第2話 人の世界
都会の喧騒というのはあながち間違っていない。そもそも密集というのはそれだけで音の群れを作る。だから別に喧騒は都会の専売特許ではないだろう。アマゾンのあの静けさに漏れる吐息も田舎の閑静に響く機械達の音も一種の喧騒だ。この世に本当の静寂なんてない。どこに行っても音は自分たちを放っておいてはくれない。
「この世界に一番多い生物は何だと思う?」藤君は開口一番そう尋ねた。
私は特に考えもせず、「ゴキブリとかでしょ?ゴキブリって一匹見たら100匹見るっていうし。」
「確かにね。でも違うよ。この地球で一番多い生物は人間さ。」
藤君は確かにそう答えた。何故そんな話になった流れは何も覚えていないが、その言葉だけを何度も反芻していた。
藤君に送った手紙に嘘偽りはない。ただ一つ誤解はある。どこに住んでいるかは知っている。ただそれだけだ。
結婚は人生の墓場という言葉は時代錯誤だ。新自由主義はこんな言葉を生み出すはずがない。前近代的価値観が何時までも蔓延っているだけだ。
時代の変化というのは現代において激しさを増す。そこには資本主義の差響きがそこにあるだけだ。生み出しては捨て、生み出しては捨てそこに革新が生まれていく。何も家族が違うとは言えない。離婚は資本主義が生み出した。ネグレクトも同じ。捨てるという価値観の台頭だ。これが近代化、現代化だ。
今の彼はそのことを分かっていない、しきりに結婚と叫んでいる。何時までも資本主義に従順することが出来ない、可愛そうな家鴨の子だ。女を墓場に入れたがるジェイソンだ。でも私は彼に同情した。詰まる所それが入籍した理由なんだろう。私の人生は大学の後から何も進んでいない。クロノスの腹の中だ。
藤君に手紙を送った理由は何だろうか。唯一私の"人生"に多く関わった人物だからだろうか、それともあの頃に帰りたいからだろうか。判然としないが、彼に会いたくなったというのが正直な気持ちである。彼が死んだのではないかという噂が流れた時、私は命の危機を感じた。生存確認というのも一つの理由か。
彼を思いに馳せながら、今夜の喧騒に微睡む。こんな喧噪から逃げ出してしまいたい。彼は人間がこの世界に一番多いと思っているが、そんなの間違っている。人間の皮を被ったイドの塊がこの世界にのさばっているだけで人間はこの世界ではマイノリティだ。人間はいつもイドに虐げられる可愛そうな生き物なんだ。都会の喧騒は"ニンゲン"を無視していく。
早く彼に会いたい。"人間"である彼に。
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