#09 初めての夜

 結婚披露宴の後、来客は思い思いに夜を過ごす。適度な時間に帰る人もいれば、別にしつらえられた会場で朝まで音楽や酒を楽しむ人もいる。屋敷に滞在する人たちは、翌日、日が高くなってから帰っていく。あとは数多くの使用人が面倒を見てくれる。

 夜も更けてから、ソフィーとルパートは広大な敷地の端にぽつんと建っている、離れの一つに戻った。披露宴の会場からはかなり離れていて、屋敷の喧騒は届かない。建物のまわりに大きな木が何本かあり、そこに巣があるのかふくろうの静かな鳴き声が聞こえる。

 もう長く使われていなかったこの離れをルパートがとても気に入り、結婚が決まってから、二人で過ごす場所として改修し、新たに家具を入れさせたのだ。

 寝室には木製の大きなベッドが置かれている。部屋に入るなり、ルパートはソフィーをうしろから抱きしめた。

「ソフィー……ようやく君を手に入れられる」

 ささやくように言って、首筋に唇をはわせた。ぴったりとしたドレスの上から、体の線をゆっくりたしかめるように撫でられ、背筋にぞくぞくとした戦慄が走った。彼の唇が首から片方だけ開いた肩へと降りてくる。

「ルパート……やめて。まだお化粧も、シャワーも……」

息があがりそうになるのをこらえて、手をふりほどこうとする。

「いや、もう待てない」

ルパートはやめようとせず、さらにソフィーの顔を自分のほうに向けさせると、唇に熱いキスをした。胸元をさぐる彼の手が素肌に触れて、ソフィーは息を呑んだ。

 彼の手が背中にまわり、ファスナーをゆっくりと下ろし、肩からドレスをはずし、下までおろす。レースのブラジャーと青いリボンを結んだガーターベルトがあらわになる。下着だけの姿をルパートに見られていると思うと、ひどく恥ずかしくて、彼の手からのがれるようにソフィーは身をよじった。

 しかしルパートは力を緩めず、自分のほうを向かせると強く彼女を抱きしめた。むき出しになった背中を大きな手で撫でられて、ソフィーの脚から力が抜けてくずおれそうになった。

「ルパート……」

吐息とともに思わず声がもれる。

「ソフィー」

ルパートは彼女を抱き上げて、ベッドへ運んだ。

 頭の芯がしびれてくらくらする。ルパートの手のぬくもりを心地よく感じる一方で、体中の神経が研ぎ澄まされ、全身にぞくぞくとした快感が波のように押し寄せてくる。

 ベッドに横たえたソフィーに、ルパートは優しくていねいな愛撫を加えていった。ゆっくりと熱くあとを残しながら、首筋から肩、脇、ウエストへと手が降りていく。ブラジャーをはずしてその下に手をもぐりこませると、豊かな胸のふくらみを押し上げるように揉みしだかれた。その一方で、熱い口づけはさらに深まり、切ない吐息はルパートに飲み込まれていった。ソフィーは羞恥とこれまで経験のなかった感覚で、息がとまりそうになっていた。

自分でもわからないうちに、高いところへ登らされていくような気がする。

 ルパートの手がさらに下へと降りていき、下着の上からソフィーの中心にふれる。その熱さに彼女は身を縮めるようにしてのがれようとするが、ルパートにのしかかられ、抑え込まれているような形になった。彼はまだ服を着ている。それに気づくと、さらにはずかしさがつのった。まだ糊の硬さが残るフォーマルの白いシャツの感触が、さらに刺激を強める。

「大丈夫だ……力を抜いて」

ルパートが耳元でささやくように言う。

「だめ、できないわ……」

 ルパートはソフィーの唇にまたキスをすると、そのまま喉、そして首を唇でたどり、胸元へとはわせた。ソフィーの体が新たな快感に溶けていく。彼の唇が胸の先にたどりつき、先端を口に含まれたとたん、初めて感じる甘やかな刺激におののき、思わず体をのけぞらせた。

「ああっ……」

 ルパートが身を離し、すばやく服を脱いでふたたび彼女におおいかぶさってきた。まるで高い崖の上に一人で立っているような気がする。ルパートの膝が両足の間に入ってきて、目の前に迫る広い肩にすがりついた。

「ルパート……お願い……」

 背中に腕を回して強く抱きしめると、頭の中で何かがはじけ飛び、ソフィーは高みからまっさかさまに落ちていった。

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