第16話 タイが曲がっていてよ

 灼熱地獄インフェルノ氷結地獄コキュートス

 まだ存在すらしない魔法の弾丸についての空想とも言えない話なのに、妙に細かい部分について指摘された。いや、それについては別に良い。

 私自身、存在していない魔法の銃弾についての妄想を垂れ流していたのだ。

 笑わずに相手をしてくれただけ、まだマシというものだ。


 私の感じた違和感は、魔素量の少ない魔法より、多い方を薦めたことだった。

 付け足された理由はそれなりに論理的に聞こえなくもなかっけど、なんとなく、多くの魔素を生み出す必要があるからコキュートスを使って欲しい、そんな風に感じたんだ。


 そういえば今まで、他にも幾つか違和感があったっけ。


 うん。情報が足りない。考えていても埒があかないね。


 森の中を黙々と歩いている時に目に付いた、私の腕よりも細い木を山刀の魔道具で切り、枝を落として杖にしては少々長目の棒を創る。


(突然何を始めたのだ?)

「うん。まあ、ちょっとね。現状って、相手に先手を取られちゃってるわけで、今更こっちから攻撃しても奇襲にも何もならないよね?」


 事実を元にした推論。


(相手はこちらの動向を監視していると見るべきだろうな。いつ攻撃があってもおかしくはない。油断はするな。攻撃は最大の防御となる。それを忘れるな)


 返事は根拠のない推測の羅列と、これは行動方針の提示?


 どんな戦いでも自分からの攻撃は相手のリソースを防御に振らせ、攻撃の手を緩めさせるという意味で、防御の側面を持つのは事実だけど。

 でも、これも違和感のひとつだね。

 攻撃を防御の一助と認識するのは攻撃を仕掛けた側だけだ。

 相手から見たら、それを仕掛けてきた相手は単に攻撃的な敵にすぎない。


 まあ、いきなり死んだと言われ、異世界で魔法少女を始めさせられた身としては、それなりに慎重かつ思慮深くあったつもりだけど。

 突然敵の存在を知らされ、敵襲の知らせに驚き、私の思考はかなり鈍っていたみたいだ。


 だけど今思えば、色々おかしい。

 手遅れになる前に気付けたのは僥倖だった。


 相手が接近をしてきて、離れた場所に留まっている。

 相手は近くまでやってきたけど奇襲攻撃をしてこなかった。

 相手について、観測された事柄だけを並べてみると、明確な事実はそれだけだ。

 私は相手の姿も見ていないし、声すら聞いていない。


 なら私は何と戦っているんだ?


「ねえ、相手が悪の魔法少女ってことだけど、それって誰が言った言葉なの?」


 違和感はあった。

 もっと早くそれに気付くべきだった。


(本人だ……この世界に来て、魔法少女自身がそうあることを決めたのだ)


 ああやっぱり。

 ではもうひとつだけ。


「やっぱりそっか。神様が伝えてきたのかと思ってたよ」

(あらゆる存在の頂点たるお方がそう簡単に声を届けたりするものか。今回、お前の件でおおよそ2万年ぶりにその玉音を聞いたのだぞ)


 うん。

 これは確定ってことで良いかな?


 私はアイテムボックスから取り出した白いワンピースを、数枚のタオルを使って棒に縛り付けた。


(白旗か? いきなり降伏するのか? それで武装解除しろと言われた挙げ句、見逃して貰えなかった場合どうするんだ?)

「うん。まあよくある誤解だね。白旗は降伏じゃないよ。当方に戦闘の意思なし。話し合いを求む。という意味だからこちらから武装解除をしてみせる必要は本来はないんだ。まあ、でも、話し合いを言い出した側が誠意を見せるべきだとは思うけどね」


 私は高さ30センチほどの丸石を見付けると、それに腰を下ろし、白旗を掲げた。

 そして思いっきりドスをきかせた声を出してみる。まあ肉体年齢12歳の女の子なので、傍目にドスがきいているように見えていない可能性も高いけど。


「そんなことより、管理精霊。これから私は、私が魔法少女であるために必要な事柄を質問する。隠し事なく答えなさい」


 正直、賭けの部分はある。

 だけど、自称神様の命令を至上としていた管理精霊だ。神様と並べたあの言葉には嘘はないだろう。

 管理精霊は、自分が与えられた使命を、私が魔法少女としての務めを果たすための補助だと言った。その上で、質問をされれば嘘偽りなく答えるとも言っていた。

 もしもそこにすら嘘があるなら、に打てる手はない。


(常に嘘などつかずに答えているが、何を突然……)

「誰が嘘の話をしている? 私は隠し事はするなと言っている。もしもそれが為されないなら、私は魔法少女の力でコンパクトとMP7A1ステッキを破壊する」


 正直、本当に破壊できるとは思っていない。少なくとも現時点では。

 でも、魔法少女わたしが生み出す弾丸は、あり得ないほどにチートだ。聞きかじりの、詳しい構造の見当すら付かない銃弾を生み出し、頭に勝手にインストールされた魔法の知識を用いて、地球には存在しない弾丸も作れた。

 インフェルノについて話したとき、それは無理だと言われなかったし、反物質っぽいものも作れるかも、とも思っている。

 だから、いずれは破壊できると思う。

 まあ魔法少女の力を失うために使うのが魔法少女の力っていうのはどうかなとも思うんだけど。


(一体それになんの意味が?)

「だって、困るでしょ? 私が魔法少女じゃなくなったら。神様に失敗しましたって泣きつく?」


 私がどの程度重要なパーツなのかは分からないけど、神様からの連絡が、最初の指示以外ないというのが本当なら、計画途中で重要なパーツが機能を喪失するのは望ましくないだろう。

 もしも自由意志を奪って云々ができるなら、そもそもこんな面倒なことにはなっていないだろうし。

 推測に推測を積み重ねてるので、読みが外れてた場合、私たちはバッドエンドだ。

 私は慎重に言葉を選んだ。


(……隠し事はしない……約束しよう)

「あなたの上司たる至高にして全てを統べるお方に誓って?」

(……誓おう……精霊に約定を求めるとは、やはり人類は度しがたい)

「おいおーい、悪感情が漏れてますよ?」

(隠すなと言ったのはお前であろうに)

「聞かれたとき、質問の回答に嘘と隠し事は禁止……まあだからと言って全部を話すのは不可能でしょうから、あなたが聞かれた内容を不足なく簡潔に話した、とあなたの知性が及ぶ範囲内で自信を持って言える情報を頂戴」


 これなら大丈夫かな?


「さて。それではまず。最初はこの台詞から……この中に犯人がいます」

(確かにお前は罪を犯して保護観察中だな)


 いやそうじゃなくて……あ、でもそうか、それを使ったのかな?


「とにかく始めるけど。再確認。悪の魔法少女と言っているのは本人ね?」

(そうだ)

「で、神様とは連絡していないと」

(祈りはしているので、こちらの声は届いているはずだが返事はないな)


 ふむ。まったく悪びれていないね。

 自分の推測が間違っているのではないかと少し不安になる。


「では、あなたはどうやって、彼女が悪の魔法少女を自称したと知ったの?」


 そう。これが違和感としてあったんだ。

 最初は、相手がこの世界に先に来ていて、色々悪さをして、悪の魔法少女と呼ばれるようになったと思っていた。


 でもそれはあり得ない。

 この世界では皆が魔法を使える。

 皆が魔法が使える世界の少女はすべからく魔法少女で、だから、その魔法少女という言葉には少女以上の意味はない。

 現代の地球で、女の子に向かって地球の少女などと言わないのと同じだ。地球人の少女はすべからく地球の少女なのだから。

 リズお姉ちゃんとの話でそう理解した。


 次に思ったのは神様がそう呼んでいたのを聞いたのだろうという仮説で、さっき否定されるまでそれが正解だと思っていた。


 でもそれが否定された以上、魔法少女本人の言葉を聞かないと、悪の魔法少女という単語は出てこない。


朔夜さくやに。本人に聞いた。悪の魔法少女になると)


 管理精霊はあっさりとそう告げた。


「なるほどね。あなた、もしかして、悪の魔法少女の側でも、コンパクトやステッキの使い方を教えていたりするの?」

(条件を同じにする必要があった。だからお前に教えたような情報は朔夜にも教えていた)


 うん。やっぱりね。

 私は大きな溜息をついた。


 正直怒鳴り散らしたいけど、ストレス発散以外の意味はないと理性で感情を押しとどめる。今は何より冷静さを失うわけにはいかない。


「それは、あの神様の指示?」

(全知であり全能であるお方からの指示書に従ったのは事実だ)


 それじゃ管理精霊を責めても無意味かな?

 管理精霊は、あの自称神様には反抗とか出来ないっぽいし、自主的にどうこうという事でないなら罪を問うても意味はない。

 まあ、罪の有無と、私が許すかどうかは別だけどね。


「それじゃもうひとつ。あなたはその朔夜ちゃんに、私のことをどのように伝えたの?」

(この世界には日本からやってきた魔法少女がいる。君より幼い姿だが力は絶大で、この世界に彼女を倒せる存在は君しかいない。そして彼女は魔法を使った犯罪に手を染めている。まだ人死にこそ出ていないが、彼女がこれ以上の罪を重ねる前に、できれば彼女に対して君の魔法少女の力を振るって欲しい。だが、それをすれば、君はこの世界では悪と言われることになるだろう。だ)


 嘘は言ってない、のかな?

 私は日本から来た魔法少女だし、肉体年齢12歳だし、この世界の人では魔法少女に傷すら付けられないらしい。私を止めるだけならお巡りさんで十分だけど、倒せる存在となると、この世界の人じゃ無理なのだろう。

 で、花火の件で現行犯逮捕されてしまった。不起訴だったけど、不起訴が確定する前であれば犯罪に手を染めている、というのも嘘じゃない。

 でも不起訴になった以上、私を倒そうとすれば、朔夜ちゃんの方が犯罪者だ。

 加えて言えば、私に対して魔法少女の力を振るって欲しいという管理精霊の言葉も嘘ではないのだろう。

 なるほどねぇ。

 悪のマスコットキャラが魔法少女を操るとか、何が正義で何が敵なのかを魔法少女に教えて誘導するのはマスコットキャラの役割だ、なんてベタなテンプレだと思っていたけど、私も朔夜ちゃんもすっかり騙されてたわけだね。

 それにしても。


「その流れで、悪の魔法少女になるって答えたの? 朔夜ちゃんは」

(そうだ)


 うわ、すっげー良い娘じゃん。

 想像以上なんですけど。

 何これ、純真か?

 妹にほしい、ください。幸せにしますから。

 あ、朔夜ちゃん14歳で私が12歳だから、私がプティ・スールになるのかな?


『陽菜、タイが曲がっていてよ』


 とか言われるために私の魔法少女の服装はセーラー服だったのね?


 閑話休題それはさておき


「ま、まあ大体流れは見えたわ……ちなみに私が日本で死んだのは偶然?」

(知らぬ。が、偶然だろう。お前自身には特殊な能力はない。知識は私を使えば引き出せる。お前の世界の人間なら誰でも構わぬはずだから、お前である必然性はない)


 良かった。

 それなら辛うじて許容できる。さすがに殺された相手だったりしたら許せないからね。

 でも私の世界出身ってところには意味があるんだね。


 さて、それじゃこれが本題その1。


「で、私たちを戦わせようとしていた理由は?」

(2万年前、私が魔素と魔法と知恵をこの世界に与えた。だが、昨今、この世界では魔素の使用量が急激に増大し、近い将来、魔素不足となる可能性が見えてきたのだ)

「全知な神様がいるのに失敗を予見できなかったんだ?」

(うむ。全知であっても想定外は起きうる。そしてこの世界に問題が生じているのは事実だ。故に対策を講じることとなった)


 それって全知って言って良いのかな?


「また魔素を持ってくればいいんじゃないの?」


 全能なら、増やせるよね。


(持ってくるには数千年の準備期間が必要となる。それでは手遅れになる)


 あれ?

 でもメーネさんのお願いを聞いてたよね?


「海岸線沿いの魔素量を増やすとか言ってなかったっけ?」

(あの娘の提示した条件はこの国の魔力に手を付けず、海岸線を今に倍する魔素で覆うというものだ。魔素は、魔素、魔力、物質の三態を取る。物質から直接魔素を取り出せば条件を満たすことは可能だ)

「なら、その要領で増やせば……って大量の物質が消えるのは不味いか」

(ああ、それに魔素の総量が増えるわけでもない)

「魔法少女の魔法は、魔素を生み出してるんだっけ?」

(そうだ。自分が使う以上の魔素が生まれる。全てが魔素のまま拡散するわけではないが、それでも最終的には必要量が生み出せる計算だ)

「魔法少女の魔法をこっちの人が使うわけにはいかないの?」

(無理だ。こちらの世界の人間では、周辺魔素を使うことになるし、その魔素量に耐えきれる者はいない。たとえ耐えられたとしても、お前達以外がそれを為せば最悪の場合、世界が失われる。世界を渡ったことで、お前達は特異点となった。ゆえに、お前達のそばであれば法則の破れが許容される。それ以外で法則の破れが生じれば、それは世界の危機となる)


 私は気付かないうちにブラックホールにでもなっていたらしい。

 それにしても世界が失われるって大げさな。


「そんなに法則が大事なの?」

(もしも特異点以外で法則が異なる空間が重なり、新たしい法則が優位であれば、接続されたすべての空間は新しい法則で上書きされる。お前が知る中でこれに一番近いのがビックバンだ)


 ビッグバンで上書きって。

 そりゃ確かに世界が消えるわね。


「信じがたいけど、あなたは神様に誓っているわけだし、そこまでは理解したわ……でも、なぜそれで魔法少女同士を戦わせようという話になるの?」

(人間とは、戦いの中でこそ技術と知恵を磨くものだ。初期状態で魔法少女が使える力はそれほど大きな物ではないため鍛える必要があった)

「戦いの中で技術を磨いてきたというのは否定しないけどさ、なんで初期状態で十分な力を与えなかったの?」

(魔法抵抗が弱すぎるためだ。そのおかげで大量の魔素と魔力に晒されても生き延びられるが、物理的な影響力を持つ魔法を浴びれば、普通の人間よりも大きなダメージを受けるという話はしたな? 十分な力を与えるには肉体強度を上げる魔法を常時無意識に発動できるようになる必要があるが、そんなことをすれば、初期状態の魔法少女の体は耐えきれない。そのため、戦って器を成長させねばならない)

「魔法はイメージ次第って言う割りに色々制約があるのね」

(魔法は魔素と魔力に基づく法則の集大成だ。イメージで操作可能だという部分に食いついているようだが、それは単にインターフェースがそうであると言うだけの話だ。お前達の世界地球では文字入力で様々な制御を行っていたな? 自分の肉体を使う以外の選択肢を持たなかった頃の人類からしたら、それも十分に異常で、何でも出来る奇蹟の領域の技に見えるのではないのか?)


 そう言われると、そんな気がしないでもないけど、金の銃弾とかが出てくる辺りとか、インターフェースの違いの一言じゃ納得しがたかったりもする。


(ところで、朔夜にもこれらの情報を伝えるか?)

「私から伝える予定だけど。なぜ?」

(いや、朔夜が痺れを切らせてこちらに向かうと言い出した)

「次の言葉を一言一句違えずに伝えて。相手の魔法少女、陽菜が白旗を揚げている。戦う意思はなく話し合おうと言っている。なお犯罪者だというのは誤報。小さな行き違いから警察に保護されたが、無罪放免となっている」

(承知した……伝えたところ、誤解と分かり喜んでいる……しかし、魔法少女が魔素を生み出さねば、遠からず文明が崩壊するのだが)

「そこはこれから考えよう。てゆうかさ、聞いた限りじゃ朔夜ちゃんって戦いよりも歌とかお花とか、愛とか友情で世界を守るタイプの魔法少女っぽいし、そっち方面に舵を切ったら?」

(確かに朔夜に好戦的な部分は少なく見えるが……世界を救うには切磋琢磨が必要なのではないか?)


 それが手っ取り早いのは確かだけどね。

 でも切磋琢磨と言っても色々やり方はある。


「私たちの正体を隠す必要はないんだよね? だったら、国とかに協力を求めたりとかしてもいいんでしょ?」


 魔素を生み出せるのが魔法少女だけだとしても、国の頭脳集団をシンクタンクにするとか、やりようはあるはずだ。

 ブートキャンプみたいなのは嫌だけど、効率の良い育成方法とかが見付かるかも知れないし。

 あ、それ以前に、強力な破壊魔法を撃ち合うのが必要だとしたら、国の許可無しにドッカンドッカンやるのも問題だろうから、いずれにしても許可は必要か。


(ああ、それは構わぬ。目的は文明の崩壊の阻止だ。それが叶うのならば方法は問わぬ……ああ、朔夜が来たようだ)

「早いわね」

(朔夜は飛べるからな)

「飛行魔法ってヤツ?」

(そちらの世界の神話をイメージして、風魔法と組み合わせたと言っていたが)


 突然上空を覆う樹冠が弾け、木の枝と木の葉が舞い落ち、暗い森の中に光が差し込む。

 スポットライトのような光の中、真っ白い翼を背負った白い少女が降下してきた。


「天使?」

(あれが朔夜だ)


 真っ白い翼を背負った白い鎧の少女。

 銀色の髪に紫の瞳。

 手には先端に大きな……クリスマスツリーの先端に付ける星――ベツレヘムの星に似た大きな金色の星が付いたピンクのステッキを握り、自分が降りてきた際に開けてしまった樹冠の穴を見上げて困ったような顔をしている。


 うん。可愛い。

 鎧を着ているからスタイルは不明だけど、あの顔は文句なしに可愛く、愛らしい。


 奇矯な出で立ちなのに、それがまったく気にならないレベルの美少女がそこにいた。

 白い鎧はラメ入り純白なんだけど、なんというか、ラメの煌めきすら彼女の美しさの前にはかすんで見える。

 そうやってしばらく見蕩れていると、その翼が空気に溶けるように消え去っていく。


「あの……あなたが、陽菜ちゃん、ですね?」

「あ、うん。朔夜ちゃんだね? その鎧、すっごく可愛いね」

「恥ずかしいんだよ、これ。キラキラしすぎで。もっと落ち着いた純白なら良かったのに……って、あの、陽菜ちゃんは日本人で、こっちの世界で犯罪を犯したと誤解されて、一時的に保護されてたってことで良いんだよね?」

(そうだ。私が……)

「あー、管理精霊は黙ってて」


 こんな娘が騙されてたとか伝えるのは忍びない。


「まずは自己紹介。私は陽菜。白瀬陽菜。日本で事故で死んじゃって、昨日の夜にこっちに来ました。こっちの世界では勝手に魔法を使うのは罪で、知らずに花火の魔法を打ち上げてたら警察みたいな組織に保護されて、ワーカーさんのところでお世話になってる。まだ、こっちの世界のことは何も知らないんだ。ワーカーさんとその友達には魔法少女の話はしちゃってて、私の魔法のステッキは鉄砲の形をしてるから、今日は試し撃ちのためにここに来てたの」

「あ、私は水城朔夜です。病気で死んで、夕べこちらに来て、直前に来た人と同等の装備が与えられてて、その中にお金とかがあったから、深夜営業のお店で朝まで……で、その間に管理精霊さんに色々教わって、陽菜ちゃんを追ってここまで来ました……陽菜ちゃんと戦わずに済んで本当に良かった」


 朔夜ちゃんはそう言うと、緊張の糸が切れたのか、ポロリと涙をこぼすと、その場に膝をつき、空を見上げて泣き出してしまった。


「あー、もう、こんな娘を戦わせようとしてたなんて。管理精霊は反省なさい」

(うむ。この様子では実戦に耐えきれずに戦いを放棄しただろうな。その判断ミスは反省しよう)


 そーじゃねーだろ。


 私は泣きじゃくる朔夜ちゃんを抱きしめて、背中を撫でる。

 暫くそうしていると朔夜ちゃんは落ち着いたようで、恥ずかしそうに


「ごめんなさい、もう大丈夫だから……私の方がお姉さんなのに恥ずかしいな、もう」


 と私の手の中から抜け出した。


「ところで、さっき、陽菜ちゃん、魔法が罪になるっていってたけど……私、ここまで魔法で飛んで来ちゃってて……」

「管理精霊、朔夜ちゃんの使った魔法は魔法少女の魔法?」

(そうだ。彼女にはお前と対極の立場にいてもらう必要があった。ゆえに彼女に罪を犯させるわけにはいかなかった)


 ふむ。

 色々ひどいことしてくれたけど、その判断だけは認めよう。

 その理由が、私が犯罪魔法少女で朔夜ちゃんを正義の魔法少女と位置づけるためとは言え、朔夜ちゃんを犯罪者にするよりはずっとマシだ。


「朔夜ちゃん。魔法少女の魔法は普通の魔法とは違うんだって。魔法少女の魔法を使うのは罪にならないから大丈夫だよ」

「良かったぁ……ってあれ? あれれ?」


 不意に朔夜ちゃんの装備が溶けるように消えてゆく……って私もだ!


 私は慌てて旗にしたワンピースを解いて朔夜ちゃんの頭から被せ、自分はアイテムボックスから部屋着を取り出して着込もうとするが、なぜかアイテムボックスが無反応だったので、ワンピースを縛るのに使っていたタオルで体を隠した。


「管理精霊! 何があったの?」

(ああ、恐らくだが、タイミング的にはこの周辺の魔素を増やすための術式が発動した影響だ。地表の物質は対象外としたが、魔法少女の装束は物質化した魔力そのものだから、影響を受けてしまったのだろう)

「いい加減な話ね。朔夜ちゃんが飛んでる時じゃなくて良かったわ……他に影響はないんでしょうね?」

(対象とした物質は海岸線から少し行った海底の地下の土だ。地表に影響など……あ)


『あ』って言った。今管理精霊が『あ』って言った。


「何が起きたの? 状況を端的に述べなさい!」

(うむ。海底で眠っていた水竜が目覚めた……なるほど、魔法少女の装束が消えたのはそれか)

「竜? ……なんだ、脅かさないでよね」

「陽菜ちゃん、だ、大丈夫なの? いきなり竜だなんて、魔法少女デビュー戦には荷が重いんじゃ?」

「うん。この世界では、効率よく竜を倒す方法が確立されていて、空飛ぶ鉱山なんて呼ばれて、絶滅が危惧されてるくらいだから。それに、この演習場は大きな傭兵ギルドの持ち物だから十分な戦力もあるだろうし」


=====

補足

正直、こういう展開(主人公がいいように騙されたり)はあんまり受けないかな、と思いつつも書きました。だってほら、こういうのを書いてみたかったからw


ちりばめた諸々の一端。


■2話より。

 マスコットキャラは、無邪気で純粋な魔法少女に何が正義で誰が敵なのかを端的に教えてくれる存在だ。

 中には魔法少女を道具にする悪のマスコットキャラもいるけど、戦う魔法少女の場合、魔法少女が敵を敵と認識するのはマスコットキャラの誘導に寄るところが大きい。


陽菜はこんなこと考えてたのにがっつり騙されました。

管理精霊がキューベエみたいな外見なら騙されなかったかもですけど。


■5話より

(自衛の手段がないとお前が死ぬかも知れないが?)


まあ、可能性について述べてるだけなので、ギリギリ嘘じゃないのです。

管理精霊の言動はそういうのが多いです。


■6話より

(悪の魔法少女。すべてにして絶対なるお方が、お前と同じようにチャンスを与えた子供だ。パチモン少女のお前と違い、前世での年齢も14歳)

(相手は、遠距離魔法攻撃をしかけてくる可能性もある。武器を不要と言うのなら、どうやって対処するのかは検討しておけ。武器を使わない場合、私はサポート機能を停止する。それではさようなら。お前が生き延びられることを、万物の王たるお方に祈ろう)


■7話より

「その、陽菜、ひとつ質問していい? 魔法少女っていう概念がよく分からないんだけど……陽菜は魔法を使える少女だから、元々魔法少女よね。でもそういう意味じゃなさそうだし」

 皆が魔法が使える世界の少女はすべからく魔法少女。言われてみればその通り。


■10話

「そうねぇ。では、時は5時間後。この国の北部海岸線を、この国の魔力に手を付けず、今に倍する魔素で覆って頂けますかぁ?」


■10話(陽菜の変身時のデータを見て)

「魔力がどうしたのよ……って、何この数字。小さい都市国家の1日の消費魔力を上回ってない? でも、あれ? 直前のデータだと室内の魔素量は増えてるけど、これだけの魔力を生み出せる量じゃないわね」

「もしもその魔力を生み出せるだけの魔素が充満していたらぁ、私たちは死んでいたでしょうねぇ」


■15話

(甘えるな。世界を創り賜うたお方からの神聖なる使命は、お前が魔法少女としての務めを果たすための補助だ。質問をされれば嘘偽りなく答えもするし、気まぐれに助けてやることもあるが、それを当然と思うならこれ以上手は貸さぬぞ)


まあ、読み直す人はいないでしょうから、ざっと目に付いたのを抜粋してみました。

他にも色々仕込んでますが、それはこれからのお楽しみということでお付き合いいただけますと幸いです。

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