第3話 可愛そうな星

 夜、ネオンが灯る夜。「夜景は誰かの頑張りでできている」そんな言葉がよく似合う夜。僕はホテルの窓から"夜景"を見ていた。きっと灯りが出来る前の夜景とはこんな夜景ではなく、ヨダカの目指したあの美しい星々の煌めく夜空の灯りが照らす夜景なのか。ヨダカは今でも煌めいているんだろうか。きっと後数億年は美しく煌めくのであろう。でもその後は?星の死後はブラックホールになる。理科の教科書のコラムに書いてある。端っこで誰も読みもしないコラムに。ブラックホールになってその後は?きっとまた甲虫でも吸い込むのだろう。どこに行っても救われないヨダカ。


 渦に巻かれた思考は必ずと言ってもいいほど暗闇へ誘う。ブラックホールのように渦は吸い込み、その中心はブラックホールのように見えやしない。


 結婚式まで少しある。そのことだけが僕を現実に残していた。彼女の事が好きだから?いやそんなことはない。僕は今まで人を好きになったことはない。強いて言うなら... いややめておこう。渦に巻かれた思考は暗闇にしか辿り着かないのだから。


 小さいころ僕は独りだった。今でもそれは変わらないのか。彼女と出会ったのは小学生の頃だった思う。或いはもっと前の事かもしれない。人間の記憶は曖昧で、過去はきれいに整理されているのでもう脚色されていない生の記憶はない。だから正確な時は刻めていないのだ。しかしあの頃の彼女は独りだった。これは間違いない。

 人間という生き物は集団で生活するようにプログラムされている。では一人だったら?一人でいる相手に惹かれる。磁石のSとNのように。だからか大抵はその気質が真反対であるというのはよくあることだ。僕と彼女も例に洩れず性質は反対だ。彼女がリチウムなら僕は金だ。彼女はすぐに世界に溶け込み、僕は取り残される。明暗を分けたのは中学生の時だっただろう。しかし彼女の芯には誰も触れられないような蟠りーまるで哲人皇帝の欲望のようなーが僕には分かった。それこそが僕と彼女を結び付けたのか。


 初めて出会ったとき彼女は僕に「あなたは本当に一人?」と聞いてきた

「僕はいつでも一人だよ。外にいるときはね」と返した。

「私はね、いつでも一人だよ。今もね」


「僕と一緒にいても?」


「そう、私はいつでも一人」



「面白い冗談だね。だって僕も一人なんだから」



「そうなの?今は私と一緒にいるのに?」



「そうだよ。ヒーローは五人いても、結局赤は一人だろ?」



「貴方は赤が好きなの?」



「どうかな?僕は赤が好きかな?」



「わからないの?」



「世の中分からないことだらけだよ」


 僕が本当に好きな色は黒だった。


 明日は何をしようか。


 目を閉じると周りの灯りは消えた。ヨダカの星はまたブラックホールに一歩近づいたのだ。


 さて明日は何をすべきか

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