【アポカリプティック・サウンド】「 オールド・ラング・サイン」和名曲『蛍の光』

第2話・君にもできる、新しい生命を作ってみよう♪

 混乱している裸の『彼女』に見習い創造神が、空を指差して言った。

「とりあえず、この歌詞なし音楽聴いてみて……大丈夫、聴いても滅びないから」

 空から聴き覚えがあるメロディが流れてきた……店の営業時間終了が近づくと店内で流されて、なんとなくソワソワするアノ曲だった。

『彼女』は、なぜか恐怖を感じて両手で、自分の裸体を抱きしめるとガタガタと震える。


 見習い創造神が指をパチッと鳴らすと音楽が消えて、震えている『彼女』に見習い創造神は訊ねる。

「聴こえた曲名知っているかな?」

「『蛍の光』ですか?」

「和曲名はね……原曲はスコットランドの民謡『オールド・ラング・サイン』……人類を滅ぼした、本家創造神……ややこしくなるから『大神さま』と呼ぼうか。

大神さまが、旧人類を滅ぼす時の終末告知【アポカリプティック・サウンド】として世界中に鳴らしたのが、この曲なんだ……たぶん君の無意識に、曲を聴いた直後の人類絶滅の恐怖心が残っていたんだね……大丈夫、すぐに無意識から消えて忘れるから」

「終末告知の【アポカリプティック・サウンド】?」


「創造神協会には、人類を滅ぼす時に告知する音や音楽を、世界中に流して伝える決まりがあってね──大神さまが、あらかじめ選曲していたのが『オールド・ラング・サイン』……ボクの場合は別の曲を選ぶから、まぁ人類を絶滅させる気は今のところないから安心して」

(『創造神協会』って……なに?)

『彼女』は、次々と説明される混乱する内容を、抱えた頭の中で必死に理解しようとする。

「つまり、人類は神の手で滅ぼされちゃったと……そうなると、あたし、なんで生きているの?」


 見習い創造神の話しだと、蛍の光が流れ終わった時点で、人類の所業に日頃から憤慨していた創造神の大神は、怒りに我を忘れて小惑星を地球にドーンとぶつけてしまったらしい。


「人類だけを滅ぼそうとしていた大神さまも、まさか投げつけた小惑星の勢いが強すぎて……地球ごと粉々になるとは思っていなかったみたいで、冷静になってから少し反省して砕けた地球の近くに漂っていた魂を集めて、ボクたち見習い創造神に新たな世界創造を任せまかせたんだ……大神さまは、もう創造神を引退するんだって。君、自分の名前言えるかな?」

「あたしの、名前?」

『彼女』は、首を横に振る。 

「思い出せない、あたしの過去も家族も、何も覚えていない……あぁぁ、あたし誰?」


 見習い創造神は「うん、うん」と腕組みをしてうなづく。

「しっかりと前世の記憶は抜けているね、創造された人類には必要ないからね………呼び方、君じゃ困るから名前つけておこうか、君たちの子孫が神話を伝える時に始祖人類の名前が無いと困るから【メキ】でどうかな? うん、今から君の名前はメキだ!」

「なんですか! そのイヌやネコに名づけるみたいな、お気楽な勢いの命名は………ちょっと待って、今『創造された人類』とか『始祖人類』って言いませんでした?」

 メキは、見習い創造神の顔をジィッと見ながら訊ねる。

「もしかして、あたし作られたんですか?」


 見習い創造神は、気づいちゃったか………と、いった表情をする。

「そこは、ツッコンじゃいけない部分なんだけれどね………しかたがない、協会規定だと、創造した新人類に追究されたら実演して見せなきゃいけない規定があるから。

メキ、少し足を開いて石台に場所空けて。動物作ってみるから」

 メキが足をV字型に開くと、見習い創造神はどこからか取り出した肌色の粘土を、メキの開いた足の間にドーンと置いた。

 肌色の粘土は、ピクッピクッと震えている──生きている『生命の粘土』だった。

 メキは、その粘土に不思議な親しみを覚えた。

 粘土をコネながら、見習い創造神が言った。

「不思議な気分になるでしょう……メキを作った時に、余った粘土だよ。君もこうやって石台の上でボクに、こねられて生まれたんだよ……骨格に血肉を肉づけして人間の形にするの大変だったんだから、命が宿らなかったら。壊して最初から作らないといけなかったから……えーと、骨格はこれでいいか」

 見習い創造神は、これもまたどこからか取り出した、人間の頭蓋骨を肌色の粘土で包み……ドクロに小さな四肢が生えた、不気味な生き物を作り上げた。

「足は虫みたいな足にしてと、尖ったクチバシみたいな口を付けて、目は虫の複眼で……うわっ、キモい生き物が出来た! 別にいいか一世代限りのデモンストレーション用生物だから」

 見習い創造神が、生き物の口から「ふーっ」と生命の息吹を吹き込むと、命を得た新生物は四脚歩行で台から降りてノロノロと歩きはじめた。

 すぐさま、イカ頭の猛禽類が新生物をワシ爪で捕まえると、そのままどこかへ飛んで行った


 蒼白しているメキに見習い創造神が言った。

「メキも、あんな風に作られたんだよ……肉人形だったメキの『いろいろな穴から生命の息吹を吹き込んで誕生させたんだよ』……メキは人類のイヴ・二号、ちなみに乳房の大きさはボク好みの大きさと形に盛ったから」


「いやいや、知りたくなかった……あんな風に、変態創造神から体をこねくり回されて作られたなんて……んっ? ちょっと待って、今いろいろな穴から息を吹き込んだって言わなかった?」

 見習い創造神は、陽気に笑いながら頭を掻く。

「そこは、気づいちゃいけないところなんだけれどね……体の下の穴から順番に、神が命の息を吹き込んでいって最後に口から息吹を……おヘソからも息を吹き込んだから。あんな穴やこんな穴からも……最初に息を吹き込んだ穴は……メキの」

 メキは耳を両手で押さえて、見習い創造神の言葉を聞かないようにした。


「わーっ、聞きたくない! 意識が無い女の子の体になんて、おぞましい行為を!」

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