第4話
ご飯はとっても美味しかったですよ。裏山で獲れるイノシシが有名らしくって、脂が乗っていて最高でした! アレを大々的に打ち出せば、もっとお客さんが来る気がします。
後から知った事なんですけど、クミラン村って昔は旅人でごった返していたらしいですね? 宿は何軒もあって、食堂から酒場、土産屋に馬車の逓所まであったとか。そうそう、私達の入った温泉よりずっと大きなものも……。まぁ、今は殆ど取り壊されて、折れた看板に紋様が描かれているだけですが。
美味しいご飯を食べたら、もうやる事はありません。一切ありません。眠たくなるまで、四角い空間から枯れ木を眺めるだけです。昼間の何倍もの虫の声が聞こえてきて、「あぁこれは慣れるまで眠れないな」って思いまして。再び部屋の物色を始めました。
食事前は気付きませんでしたが、ところどころ腐った机に引き出しがありました。取っ手は今にも壊れそうで、恐る恐る開いてみると――中から小さな札の束が出て来ました。トランプです。ドゥランではとても人気の遊具らしいのですが、異邦人の私にはサッパリ……。
前の宿泊客が置いていった品らしく、小箱には「二度と泊まらない。この腐れた宿に天誅を」と書かれていました。中は真新しくて、笑う悪魔のような絵柄の札が二枚と、数字の書かれた札が五二枚。えぇ、数えました。暇でしたからね。
訊けばドゥラン人は毎日トランプで遊ぶようです。それと、お金を賭けて遊ぶ事も。子供ですらがお菓子を賭けるらしく……。私はそういう、何かの勝負で何かをやり取りするのが苦手なんで、「凄い国だなぁ」と。
寝床で札を並べて、でも遊び方も意味も分からないので途方に暮れていましたら、廊下から音がしました。先程のカスタリアさんが食器を片付けていました。あんまりに時間が勿体無いので、「カスタリアさん!」と呼んでみました。彼女の可愛らしい耳がピコンと動いて、配膳板を持ったまま此方へ来てくれました。
「すいません、このトランプというのは、どうやって使うんですか? 私、遊んだ事も見た事も無くって……」
ドゥラン人からすれば、私の質問など「どうやって呼吸をするんですか」と訊ねるも同じでしょう。でも、カスタリアさんは私を馬鹿にする様子も無く、配膳板を机に置くと――。
「教えてあげる」
って言ってくれたんです。見た目は、その、冷たい感じがするんですけど、声はとっても可愛いんです。何か良いですよね、そういう女性って。
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