海からではこれは届かぬ。水をランダムに操る攻撃の射程は不明だ。そもそもあれが攻撃なのかも分からぬ)
今私たちがいる火山は島の中央付近だ。どちらを向いても海まで7~8キロ。
水竜の動きはコンパクトで追えるし、魔法解除されても水竜が8キロを移動するには、時速180キロ出したとしても160秒は掛かる。
それだけあれば変身して、朔夜ちゃんの詠唱も十分に間に合う。
接近される前にたたき落とせるだろう。
でももしも、どうしてもダメそうならポータルを使って脱出する。と。
私はコンパクトに視線を落とした。
海の深いところにいるのか、映像は真っ暗で、水竜レーダーのみが、その位置を教えてくれていた。
「水竜って水中でも飛ぶのと同じくらい速いんだね」
海の生き物ってそういうものだっったっけ?
(いや、むしろなぜ水棲の魔物が空であの速度が出せていたのかが不思議なんだが)
「ねぇ陽菜ちゃん。今のうちに転移魔法の実験しようよ」
「あー、うん。ええとそうだね、新しいポータル出すね」
私はポータル弾を再装填すると、近くに新しいポータルを作った。
「さっきはあんまり見てる余裕がなかったけど、青いね」
「うん、青いんだ。本当はゲームなんかにある光るポータルのイメージだったんだけど、なぜかこうなった。まあ使えるからいいかな、って……で、これ片道だから気を付けてね? ポータルに触れて転移したい場所をイメージして、転移って唱えるだけで転移する。あ、入り口のポータルは2分で消えちゃう仕様」
「片道? 帰りは自力?」
「そうそう。だから試すなら、ここからだと、せいぜいこの山の麓とかまでかな? 転移先が見える場所なら、私が転移で追い掛けて、新しいポータル作ってもいいし」
「それじゃ、さっき、陽菜ちゃんを下ろした海岸……は、なんか燃えたり溶けたりして凄いことになっちゃってるから山の反対側の麓にするね……転」
ほう。
こう見えるんだ。
転移と唱えた朔夜ちゃんは、『移』の部分を音にする前に姿がかき消えた。
山頂の端まで行って覗くと、麓の方に手を振る朔夜ちゃんの姿。
「朔夜ちゃんのいるこの山の麓まで、転移」
(水竜が時速240キロに加速した! まだ水中だが更に加速しながら、少しずつ海面に近付いている)
到着するなりそんな声。
急いで新しいポータルを作って頂上に戻る。
(空に上がった……いや、海面すれすれを時速320キロで接近中だ)
「距離は?」
(20キロを切っている……4分ほどで0距離だ)
「急に速度が上がった理由は?」
(海面すれすれを飛行して、水面効果を利用しているようだ。浮いた全推力を推進力に充てている)
水面効果? ああ、水面近くを飛ぶと、高い揚力が発生するっていう
主翼の長さの1割から5割の高度で飛ぶんだっけ?
水竜の翼ってあのヒレ? まあ間違って海面に突っ込んでも元が頑丈な海棲生物だから問題ないってんなら、理にかなってはいるの、かな?
「接近まで4分か。それだけあれば十分かな……2分を切ったら教えてね」
(承知)
「朔夜ちゃん、コンパクトは……ハーネスの腰の部分に挟める場所があるからそこに入れておこう」
「呪文唱えて変身じゃダメ?」
「ダメ。私たちは戦闘服がないと、メチャクチャ弱いんだから」
「折角の見せ場なのに……残念」
見せ場って、一体誰に見せるつもりなのよ。
「それと、ポータルはその岩のところに作るから、何かあったら、最初に会った森の中に転移ね?」
「これ、転移可能範囲ってどのくらいなの?」
「待ち時間でそれを試してくるわね」
さっきのがまだ残っていたけど、試験用に、そばの岩に新しいポータルを作成する。
「それじゃ、傭兵ギルドの演習場まで、転移」
景色が変わった。
無人島の火山の頂上から一気に演習場の、初めて朔夜ちゃんと会った場所に転移した。
薄暗い森の中は、最初、真っ暗に見えた。
明るさだけじゃない、空気の匂いも違うし、温度も少し違うかな?
距離が離れた場所に転移するとこんな風に感じるものなんだね。
「この距離でも転移できるんだ。もしもこのポータルを、魔法少女以外も自由に使えたらこの世界の社会制度から大きくひっくり返りそうだね」
まあ、そんなことはどうでもいい。
早く朔夜ちゃんのところに戻らなきゃ。
あ、いざというときに朔夜ちゃんがここに逃げてくるかもだし、念のため移動手段を残しておこう。
「消えるまでの時間を1日に変更したポータル弾丸を
一発だけ発射して、そばにポータルを作成して無人島に戻る。
朔夜ちゃんはどこだろうかと辺りを見回すと、水竜が来るだろう方向に向かって、朔夜ちゃんが杖? を持って踊って? いた。
======
補足
>対戦車ライフルとかいうのなら、きっと銃弾も重くて、発生するエネルギーも増えるんだろうけど、私が射撃の反動に耐えられないだろうし。
まあ、鍛えていない12歳の東洋人の女の子の体格じゃ、吹っ飛ぶか、頑張って脱臼するか。でしょうね。
>拳銃の反動なら耐えられるかな?
拳銃の場合、握り方を知らないと本当に危ないです。
そして、日本人の手には海外の銃って大きすぎて握りきれなかったりするのです。
初心者はだから、グリップの小さいの(ルガーのP08とか)から入ることをお薦めします。
>バナナ状に曲がった細いマガジン。
最初の頃はまっすぐのマガジンを付けてたそうですが、途中から特殊な銃弾に対応するため湾曲するようになったとか。
>これはもしかして三点バースト?
三点射とどちらを使うかちょっと迷いましたが、陽菜が知ってる単語に準拠しました。
>引き金は拳銃なんかのと同じで、MP7A1みたいに引き金に安全装置が仕込まれていたりはしない。
最近は他にもありますが、まだまだトリガー・セーフティーのついてるMP7が少数派なのです。
>スッと引き金を引くと、カシャッとパン、が混じったような音。
サイレンサーってのは、映画ほど(こう、パスッみたいなのがありますが)には消音効果はありません。
火薬を使わないエアガンだってカチャカチャいうわけで、それと同じ程度の音は発生します。
もちろん音が漏れないように色々工夫されてますが、排莢口(エジェクションポート)が開閉して空薬莢が飛び出るわけですから無音にはできないのです。
>MP7A1の弾丸はマッハ2。銃声はガスが膨張する際の破裂音だけじゃなく、音速を超えたことによる衝撃波(ソニックブーム)もあるはず。
あります。
なので、銃弾には亜音速弾と呼ばれるものがあります。
亜音速(音速よりちょい遅い)になるように作られた銃弾で、本来350m/sを出せるのに、弾頭を重くして300m/sくらいに押さえたりするわけです。
衝撃波(ソニックブーム)は銃弾本体が飛翔中に出す音なので、サイレンサーでは如何ともしがたいのです。
>4グラムが対消滅する際のエネルギーは、0度の25mプール2286杯分の水を100度にする程度でしかないの?
まあ、これは計算は合ってますが、卑近な例にしたため、逆に訳が分からなくなってますね。
そもそも、液体の水が色々異常なのだ、というお話もあったりします。。。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます