第20話 陽菜ちゃん凄い


 島の外周はだいたい50キロほどだった。

 大陸側は間欠泉だらけだったけど、その向こう側、島の中央には噴煙と火山灰を巻き上げる火山。その奥には火山灰が降り積もった森林地帯が広がっていた。森林地帯の向こう側は断崖絶壁になっていて、そのあたりもこの島が使われていない理由のひとつなのだろうな、と推測する。


「私は決まったよ。陽菜ちゃんは、どこで戦うか決められた?」


 島を一周した時点で朔夜ちゃんはそう言った。


「どの辺?」

「中央の火山っぽいところ。できるだけ、高いところの方が私の戦い方には向いてるんだよね。だから頂上で迎え撃つよ。平らな場所もあったし」

「ああ、あったね。天然の展望台みたいな所。なら私は森林地帯の海岸線の岩場にするよ。地面はしっかりしてそうだし、木の陰に隠れられるし」


 私の戦い方はとにかく隠れて接近して狙い撃つ。これに尽きる。

 凄い威力の銃弾を生み出せるとしても、短機関銃では投射能力が弱すぎるのだ。

 対策としてレーザーを考えていたわけだけど、あれは水やら蒸気とは相性がとことんよくない。


 ライフルを呼び出せば、或いはその弱点をカバーできるのかも知れないけど、残念ながら私はライフルの操作方法を知らない。

 銃弾の装填は魔法で行われるからよいとしても、安全装置も初弾装填の方法も知らない。

 水竜がここにやってくるまでの時間でたっぷり練習が出来るなら、機種転換を考えても良いのだけど、そこまでの時間的猶予はない。

 それに普通の銃弾ではどちらにしても効果はない。だから今は、考えている銃弾が作れるか試してみることを優先する。


「陽菜ちゃんも一周目で場所を決められてよかったね」

「うん。水竜が速度を速めた時にはどうしたものかと思ったけど、遭遇前に場所を決められてよかったよ」

「それじゃ、二手に分かれよう。何かあったら連絡は管理精霊さん経由でね」


 朔夜ちゃんは私を、私が指定した海沿いの崖の上まで運ぶと、ハーネスを切り離して火山の山頂へと飛び去った。

 それを見送った私はMP7A1を掲げ、祈るように念じた。


「さて。それじゃまずはワープゲート弾よ出てこい」


 イメージは二種類ある。

 もうね、どちらも物理法則無視、というか原理を考えてすらいない代物。一応、この世界には転移魔法は存在する。それは私にインストールされた魔法の知識が教えてくれた。自動車とかが発達しているのだから、使い手は少ないのだろうと予想はできるが、あるかないかで言えば転移魔法はあるのだ。それが私の拠り所だった。


 ひとつめは、撃ち出した銃弾の弾頭が展開して、門を作り出す、というもの。

 こうね、折りたたまれた折り紙が広がるようにパタパタって銃弾が展開して輪になって、その中に力場ができて、そこを通るとワープするやつ。

 ワープゲートを作り出すイメージは、SF映画とかで見たものを元にしている。

 あれって、無重量状態じゃなきゃ使えないんだっけ?


 しかし、あまりに荒唐無稽だったのか、それとも別の要因か、その弾丸が生まれることはなかった。


「それじゃもう一つ……こっちの方が無理があるような気もするんだけど。でも魔法のある世界ならこっちの方が親和性が高いかな? ……ポータル弾丸、装填……お?」


 銃が少しだけ重くなる。

 だが、弾丸を生み出せても、それが本当にイメージしたとおりに動くとは限らないことを、私はスタンボルト弾の試射で学んでいる。


「管理精霊。次の仕様に問題があったら指摘してね」

(承知)

「弾頭部分は実体を持っていて、銃弾として普通に撃ち出される。銃口から出た弾頭が、100g以上の固体に衝突したら、そこに転移ポータルを生み出す。ポータルのサイズは縦横2メートルの青い球体。ポータルに触れて、キーワード『転移』と口にした者が脳裏に描く場所に、触れた者本人と、触れた者が意識した物体と、触れた者の装備品や所有物を転移させる。ポータルは誰も使用しなければ2分で消え去る」

(二カ所、訂正をすべきだな……転移者は転移先で、転移先の空間と等しいベクトルを持つ。また、転移先に100g以上の固体、液体があった場合は転移を行わず、そうでない場合は、それらを押しのけて転移を行うものとする)


 なるほど。

 緯度で自転の速度が違うし、経度で自転の向きが異なるんだから、そういう安全装置は必要か。あと、石の中対策は大事だよね。


「それじゃ、そのイメージで再装填リロードしてっと」


 そしてふと思った。


「これで月とか行けないかな?」

(……可能だが、魔法少女以外だと帰りのポータルを作れずに片道になるだろうな。それに、戦闘服は呼吸の補助はしないから、放射線や温度、気圧で死ぬことはなくても、魔法少女が窒息するぞ?)

「そっか……まあ、そんな方法で月に行けてもリズお姉ちゃんは喜ばないだろうし……ええと、的はあれでいいかな」


 私は周囲を見回し、少し離れた大きめの岩を雑に狙って単射で撃った。


「……ん?」


 岩のあった所にポータルが生み出されていた。

 青い球体で、サイズとか、注文したとおりなのだけれど。

 それは何やら純然たる物体としてそこに存在していた。

 よく見れば影もある。

 そして、そのポータルは岩に食い込むようにして生成されていた。


「……まさかの物理」

(青い球体をイメージしたのだろう? 要求仕様通りではないのか?)

「イメージしたのはゲームとかにある、光で出来たポータルだったんだけど……あれ、岩に食い込んでるよね?」

(魔法は言葉で表現した方がイメージよりも優先されるからな。食い込んでいるのは、転移先に物があったら、という条件は指定したが、ポータルと重なるように物体があったら、という条件指定をしていないからだろう)

「……これ、命中させられたら、水竜の表面を削れるんじゃない?」

(可否について言えば可能だろうが、そのためには水竜に接近せねばならぬだろうな)

「まあ普通に無理だね……いや、水竜のそばに転移で接近して、ポータル作ってから攻撃して、撃ったら転移して、を繰り返したら……って、まあ、慣れない森の中、私が自在に転移できるようになる前に対処されちゃうか」


 などと言いつつ、私は冷たく固い感触の青い珠に触れ、とりあえず50メートルばかり離れた森のそばをイメージしてみた。

 そして、躊躇しつつも、水竜を目の前にしてのぶっつけ本番の方が怖いからと自分に言い聞かせ、転移を試みる。


「転移……ほう」


 とりあえず少なくとも50メートルの移動はできたようだ。

 触れていたポータルは消えていて、風景が少しだけ変化している。

 周囲を見回し、足踏みしつつ、両手で自分の目、耳、両肩、胸、背中、腰、太もも、ふくらはぎをパンパンと叩いて見る。

 ついで、両手をにぎにぎ。軽くスクワット。


「……視覚、聴覚、触覚、正常っぽい。手足は動く。靴も地面と融合していない……体に違和感もなし」


 転移酔いみたいなものがあるかも知れないと思っていたのだが、そういうのは一切なかった。

 むしろ、本当に自分は転移したのだろうか、と疑問に感じるほどに何もない……いや、ポータルが目の前になく、50メートルほど離れた崖の上に残っているから、転移したのは間違いないんだろうけどさ。

 うん。前向きに考えよう。


「まあ、跳んだらヘロヘロとか、実戦じゃ使えないだろうから、転移酔いしないのは良いことだよね」


 あとは転移限界距離の確認……の前に他の銃弾の試験をしちゃおう。

 それを理解する知恵があるかどうかはさておき、新しい銃弾の試射は水竜に見られなくない。


「とりあえず反物質弾。通常物質の弾丸が撃ち出されて、100g以上の固体に接触したら、瞬時に弾頭全体が反物質に変化して、対消滅反応を起こし、発生した全てのエネルギーを光にして、前方10度の範囲に収束させる……ってどう思う?」

(うむ。お前は死ぬ)

「なんでよ! 発生する放射線、熱、全部を前方に収束させれば、私は安全でしょ?」

(確かにその指定であれば、反応によって発生した熱も光も放射線も、ついでに爆風も、すべてが光となって前方に向かうだろう。だがな。爆心地は爆発した直後に真空になる。全てが光になるのなら、その影響は通常の爆発よりも大きいだろう。そのとき、通常なら全方位から空気を取り込む吹き戻しが発生するが、お前の考えた弾丸では、左右やお前のいる方向には1気圧の空気があって、これが吸い込まれる。対消滅反応で発生したエネルギーではなく、失われた空気の補充にすぎぬから、指定した条件には反してもおらぬぞ? まあ、風速がどの程度になるのかは分らぬが、前方10度を除いた全方位から風が押し寄せる。竜巻の中の方がまだ穏やかかも知れぬな。お前は弾丸のように爆心地方向に射出され、その際に乱気流に巻き込まれ、下手をすればまだ地面も溶けているだろう爆心地に放り出される……これが、他の手段によって齎された事象であれば問題はないが、起点が魔法少女の魔法である以上、戦闘服でダメージを十分に緩和できない可能性がある。加えて、その仕様なら、敵に命中しなかった場合でも一定距離で効果が出るようにしておくことを薦めるぞ。地面に落下した弾丸が、地面に向けて力を放てば地形が変わる」


 うん。なるほど。それは死にそうだ……けど、待って。

 今、ものすごく大事な情報があったよね?


「あのさ、まずは指摘ありがとう。結構自信があったから、やらかすところだったかも。ところで確認したいんだけど。魔法少女の戦闘服って、どんな攻撃も跳ね返すんだっけ?」

(うむ。魔法少女の魔法は通してしまうが)

「私の魔法、朔夜ちゃんに当たったら効果あるんだよね?」

(魔法少女状態で攻撃するのならば、もちろん。今更だが戦うつもりになったか? どうした。なぜ四つん這いになっている?)

「……単に自分の愚かさに打ちのめされてただけだから……すぐ復帰するわ。あと朔夜ちゃんとは戦わないから」


 あー、もう、なんで気が付かなかったかなぁ。

 この世界のどんな攻撃にも耐えられるけど、魔法で出した地球の武器と同じ仕様スペックMP7A1短機関銃が通用するってどういうことよ?

 銃弾の威力は試射した限り、多分地球のと変わらない。着弾して爆発とかしなかったし、普通の鉛玉(スチールコアだから鉄玉?)が秒速700メートルで飛んでいくだけの代物だ。

 そして、私のそんな魔法のステッキ短機関銃悪の魔法少女朔夜ちゃんに効果を及ぼすという。こっちのどんな武器でも傷一つ付けられない魔法少女に、だ。


「起点が魔法少女の魔法である以上、戦闘服でダメージを十分に緩和できないって言ってたけど、つまりそれって、魔法少女の魔法が強力なわけじゃなく、この戦闘服が魔法少女の魔法に起因する攻撃を通しちゃうってこと?」

(うん? それについては、別に隠していたつもりはないぞ? お前も理解していると思っていたのだが)


 ――その衣類は魔法で強化されている。物理防御も魔法防御も備わっており、この世界の通常兵器や攻撃魔法では、煤を付けることもできないだろう。また、服に覆われていない部分も力場の影響範囲となる

 ――そうだ。お前を含め、魔法少女はこの世界のことわりから外れた攻撃を行える。攻撃は避けることを推奨する


 確かに、「この世界の通常兵器や攻撃魔法」が効果ないとしか言ってないんだよね。

 それに、「魔法少女の攻撃は強力だから通用する」じゃなく、「この世界のことわりから外れた攻撃だから通用する」って言ってたけどさ。

 ああ、でもこれは私が勝手に思い込んでたね。

 この世界のことわりから外れたという部分について、確認取らずに、自分の中でそれだけ強力なんだって補完しちゃってたわけだし。

 魔法少女の攻撃は私の防御を抜けるくらいに強力なんだね、とでも聞いておけばよかったのに。


 だけど。

 ということならば。


「それじゃ教えて。この服着て、この島にある沸騰しまくってる間欠泉に突っ込んだらどうなる?」

(濡れるだろうな……火傷の心配なら不要だ。接触する前におそらく熱めの……人体が怪我を負わない程度の温度のお湯になる……それよりも、先ほどの銃弾の開発は放置してもよいのか? 魔素を増やす意味でも、新しい、強力な魔法の開発は是非とも進めてもらいたいのだが)

「よくないけど、こっちの方が優先度が高いと判断したわ……それじゃもうひとつ。水竜の攻撃、私たちがこの服を着ているなら、私たちに効果はない?」

(? 当然だ。水竜は魔法少女ではない。だが、ヤツの魔法解除は極めて厄介だ。戦闘服を失えば、間欠泉の湯を浴びただけでお前たちは絶命する)


 つまり、戦闘服があるなら、水竜の攻撃を恐れる必要はない。と。

 てゆーか、魔法解除ってそもそも何なのよ。


「あーもう! なんでここに飛んで来る途中でもっと色々聞いておかなかったんだ私は!」

(どうした?)

「水竜の魔法解除って何なの? 仕組みは?」

(魔法の仕組みは知っているな?)


 神様がインストールした情報の中にそれはある。

 それがあったから、初手で魔法を使ってしまって逮捕されちゃったわけだけど。


「この世界の生物は生まれながらに体内に魔力を持っていて、人間は自分の中の魔力を呼び水にして周辺の魔素に意思を伝達し、魔素を切り取る。で、魔力経由で励起した魔素にイメージを伝えて、魔力という魔法の待機状態にして、伝達したイメージを実行させる。でいい?」

(うむ。魔法少女の場合は少々違うが、まあ良かろう。その体内魔力に相当するのが魔道具では加工済みの魔石などで、大半の魔道具は周辺魔素ではなく魔素充填された魔石内の魔素を使用する。加工済み魔石を使わず、持ち主の魔力を使うタイプなど様々ではあるがそれは置いておく。人間のイメージや意思に相当するのが魔法陣で、魔道具を操作すると魔素が魔力に変換されて魔法陣に流れ込み、魔法として発動する。この変換された魔力を表層魔力と呼ぶが、水竜が干渉するのはこの表層魔力だ。魔力にノイズを乗せてくる。結果、魔力が正しく魔法陣に流れ込まなくなり魔法は霧散する)

「戦闘服が解除されたのはなぜ?」

(戦闘服も魔道具の一種だ。元となる魔素こそ魔法少女が生み出しているが、そこから先に大きな違いはない。故に表層魔力を乱され、解除された。魔道具を使っていないタイミングであれば、表層魔力もないからそれが乱されることもない。だから使っていなかった魔道具はその影響を受けないし、停止した魔道具も壊れているわけではないから再起動で復帰するのだ)


 なるほど?

 うん。魔素が未知すぎる。力として作用させるには魔力にして、それを使うための機構に取り込む必要があって、その前段の物質?

 原油とガソリンの関係? 或いは……自由電子と電流?

 ガソリンがパイプを流れてるときに、その流れが乱されてエンスト? ……乱れの程度によっては、なるかな?

 吸い込む分だけのガソリンが燃料パイプになければ、点火しても不発になる?


「あ、それじゃさ、水竜の魔法解除って、見てたら来るぞって分るような特徴的な予備動作モーションとかあるのかな?」

(頭を真上にして直立するが、見てから逃げるのでは間に合わないと思うぞ)

「そっか……あとはえーと……そう! 魔素や魔力、魔法を遮断する物質とかはないの?」

(ないな。そんなものがあれば、魔法はここまで世界を席巻しなかっただろうよ)


 そりゃそうか。

 うん。

 冷静さを欠いていたか。


「それじゃ、水竜の魔法解除を防ぐ方法とかはないのかな?」

(それがあるなら、水竜は傭兵ギルドか軍が対処していただろうな)

「うん。そうだろうと思ったよ……まあね、普通の方法で倒せる相手なら、こんな騒ぎにはならないよね」

(諦めるのが早いな。人間の若者は、自分なら倒せると根拠のない突撃を行うものではないのか?)

「私がそれやると、魔法少女がひとり減るわけだけど?」

(うむ。お前の年齢に似合わぬ賢明な判断を賞賛しようではないか)


 さて。

 お手軽な方法は封じられてるわけだから、あとは力任せか。


「それじゃ、さっきの反応弾を試してみましょうか」

(お前達の世界の言葉では、反応弾は原子核反応爆弾……核爆弾のことではないのか?)

「まあ、そっちが主流かな。それじゃ、そうね、対消滅反応4.6×30mm弾ってことでどう?」

(先ほど、反物質弾と言っていたから違いが気になっただけだ。間違いでないなら構わぬ。好きにしろ)


 それでは。


「通常物質の弾丸が撃ち出されて、150m以上飛ぶか、それより近くても100g以上の固体に接触したら、瞬時に弾頭全体が反物質に変化して、対消滅反応を起こし、発生した全てのエネルギーを光にして前方10度に収束させる。また、間接的に発生したエネルギーもこれに準ずる。光への変換は射手から10キロ以内に限定。で、反応した地点への空気の流れは、真上と左右からのみに限定する弾丸でどうかな?」

(うむ。まあ、しかし、至近距離で撃つのはできるだけやめておけ)

「それじゃ、対消滅反応弾装填……うん、入った……えと、朔夜ちゃんに割と強力な魔法を試射するから驚かないでって伝えて貰える?」

(承知……ああ、ええと……朔夜も今から試射するそうだ。既に詠唱に入っていて……うむ、先に撃ちたいらしい。お前から見て右手の海を狙っているので見ていて欲しいと言っておる……カウント。5、4、3、2、1)


 火山の山頂から光の珠が海に向かって音もなく飛ぶ。

 そして、突然、光の珠が黒いもやに変化して、


 直後、私は目眩と耳鳴りと頭痛で倒れそうになった。


(ほう。お前が対消滅魔法なら、朔夜は重力魔法か。よくそんなものを思いつくものだ)

「重力? 私たちに害はないの? 頭痛いんだけど」

(人間は直接の被害を受けないという条件があるようだが……気圧変化でやられたか? ダメージになるような急激な気圧変化なら戦闘服の保護機能が働くはずだが)


 あ、そんな条件でもいいんだ。頭いいなぁ。

 それにしても……うん。

 低気圧になると頭が痛くなったりするけどさ。

 重力爆弾て気圧が変化するんだ。変化するにしても周囲の気体を集めて高気圧になるのかと思ってたよ。

 頭痛をこらえて視線を上げてみると、さっきの黒いもやは既に欠片も残っていなかった。

 が、その周囲に大量の筋雲が湧いていた。


「今ので十分に倒せるんじゃないかって気がしてきたわ」

(うむ。だが、お前の魔法を朔夜が楽しみしているぞ、撃って見せてやれ)

「あー」


 それじゃ、ご期待に添えるか分らないけど。


 狙うものもないので適当に海の彼方の水平線に銃口を向け、コッキングレバーを引く。

 さすがにそこらの岩とか木を狙ったりはしないよ? これは、超長距離兵器なんだから。

 安全装置を解除して、両手でしっかりを銃を保持して朔夜ちゃんの真似をしてみる。


「カウント行くよ。5、4、3、2、1」


 ゼロ、で引き金を引くと軽い反動。

 タアンという軽めの音とともに、遠くで海が割れた。

 割れた海は光の粒を散らしながら左右に波濤となって走り始める。

 凄まじい勢いで海水が沸騰して蒸気が沸き立ち、それが光の粒を伴って雲に変化する。

 海面が白く泡立ち、それに続いて巻き上げられた海底の砂と岩によって、海が真っ黒に染まる。

 間接的に発生したエネルギーも光にしている筈なので、これは更にそれらの余波が生み出しているのだろう。


 凄まじく大きな波の音は聞こえた。

 強い台風みたいな風の音も聞こえた。

 だけど、それだけだった。


「爆発音が聞こえないし、光も殆ど見えないのに、凄いことになってる?」


 あれ?

 目の前の地獄絵図を生み出したのは私?

 爆発音がないから現実感がない。

 光もそれなりに出てたけど、魔法少女の変身時の光の方が明るいくらいだ。


(魔法で発生した全てのエネルギーを光にしただろ? で、光は全部向こう側に向けた。今、波が光っているのは、まだ魔法の影響が残っているからで、こちらに届いている光は乱反射したものだろう)


 あ、そっか。爆音も地響きも、全部光になって向こう側に飛んでいったんだ。


「……音も光も何もないのにこれって……怖いね」

(朔夜から伝言だ。陽菜ちゃん凄い、だそうだ)


=====

補足


>ライフルを呼び出せば、或いはその弱点をカバーできるのかも知れないけど、残念ながら私はライフルの操作方法を知らない。

特にね、ボルトアクションの初弾装填は知らないと難しいかと。魔法でリロードできても、初弾装填ができないと引き金引いても何も起きないのです。

MP7のコッキングレバーを知ってても、全然別物ですし。

安全装置はまだ理解しやすいですけど。

ああ、東京マルイのVSR-10(ボルトアクションの昔ながらのライフル)のエアガンが欲しい(笑)


>ワープゲートを作り出すイメージは、SF映画とかで見たものを元にしている。

具体的にどれって言えないし、もしかしたらアニメだったかもですけど、まあ。輪っかの中に膜があって、そこに宇宙船が入ってワープする、みたいなヤツですね。


>いや、水竜の周囲にポータル弾撃ちまくって、転移で接近して、撃ったら転移して、を繰り返したら

デスラー戦法ですね(笑)

まあ転移したところで魔法解除喰らったら、敵の至近で逃げられなくなるわけで、かなり危険なのですが、意表は突けそうですね。


>原油とガソリンの関係? 或いは……自由電子と電流?

惜しい!自由電子と電流の方が近かった。


>さっきの反応弾を試してみましょうか

マクロスでは反応弾って呼ぶんですよね。今はどうだか知りませんけど、当時は核弾頭とかって使うと怒られちゃったらしく、色々な読み替えをしてたそうです。


>朔夜から伝言だ。陽菜ちゃん凄い、だそうだ

うん。まあ、あれを見て、その感想を言える朔夜も凄いと思うのです。

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