第18話 問題が出尽くした枯れた技術の方が安心できる
演習場から外に出た私たちは、トレーラーに移乗した。
私たちを迎えに来る前に、メーネさんはトラクターのデリアとリーンさんのパーティの傭兵に準備と情報収集を任せていて、だから、私たちが戻る頃には準備万端整っていた。
とは言っても相手は稼動中の魔道具を停止させる水竜である。
自動車で避難を開始し、そこに水竜の魔法解除を食らえば、自動運転していた自動車は制御を失って横転するかも知れない。
停滞フィールドの起動は魔力に依らないそうなので、最悪の事態は避けられるにせよ、安直にデリアの自動運転に任せて避難をするという訳にはいかない。
万が一、自動制御が失われた場合に備え、運転席に最低ひとり。助手席にも、魔道具の再起動要員をひとり配置する必要があった。
避難は関わる人数を考慮すれば、実に迅速に行われた。
幸いなことに、メーネのお父さんであるギルドマスターは賢明な判断を下していた。
これだけ大きな傭兵ギルドの施設で、中には傭兵訓練学校や居住区、商業施設などが入っているとなれば、そこに暮らす人の数は中規模の町に匹敵する。
それだけの人数が各自の自動車で好き勝手に避難を開始すれば、駐車場から出ることすら難事となる。
そのためギルドマスターは、まず傭兵以外の避難を最優先とした。
次に、傭兵は自家用車なら最低2人以上の相乗りで運転手と助手を確保したものから、トラックやバスなら更に客席の半分が埋まったものから出発を許可すると通達した。
これによって、道路上に出る自動車の数が半分以下に減り、多少なりとも混雑が緩和される。
結果、トレーラーにはメーネさん、リズお姉ちゃん、私、朔夜ちゃん、
運転席と助手席には紅の爪の斥候と砲撃手が乗り込み、その視力で警戒にあたる。
積載物資は各種魔道具と魔石が多く、ついで、食料、毛布、医療器具なども必要数以上に積み込まれていた。
「それじゃぁ、デリア、あとは運転席のニックの指示通りにお願いねぇ?」
『了解しました。合流ポイントまではニックの指示に従い、大河や湖を避けるルートで進みます。なお、途中で擱座した傭兵がいた場合、搭乗員数に余裕のある私が救助に向かう場合がありますのでご了承下さい』
「任せるわぁ。ところで、そちらは紅の爪の専属錬金術師、ディアマンティナさんよねぇ? ちょっと面白い試料があるんだけど興味あるかしらぁ?」
メーネさんは、トレーラーの応接セットのソファに座った、リズお姉ちゃんのとは違う、ちゃんとした白い白衣を着た女性に声を掛けた。
この世界の女性は美人さんが多いけど、ディアマンティナさんは可愛い系の美人さんだ。
プラチナブロンドの髪をおかっぱみたいな髪型にして、リーンさんの隣に静かに座っていた彼女は、メーネさんの言葉に首を傾げた。
「この状況で、面白いもの?」
「そうなのよぉ、気も紛れると思うんだけど、どうかしらぁ?」
「ものによる。試料と言ったか? どのようなものだ?」
「出所は明かせないけど、これのことよぉ?」
メーネさんは金の銃弾を取り出した。
「手に取ってみても?」
「どうぞぉ、あ、でも衝撃や熱を加えたり、先端部分を回したりはしないでねぇ?」
弾頭部分は別に薬莢に溶接されているわけではない。
薬莢先端部を絞ることで、弾頭がポロリと外れないように固定しているだけなので、締め付けの程度によっては、弾頭部分が回せたりすることがある。
メーネさんは、弾頭と薬莢がこすれて火花が散ることを心配しているようだけど、そもそも金をこすり合わせても火花は散らない。
私も勉強するまでは誤解していたけど、必ずしも金属をぶつけたりこすったりしても火花が出るわけではない。そうした金属の性質は、様々に利用されている。たとえば、ガス水道工事で使用するスコップは青銅(砲金)で作られていることが多いが、それは青銅ならガス管をぶち抜いても火花を散らさないからだ。これがステンレス製のスコップだと、鉄のガス管にぶつけたら火花が散る。
火花を散らさない金属には、真鍮、青銅(砲金)、アルミ、亜鉛、鉛、銅、金などがある。
ちなみに薬莢が真鍮で作られていること、弾頭が鉛や銅で作られていることが多いのは、弾頭と薬莢の境目がこすれても火花が散らないから、というのが理由のひとつとしてあげられる。
ぶつけたとき、こすれたときに火花が出る金属としては鉄などが有名で、火打ち石をぶつける火打ち金は鋼が使われたりするが、これに対して真鍮、青銅、アルミ、亜鉛、鉛、銅、金などはぶつけ合っても火花が散らないのだ。もっとも、摩擦熱は発生するので何事にも限度というものはあるのは言うまでもないが。
「ふむ……これは尖った方 は重いが、平らな方は中空なのか? 軽いな」
「分解したものはこちらですねぇ、砂粒みたいなのが火薬というポーションで、こっちの小さいのは雷管。危ないから触らないでねぇ?」
メーネさんは小皿二枚が乗ったトレイを差し出した。
片方の小皿には、分解した弾頭と薬莢。
もう片方には火薬と……雷管。なぜ火薬と雷管を一緒の皿に置くかな。
「む、火薬というのは特徴的な匂いだな……金属部分はこの重さだと純金か?」
「これはぁ、銃って道具の弾丸っていう道具なのねぇ、後ろの雷管が入った部分を叩くと雷管が発火して、この薬莢という部分に詰めた薬が燃焼してガスが出て、先端に嵌めたこの部分、弾頭っていうのを飛ばすの。中に入れる薬は火薬で、こっちの小さいのが衝撃で発火する雷管っていう道具ね? 本来は金じゃなく鉛とかを使うらしいわよぉ?」
「ふむ、わざわざ金で作ってあると言うことは儀典用か? しかし燃えてガスを出すだけとは変わったポーションだな。興味深いとは思うが、そもそもこれは何に使うものなんだ?」
「銃という道具とセットで使うと武器になるわねぇ。弾頭はこの火薬の燃焼ガスで押し出されるのよ。その速度は……陽菜ちゃん、どれくらいだっけ?」
「あ、うん。ものによって違うけど、一番早いのだと秒速700メートルくらいかな? 金の弾頭は重いから、ずっと遅いと思うけど」
ゴム弾とかだと弾頭が飛んでいくのが見えたけど、アーマーピアシングの銃弾は私の目では何も見えなかった。
でも、金の弾丸では、恐らく薬莢の強度的に弱装弾になってるだろうし、そもそも金は重いから速度も出ないはず
「その速度なら……こんなに小さな礫でも当たったら怪我しそう。純金なら防具で止まるかも知れないけど」
ああ、柔らかいから、固いものに当たったら潰れるかもね。
でも万が一にもそんなのが体内に入っちゃったら、中で潰れて広がったりして。
ディアマンティナさんは弾頭を掌に載せて首を傾げていた。
その後ろでリーンさんが首を横に振った。
「いや、十分に殺傷兵器レベルだ。甘く見ていると怪我をするから扱いには気を付けろ」
「リーン、見たの?」
「ああ。さっきまでは試射のために演習場にいたんだ。詳細は守秘義務があるから言えないが、絶対に暴発させるなよ?」
あ、魔法でも暴発って言うんだね。などと思っていると、リズお姉ちゃんがリーンさんの発言をフォローするように尋ねてきた。
「陽菜が撃った本気の弾丸が当たったら、鉄板でも撃ち抜けるんだっけ?」
私は武器にはそれほど詳しくないから断言はできないけど、チタンの板を撃ち抜けると言っても、それはチタンの板に垂直に弾丸が当たった場合だと思う。
厚すぎれば跳ね返るだろうし、角度が悪ければ弾かれるというのは私にとっては当たり前だけど、一応は言っておこう。
「まあ、厚さとか固さとか条件にもよりますけど」
そう答えると、ディアマンティナさんが目をキラキラさせながら迫って来た。
「面白い! その銃という魔道具を見せて?」
「触らないって約束するなら」
ディアマンティナさんが頷いたのを確認し、私はMP7A1の、初期バージョン。レーザーサイトがないものを取り出し、まず銃弾を全てゴム弾にして、次に銃弾を空にして、更にマガジンを外して、銃本体をテーブルの上に置いた。
これなら、万が一銃弾が残っていても、それはゴム弾の筈……だけど、そういう、今は安全ってのが事故の元だと愛美ちゃんはしつこいくらいに言ってたっけ。
「ええと、発射の仕組み自体は弾丸自体にあります。この銃って言うのは、その弾丸を前提にして、使い手にダメージがないように、弾頭部分を狙った場所に飛ばしたりするためのものです」
魔道具じゃない、と言いそうになったが、それは控えた。
だって、魔法少女のステッキな訳だし。
機構的にはこちらでも再現できそうな金属の塊だけど、出自を考えれば魔道具なのかも知れない。
テーブルの向こう側でディアマンティナさんが興味深そうにテーブル上のMP7A1を眺めている。
が、それだけではなく、私の隣に座った朔夜ちゃんまでもがMP7A1に興味を示していた。
「陽菜ちゃん、幾つか質問があるんだけど」
「……色に関することじゃなければ」
「なんで、こんな変わった形の鉄砲なの?」
あー、まあね、その気持ちは分らないでもない。
一般的なライフルを基準にしたら、MP5もMP7も随分とおかしな形をしてるよね。
ライフルが、筆で書いた漢数字の一みたいな形だとしたら、フォアグリップを出したMP7A1の形状は円周率にも使われるギリシャ文字のパイに似た形をしている。
M16ならまだ、西部劇に出てくるライフルに似た形状で、それにマガジンやハンドガードを増設しましたと言えなくもないけど、MP7A1はどうしてこんな形になったんだろうね、って首を傾げたくなる形だ。
MP5あたりなら、M16の銃身と
「んー、これって警察とか特殊部隊とか個人携行前提だから、銃口に
エアガンなら借りて撃ったことがあるけど、実銃は画面越しにしか見た事がない。
なので、リボルバーなら内部構造の想像もできるけど、自動式のだとまったく分らない。でも、引き金があって安全装置があって、マガジンがあって、弾丸の仕組みがほぼ統一されている以上、形が違っても中身はそんなに変わらないと思うんだよね。それに、見た目が変わってるだけならともかく、構造から別物にしたら、誰も使わないと思うし。命が関わる部分は昔から使っていて、問題が出尽くした枯れた技術の方が安心できる、筈。
「なるほど、普通のライフルとは目的が違うんだね。これって私のステッキでも再現できないかな……あ、陽菜ちゃんは魔法少女だから、そう考えると再現できるのか、な?」
「ええと、再現するのはいいけど、扱いは気を付けてね? 魔法とは言っても、構造は本物の銃と同じで、暴発とかもするだろうし」
「注意した方がいい部分、教えて?」
と、朔夜ちゃんが聞いてきたので、私は愛美ちゃんから叩き込まれた危険を避けるための取り扱い方法について伝授するのだった。
一通りMP7A1の扱い方を教授した後、私はメーネさんに請われて数種類の弾丸を作って研究用に手渡した。
そして、水竜の魔法解除対策としてトイレで
トレーラーが減速して、ゆっくりと方向を変えてから停車した。
「デリア、何かあったのぉ?」
『ギルドマスターより避難行動中の全車両に通達。水竜が飛翔し、内陸部に向かっているとのこと』
「飛んだのぉ?」
(水竜が飛ぶというのは珍しいな)
私の知る多くのファンタジー作品では竜は飛ぶものなんだけど、メーネさんと管理精霊の言葉はその知識と食い違っていた。
西洋の重たそうなのも、東洋の細長いのも、翼がなくたって飛ぶモノなのに、どうやらこの世界では違うらしい。
「リズお姉ちゃん、水竜が飛ぶのって珍しいの?」
「精霊竜は、それぞれが得意とする領域から出ることは少ないかな? 水竜の場合だと海や大河からは離れたがらないって言われてる……でもまあ一応翼はあるから飛んでもおかしくはないけど、あれって水中で姿勢制御に使うって思われてたのよね」
なるほど。
ペンギンの翼みたいなものだと思われてたんだ。
で、水竜であれば水がある場所が好きで、そこから離れない、となれば水から出るのも珍しいというのも頷ける。
それにしても、もしかして、火とか風とか土とかの竜もいるのかな。精霊竜ってくらいだからいるんだろうなぁ。
「デリア、水竜の現在までの動きを黄色、被害状況を赤、動きと地形から予想される進路を白表示でぇ、フロートディスプレイに表示してもらえるかしらぁ? あと、傭兵ギルド本部の状況も別画面でねぇ?」
『畏まりました』
「それとぉ、ニックに繋いで頂戴」
メーネさんの前にフロートディスプレイが表示され、リズお姉ちゃんとリーンさん、ディアマンティナさんがそれを覗き込む。と同時に、男性の声が聞こえた。
『ニックだ。お嬢から通話リクエストって聞いたんだが、デートのお誘いか? 今は手が離せないが、明後日なら……』
「いいえぇ、明日も明後日も、勿論今日もそれはありえませんわぁ。なぜ停車したのかを聞きたかっただけよぉ。あと、今後の方針もねぇ」
『そりゃぁ残念だ。現在俺たちは、水竜から距離を取るために逃げているわけだが、相手が空を飛んで移動を開始したなら、あっという間に追い抜かれたりするかも知れない。だからまず停車して方針決定に必要な情報が来るのを待つことにした。今はショッピングモールの駐車場にいる。デカ物が路肩に停車して、道を塞いじまうわけにもいかないし、ここなら他にも運送用のトレーラーが停まっているからデリアも目立たない。情報受領後の方針は変わらず。水竜のいない方向に向かって逃げる。万が一、情報が途絶えた場合は晴れてて川や湖のない方に向かう』
「理には叶っているようねぇ……それにしても、ギルド本部は良く無事だったわねぇ」
フロートディスプレイで水竜の動きと被害を見たメーネさんは感心したようにそう言った。
その隣でディアマンティナさんも頷いている。
「ギルドの手前まで来て、そこにしばらく留まっていた?」
「で、さっき、急に飛び立ってルートはこれねぇ? 予想ルートはそれまでの飛行経路の平均と、水場との距離で決めてるのよねぇ? それにしても、ギルド本部が無事で良かったわぁ」
「外観はボロボロになったみたいだけど。まあマスターなら何があっても生き延びる」
傭兵ギルドには、水竜の監視と、避難中の傭兵に情報を提供するため、メーネさんのお父さんと数人の職員たちが残っていた。
本来、監視機器などにルーナちゃんやデリアのような人工知能(?)を貼り付けておけば、無人でも運用可能なのだが、水竜には人工知能達を含む魔道具を停止させてしまう、魔法解除という能力がある。停止した魔道具の再起動のためには、どうしても人間が必要になってしまうのだそうだ。
でもそれってなんか、すっごい単純な方法でクリア出来そうな気がしないでもないけど、それは置いといて。
「リズお姉ちゃん、水竜って近付くとどんな危険があるの?」
魔法が解除されてしまう、魔道具が使えなくなるのは困りものだけど、ギルドの外観がボロボロとか言ってるし、他にも害があるからこそ、災害扱いされているんだよね?
「あー、うん。まあ色々かな。とりあえず天気がメチャクチャになるわ。台風と竜巻と吹雪とかが一度に来た感じ? あと爆発したり? 雹や落雷なら大人しい方かな」
「あれ? 竜の話だよね?」
いつから嵐の話をしてたんだっけ?
「うん、水竜が近付いたときの危険だね。ああ、あと水系統のブレスと魔法解除か」
取って付けたかのようにブレスと魔法解除に言及するリズお姉ちゃんだったが、メーネさんとリーンさん、ディアマンティナさんも深刻な表情で頷いている。
朔夜ちゃんの方を見ると、私と同じく意味が分らないという顔をしていた。
普通、ファンタジーもので竜の最強攻撃ってブレスだよね?
あと、この世界でなら魔法解除だって洒落にならない被害をもたらすでしょうに。
「嵐を呼ぶ竜ですか? 台風なんかは風竜とかの担当じゃないんですか?」
「あー、そっちも似たようなことやらかすけどね。水竜の方が被害が大きくなりがちなんだよ」
あ、やっぱりいるんだね、風竜。
「水やそれに関連するものを色々操るのよねぇ……湖を全部霧にしちゃったり、雲を一気に地表に落下させたり。津波もやるし、川を逆流させたりもするわね」
「うえっ?」
あ、変な声が出た。グエッ? じゃなくて良かった。
でもマジですか?
湖を全部霧にするとか、大爆発じゃないですか。あ、いや、霧は空気中の小さい水滴だから、それならギリセーフなのかな?
いやいや、それでも、表面積が大きな水滴が一気に空気中に湧き出したら、水蒸気が飽和状態になるまで一気に蒸発するだろうし。突発的な高気圧が発生したり、急激な温度変化とかもあるかも?
うん。その一点だけでも危険すぎる。
てか、普通、霧って空気中の水蒸気が冷えて水滴になる現象だよね。
機序とかメチャクチャだ。
それに雲を一気に落下? 地表まで?
えっと、何が起きる?
地表で雲が発生したら霧なわけだけど、一気に落下させたら?
フェーン現象? 雲ごと降りてくるんだから違うか。あれは雲を置き去りにして乾いた暖かい風が降りてくる現象だ。
でも、高度が下がって気温が上がれば空気中の水蒸気飽和量が増えるから雲が気化しまくる? その前に雲の温度を考えたら雲の高度によっては地表が凍り付くんじゃないの?
うん、私程度じゃ何が起きるのか予測も出来ないけど、気圧や気温や水蒸気飽和量を無視して雲を一気に地表に移動させたりしたら大変なことが起こりそうな気はする。
「そうねぇ、水に関することは色々手当たり次第にやるから、何が起こるか予想できないのよねぇ。記録にある中じゃ、ルクミー地中海が一番被害が大きかったかしらねぇ」
「地中海?」
「ああ、昔、ルクミー共和国って水が豊富な小国があったんだけど、水竜が川を遡上してその国に近付いて、地下水脈を全部蒸発させて、まるごと吹き飛んだ。今じゃ、残った陸地が小島として点在する大きな湖になって、水竜が遡上してきた川で海と繋がった内海になってるんだ」
水蒸気爆発じゃん。
というか。
「地下の水でもお構いなしってことは、地上の生き物の血液とかは大丈夫なんですか?」
「生物の体液は水と認識しないみたいだけど……なぜそうなのかは実験も出来ないし、分ってないのよ」
まあ生き物が水蒸気爆発しないなら一安心だけど。
「水竜は何を目的に動いてるのかは分ってないの?」
「研究しようのない部分だから、仮説しかないけど、精霊竜は魔素を求めて活動すると言われているわね」
そこまで言ったところで、リズお姉ちゃんは私と朔夜ちゃんの顔を見つめた。
「魔法少女の魔法……変身解除と飛び立ったという連絡のタイミング……まさか」
そして顔色を変えてフロートディスプレイの水竜の経路を確認する。
「メーネ! この地図に私たちの場所を表示させてくれ! あと、水竜の移動経路のみを元に、地形とか無視して予想進路を表示させて!」
「デリア? イライザの指示に従ってねぇ?」
『畏まりました』
「……うあ、まっすぐこっちに向かって来てるわ。文字通りの直進よ」
メーネさんとリズお姉ちゃんが頷き合っている中、リーンさんとディアマンティナさんは首を傾げていた。
うん。
まあね。
まさか個人を追い掛けてくるとは想像できないよね。
「朔夜ちゃん、飛行魔法で私を抱えて飛べる?」
私の問いに、朔夜ちゃんは伺うように私の顔を見る。
そして、私の質問の意味を理解した上で、朔夜ちゃんは頷いた。
「……戦うんじゃなく、まっすぐに飛ぶだけなら。ただ、陽菜ちゃんがどんなに軽くても、抱えて飛ぶから私の手が持たないかも?」
「陽菜、あなたまさか」
「とりあえず、追い掛けてくるって言うなら私たちは町には行けませんよね。かと言って死ぬ気もありません。そこそこ大きな無人島、沖の方にありません? 水竜を引き連れてそっちに向かいます。倒せるようなら倒しますけど、まあ、逃げ回ってみます。私たちが生き延びないと精霊さんも困るみたいだから、きっと協力してくれるだろうし」
「ええとぉ、ここから北北東の方にそこそこ大きな無人島があるわねぇ」
「メーネ!」
「だって、一秒でも早く出発させないと、陽菜ちゃん達が逃げ切るための時間がなくなっちゃうかもでしょぉ? あ、陽菜ちゃん、そっちの青い箱は避難用の荷物が4人分入ってるから、持ってくといいわぁ」
「ありがとうございます!」
私は教えて貰った箱をアイテムボックスにしまうと、朔夜ちゃんと一緒にトレーラーから降り、コンパクトを開く。
「
瞬間、光があたりを覆い尽くす。
ずしりと手に重いMP7A1はレーザーサイト付き。
煙は魔法で生み出される、という設定だ。
「世界にあまねく光と愛を……祈りと共にこの胸に」
え、この忙しいときに呪文で変身ですか?
「……光の力をこの身に宿し……愛の力を我が杖に」
あ、呪文がちょっと変わってる?
と、朔夜ちゃんが私の方をちらりと見る。
ああ、目を閉じろって事ね?
私は後ろを向き、目を閉じて両目を手で覆ってそれに備える。
「……
うん。目は大丈夫。
恐る恐る目を開き、光が落ち着いているのを確認して振り向くと。
「あれ? 白い鎧は?」
「あ、お色直ししたの」
「どうやって?!」
そこには鎧と同じく純白のウェディングドレス、にしてはあちこち少々露出過多気味な戦闘服に身を包んだ朔夜ちゃんがいた。
って、ステッキがブーケになってるし?
何これ。
お色直しシステム、私も欲しいんですけど!
「それじゃ、行こっか」
「ちょっと待って!」
トレーラーからリズお姉ちゃんが降りてくると、私を背中から抱きしめるようにして、何やら体に縛り付けていく。
「リズお姉ちゃん、一体、何を?」
「これは飛翔魔法訓練用のハーネスよ。これがあれば、朔夜ちゃんが陽菜を手で抱えて飛ぶ必要はないわ」
ハーネスは衣類の一種とはカウントされなかったようで、キャストオフされることはなかった。
私へのハーネス装着が終わる頃には、朔夜ちゃんにも同じようなものがメーネさんの手によって装着されていた。
「陽菜、これ持って行きなさい。使い方は分る?」
「ええと? 分らないけど、何?」
それは一見すると、昔の手榴弾……柄の付いたタイプに見えた。
しかし、ピンらしきものは見当たらない。
「魔力爆弾よ。この柄の部分を90度、右方向に回して、魔力を通して投げると4秒後に近くにある無機物が分解されるわ……水竜には効果ないけど、逃げるときに障害物を消し飛ばしたりするの使えるから」
「うん。ありがと。それじゃ、時間もないからそろそろ行くね?」
「ちゃんと帰ってくるのよ?」
メーネさんが私のハーネスを朔夜ちゃんのそれに連結する。
それを確認した朔夜ちゃんは細長いカードを取り出し。それを目の前に掲げ、小さく何かを呟く。
と、周囲が明るくなり、後ろから大きな翼が現れ、バサリと音立てて私たちを包むように動く。
「それじゃ行きます! あの! それで、北北東ってどっちですか?」
仕方ないじゃん。知らないんだもん。
私たちは、メーネさんの指差す方に向かって飛行を開始した。
=====
補足
>これによって、道路上に出る自動車の数が半分以下に減り、多少なりとも混雑が緩和される。
とは言え、傭兵ギルド以外の人たちも避難をするわけで、道路はそこそこ混んでます。
が、自動運転なら、無意味に急いで渋滞を作り出したり、事故ったりということはないので、渋滞になっても耐えられるレベルかと。
>これに対して真鍮、青銅、アルミ、亜鉛、鉛、銅、金などはぶつけ合っても火花が散らない
ちなみに、仮に火花が散って銃の外で弾丸が暴発しても、大した威力はありません。まあ当たり所が悪ければ命に関わることもあるでしょうけど、銃身を使ってガス圧を整えて、弾頭を加速しないと、あまり威力はないものなのです。
>火薬というのは特徴的な匂いだな
粒の状態だとそんなに匂いませんので、多分メーネが粉にしてるんじゃないかな、と。
>ああ、柔らかいから、固いものに当たったら潰れるかもね。
>でも万が一にもそんなのが体内に入っちゃったら、中で潰れて広がったりして。
ダムダム弾とかホローポイント弾ですね。
体内で潰れて広がりながら刺さっていくわけで、そんなので撃たれたらとても痛い(痛いで済むのか?)
>チタンの板を撃ち抜けると言っても、それはチタンの板に垂直に弾丸が当たった場合だと思う
1.6mmのチタンプレートと20層のケプラーからなるハードターゲットを貫通。というのが要求スペックだったそうです。ここはやはり、衝撃吸収性能に長け、斬鉄剣でも切れないこんにゃくを挟み込んでいただきたい。
>フォアグリップを出したMP7A1の形状は円周率にも使われるギリシャ文字のパイに似た形をしている
パイはΠ(ギリシャ文字のパイの大文字。小文字だとπ)って書こうかと思ったのですが、フォントによっては全然パイに見えないのでカタカナ表記にしています。
>多分だけど、MP7A1は弾頭が軽いから反動は小さいし、加速の距離も短くて済むんだ。だからこの格好でも大丈夫なんだと思うよ
はい、これは一応正解です。
弾頭が小さくて軽いから、一発あたりの反動は拳銃弾と同程度。加速に必要となる銃身の長さも短くなります。あ、でも短いと言っても大抵の拳銃よりは長目だと思います。
>リボルバーなら内部構造の想像もできるけど、自動式のだとまったく分らない
私も言葉でなら説明できるんですけど、絵にしろと言われたら困ります。
燃焼ガスの圧力で銃弾を飛ばし、ボルトを後退させつつ廃莢して、ボルト後退時に撃鉄をあげて、後退したボルトがスプリングで戻る力で次弾装填。て、具体的にどうやってるのかと言われると分らない。。。そのて点リボルバーはシンプルですよね。引き金引いたら撃鉄落ちて、撃鉄上げると一緒にシリンダーが回る。基本それだけ知ってればとりあえずは作れます。
>「……光の力をこの身に宿し……愛の力を我が杖に」
>あ、呪文がちょっと変わってる?
「光の力を鎧に宿し、愛の力は我が杖に」
が前回呪文です。こんな状況だからこそ楽しめる部分は楽しむスタイルの朔夜でした。
>お色直しシステム、私も欲しいんですけど!
最初にちゃんと要求を言うだけ言った朔夜と、絶対やらないと拒否ったけど押し切られてしまった陽菜の違いですね。
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