第2話 あなたは神を信じますか?
私は周囲を見回して呆然とした。
前回と同じ始まり方だって?
知らないよそんなこと。
それよりも今の状況を誰か説明プリーズ!
私の周囲には、銃や杖を構えた制服を着た人たちがいて、少なくとも銃口は間違いなく私を狙っていた。
銃は私の知らない物だけど、太いサイレンサーが特徴的な短機関銃によく似た形状で、前に
あれ?
剣と魔法じゃないの?
ファンタジーで銃ってありなの?
まあ、そりゃ、こんな高層ビルとか自動車とか作れる技術があったら、銃くらいは作られるか。銃だって、火薬じゃなく魔法で弾丸を撃ち出している可能性もあるわけで、見た目が似ているから同じ物と思い込むのは危険だ。
そんな私の
「ええとお嬢ちゃん? 無許可魔法行使の現行犯で逮捕……いや、身柄を拘束させてもらうよ」
「あの、あれ? 魔法って無断で無許可で使ったらダメなの?」
「小学校で習う常識の筈だが? 君はもしかして外国人か? それならパスポートを見せてくれないか? それか
「……ありません」
私は手錠――どうやら魔法の行使が妨害される類いのものらしい、を掛けられ、パトカーによく似た、天井に回転灯みたいなものが付いた車に乗せられて連行された。
魔法使うのに許可がいるとか、聞いてないよ。
私がほんの少しやさぐれても、それは仕方のないことだと思うのです。
というわけで。
もう! こんな世界ならパスポートくらい入れといてよね!
「あなたには黙秘権があります。あなたの供述は法廷であなたに不利な証拠として用いられる事があります。あなたは弁護士の立ち会いを求める権利があります。弁護士を依頼する経済的余裕がなければ、公選弁護人を依頼する権利があります。何か質問は?」
異世界の取調室でいきなりミランダ警告を聞かされた。いや、世界が違うんだから、多分、ミランダさんは関係ないんだろうけど、それはドラマや映画でよく見るアレだった。
ちなみに日本の警察官はこうした権利の告知は行なわないらしい。
検察とかはやるらしいけど、私は警察と検察の区別がついていない。「異議あり!」って言われるのが検察だっけ?
それはさておき。
この状況を作った存在について、話してしまってもよいのだろうか。宗教と政治と好きな球団の話は、よく知らない人としたらいけないって聞いたことがあるけど。
でも今の私は手探り状態なのだから、分からないことは質問してみるしかない。
幸い、何か質問はないかって聞かれてるわけだし。
だから私は、とりあえずこう尋ねることにした。
「……あなたは神を信じますか?」
「宗教は間に合ってます」
「いや、そうじゃなくて、私は神様にここに送られてきたの!」
「へぇ、なんて神様でしたか?……あ、お嬢ちゃんの住所と名前と年齢、家族の連絡先を教えて貰えるかな?」
まるで子供を相手にするような話し方は、頭がおかしいと思われてるんだろうな。
まあ私だって、知らない人に、自分は神様に送り込まれたなんて言われたら腫れ物に触れるように扱うけどさ。
「私の名前は
「外国の住所かな? 聞いたことないけど……ちょっと地図で指差して貰えるかな?」
取り調べの人は、スマホに島の地図のようなものを表示して私に見せてきた。
最初はこのあたりの地図だと思って、知らない。と答えたらおかしな顔をされたので、よく見てみると地図の上に、世界地図と表記されていた。
大陸はひとつきりで、後は世界地図上では小さく見える島がたくさん。それは、逆さにしても横から見ても地球の世界地図には見えなかった。
「異世界から神様に連れてこられたので、何も分かりません」
「分かった。ちょっと婦警を呼んでくるから、持ち物検査に付き合って貰うよ?」
「信じる気がないですね」
「勿論信じるとも。異世界から神様に連れてこられたから魔法を勝手に使ったらダメだってことも知らなかったんだね。でも言葉と魔法をどこで覚えたのか教えてくれると助かるんだけどな」
「魔法の使い方と、言葉は神様が頭の中に入れておいてくれたんです」
うん、もうね、自分で言っておきながら、そりゃ信じないよねって思ってしまうけど。
仕方ないじゃん。事実なんだから!
「うんうん。私も外国語には苦労しているから、神様とやら会ったら世界中の言葉を覚えさせて貰いたいな」
「大陸一個しかないのに、外国語があるんだ」
「そりゃ、国ごとに言葉は少しずつ違うよ」
それって方言って言わない?
まあうちのお婆ちゃんの本気の東北弁は、私もヒアリングできませんけども。
「あ、そうだ。このベルト、アイテムボックスになってます。神様に貰ったんです」
これなら証拠になるか? と思ったら、うんうん、と頷かれた。
「アイテムボックスは高価だけど便利だからね。へぇ、神様も使ってるんだねぇ」
何を言っても、うんうん分かってるから。落ち着いて答えてね。と腫れ物に触れるように扱われる。
そして妙に色っぽい婦警さん? がやってきて、別室で私の身体検査と持ち物検査が始まった。
てゆーか、普通は取り調べの前にやらない?
あれか。
何かあってもお前なんて余裕で取り押さえられるぜ、ってこと?
抵抗できるならしてみろって?
ちなみに手錠は取調室に連行されるなり、速攻で外されているからその気になったら魔法は使えるんだけど。
まず、アイテムボックスの中身を全部出して、チェックして貰う。
服も下着も靴も、全部こちらの世界のメーカーのものらしく、ブランドものばかりだと驚かれ、着ている服のポケットなども確認された。
そして、それが発見された。
「これは……コンパクトミラーでしょうか?」
「え? 身に覚えがないですけど……うわぁ」
それは見るからに分厚いコンパクトミラーだった。
コンパクトって呼んだらJAROに訴えられそうな厚みで、表面に小さな宝石がちりばめられ、本体はパステルピンクで、二枚貝を模した形をしている。
まあ貝は貝でも、サクラ貝みたいな可愛いのじゃなくて、シャコ貝みたいなやつだけど。
蓋を開けると、片面は鏡、もう片方は中央に大きな透明な水晶? それと、手前にははまるで魔法少女のステッキのミニチュアのようなものが入っている。
当然ながらパフもパウダーも入ってないし入れるスペースもない。
そして、全体的にとてもキラキラしていた。
「何かありました?」
思わず声を上げた私に、婦警さんはそう聞いてきた。
「いえいえ、何というか、あんまり格好良くないなって思っただけです」
「可愛いですよね?」
婦警さんは、コンパクトの中央の大きめの水晶に触れながらそう言った。
コンパクト系のトリガーは大抵そのあたりのボタンとか音声入力だ。
「危ない!」
思わず婦警さんの手からコンパクトを奪っていた。
婦警さんはそんな私に優しく微笑みかけた。
「あらあら、勝手に見ちゃってごめんなさいね」
どうやら私がコンパクトに触られて怒ったのだと思われたらしい。
でも仕方なかったんです。
だって婦警さん、すごくスタイルがよくて、こんな人が魔法少女の恰好とかしたら、色々はみ出して、それこそお巡りさんに逮捕されちゃいます。
「いえ、その、別に怒ってないです……ええと、持ち物検査の方は?」
「ええともう少しですねぇ。このカード、ちょっと調べさせて貰いますね?」
婦警さんは、非接触体温計のようなものをカードに向け、読み取った情報を無線だかなんだかで連絡している。
「シルトカードを確認。情報を読み取りました。残額は50万シルトちょうど。所有者データは白瀬 陽菜。12歳。住所は、日本? 埼玉? 座標のない地名のみが表示されてます。ええと、登録日時は……拘束された時刻の1時間前? 登録担当者名は無記名って、そんなあり得ないです……」
「待って待って待って、12歳?」
「ええと? はい、登録データは12歳になってますね。違うんですか?」
私は日本では大学生だった。先日飲酒が解禁となったばかりだが、これでも一応成人だったはずだ。
いやでも、確かに胸のボリュームが少し減ってる?
うるさい! 元々少なかったら分からなかったとか言うな!
改めて掌を見ると、確かに小さい。
事故で腕をなくしてたから、感覚が違っているのだろうと思ってたけど、そうか、なるほど。体が小さくなっていた訳ね。
それにしてもその年齢設定は魔法少女をやれってことですか?
でも神様。あなたは致命的なミスをしています。今どきの魔法少女にはお供のマスコットキャラが必須なのですよ。
マスコットキャラは、無邪気で純粋な魔法少女に何が正義で誰が敵なのかを端的に教えてくれる存在だ。
中には魔法少女を道具にする悪のマスコットキャラもいるけど、戦う魔法少女の場合、魔法少女が敵を敵と認識するのはマスコットキャラの誘導に寄るところが大きい。
まあ、事件に巻き込まれてというケースもなくはないけど、私が知る限り、グランドストーリーはマスコットキャラの言葉で進められることが多い。
「道具だけ与えたところで、私が使われなければそれまででしょうに……あれ?」
よく見れば、コンパクトの水晶に数字が映し出されていた。
そして、その数字を見つめて分かったことがある。
21600,21599、21598……。
これ、カウントダウンしてる!?
まさか爆弾?
いや、でもこれって神様がくれた道具だし、いくら何でもそんなことは……うん。取りあえずアイテムボックスにしまっておこう。
テンプレ通りならアイテムボックスの中は時間が経過しないはず。
「ええと、もうしまってもよいですか?」
「ええ、そうですねぇ。カードだけ預からせて貰いたいんですけど」
「ええどうぞ」
私は出した中身を手当たり次第にアイテムボックスにしまいこんだ。
コンパクト?
もちろん真っ先にしまったよ。
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