第5話

 カスタリアさんはクミラン村で、いいえ、ドゥランで一番人気といっても過言ではない遊び方、《ジン・ラミー》を教えてくれました。札を切る手付きはとっても速くって……でも、何処か優美な感じがして。


「貴女、札遊びは初めて?」


 女の私ですらがドキッとするような囁き声は、スッと胸の内に入って来るような温かさでした。あの方は「声で大抵の性格は分かる」とよく言っていましたが、多分、カスタリアさんは優しい人なんでしょう。


「まず、お互いに一〇枚ずつ札を配るの。はい、コレが貴女の分。見て良いよ」


 言われるがままに手札を開きましたが、何が何やらでした。今となっては「《ラン》が出来やすいな」「♡は捨てていこうかな」と考える事も出来るでしょうが、当時は全くです。


 トランプを生まれて初めて触った私です、きっとカスタリアさんも教えにくくて仕方が無かったでしょうが、紋様の種類から札の読み方、点数の計算、《ジン》の意味や《ノック》、《アンダーカット》を仕掛ける機会まで……一通りの事を教えてくれました。


 私達は寝床に腰を下ろし、横座りに近い状態でジン・ラミーを遊びました。二、三回くらいは何とか手順に従って札を出すだけだったのですが、段々と「こうしたら良いかも?」と考えられるようになって……。多分、カスタリアさんは自分で戦略を考えられるよう、丁寧に順を追ってくれていたのでしょうね。


 気付けばの外は真っ暗です。住民の少ないクミラン村にもポツポツと灯りが灯る頃でした。カスタリアさんの耳がピョコンと立ち上がって、「いけない」と、悪びれる必要も無いのに、申し訳無さそうに微笑みました。


「酒場に呼ばれているの、行かなくちゃ。ごめんね、途中で」


 アレですよね、ジン・ラミーは一〇〇点先取ですよね? やっぱりですか。その時はカスタリアさんが九〇点くらい取っていて、私なんか二〇点ちょっとです。それでもあの人は……私なんかとの勝負を、まるで何かを賭けているような真剣さで……。


 私、すっごく嬉しくって。知らない事が解決したのもありますけど、何より旅人の私に、常識中の常識を優しく指導してくれたカスタリアさんに出会えた事が、はい、とっても!


 カスタリアさんが酒場に行かれた後、私は何度も一人でジン・ラミーをやりました。手札を二人分用意して、自分対自分……みたいな感じで。エヘヘ。


 次の日の朝、宿を出て行く時にご主人に「カスタリアさんは何処ですか」と訊ねたんです。するとご主人は「あぁ、あの子かい」と言って、すぐに顔をしかめたんです。


「ごめんなぁ、お嬢ちゃん。あの子、でなぁ……何か迷惑でも掛けちまったかな」


 代わりに謝るよ、すまん――なんて言いながら、ご主人は頭を下げました。

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