第2話 大空にはばたく鎖
もふ、もふ、という柔らかな感触が顔に覆いかぶさっている。
幼女は薄眼を開けた。
「ん……もう、朝?」
彼女の身長以上もある、丸く白い綿毛がぴょんぴょん飛び跳ねる。いつもは彼女に起こされなければずっと寝ている“ポポ”だが、今回ばかりは待ちきれなくて彼女を起こそうとしたのだろう。
幼女はだるけを押して体を起こし、もふっと抱き着いた。抱き心地の良い“ポポ”に、彼女の目は閉じそうになってしまう。
「何か変な夢をみたなぁ……『12年』が、何とやら……なんだったんだろ、あれ」
綿毛の精霊ポポに語りかけても、よく解らないと身体をすくめた。幼女は寝ぼけまなこをこすりながら窓を見ると……、
「――ふわ! もうこんな時間?」
地面に刺さった日時計の影を見て、飛び起きた。
やばい! すっごい寝過ごしてる!
あわあわと家の中を駆けずり回って、昨日干したばかりのお気に入りの服を見つけ、すぐに着替えた。ドアを開けっぱなしにするくらいに勢いよく外に出て、ダダダと走った。
黄色いシースルーシャツを元気よくはためかせて一直線に駆け、森閑とした林を突っ切って動物達を飛び起こさせる。植物の精霊ポポに餌をやる――水浴びの時間なのだ。
彼女は鋭くとがった枝葉を避けながら林の中を走っていって、一方ポポは林の上をふわふわと飛んでいく。林を抜けた先で二人は合流した。
彼女が向かう先は崖だった。
「行くよ、ポポ!」
言うとすぐに、崖際へ片足を踏みしめて、思いっきり跳ぶ。綿毛のポポは彼女の頭上に移動して、もふ、と彼女――アルスを拾った。風に乗って空にはばたく。
ポポによじ登って特等席にまたがる彼女は、
下には盆地型の樹海が沈んでいて、溢れんばかりに実った果実や木の実がわんさかと成っている。その中心点を通るように、絶壁から絶壁を鷹揚に渡っていく。
彼女たちの上空を見上げれば、環状の輪が果てしなく続いていただろう。
巨大な鎖の輪が連なった、限りなく続く鎖――全部で四本あった。
それら大きな鎖が放射状に交差し、八角形の対角線を形どる。
幾つもある鎖の交差点は、とぐろを巻いた鎖がますます一体化していて禍々しい。太く黒いそれは真下へ黒い稲妻を放つようだった。
地面との接地面は雪を
この世界と空は、鎖という“
鎖の積乱雲は放射状に延び、今日も晴天を邪魔し縦横無尽に駆け巡る。
形容するならば――『邪悪な鳥籠』。
伝承ではかつて世界を滅ぼそうとした邪龍を封緘したときの名残らしい。
だが、どれも錆びついていて、今にも千切れそうな位頼りなかった。
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