チョコレートはそのままに 8

「どうでもいいけど、シーラカンスは存在するぞ」

 コウジが、溶けた氷で薄くなったオレンジジュースを飲み干して言った。

「見たことないもんは存在しないのと同じだよ」

「見たことないもんこそ、存在するんだよ」

 いつもコウジの言うことに頷いているカツヤも、これには納得出来なかった。

「じゃあさ、コウジは宇宙人がいると思ってるわけか」

「俺には両親がいて、二つ上の姉がいる。これが嘘だと思うか?」

 カツヤは目を細くして口をへの字に結んだ。

「どうしてそうなるんだよ。いるんだろ」

「見たことないじゃないか。見たことないもんは存在しないんじゃないのか」

「屁理屈だ。いるもんといないもんを比べちゃいけない」

「わかってねえな、いるんだよ。俺は宇宙人も恐竜も見たことないけどさ」

「シーラカンスもな」

 コウジは、悲哀にも取れる表情を見せたが、次の瞬間には、抑え切れないような笑みを浮かべていた。

「まあな。でも、サンタクロースは見たことがあるんだ」

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