第2話

《トラデオ》、という場所を知っていますか? もう地図の上からは消えちゃった村らしいんですけど……そこに私を引き取ってくれた方と二人で、二年前まで暮らしていたんです。


 その方は、凄いですよ、だったそうで。教えてはくれませんでしたけど、事故か何かで魔法を使えなくなったらしいです。そのせいですっかり身体が弱くなったみたいで……。


 けれど、魔女って羨ましいですね。殆ど外見が変わらないんですよね。お婆ちゃんみたいな魔女って、アレでしたっけ、とっても長生きしているんですよね? 合っています?


 その方も、少し歳の離れたお姉さんぐらいの姿でした。魔法は使えないけど、その代わりに知識は物凄いんです。色んな事を教えてくれました。本当かどうかは知りませんけど、特に歴史? 神話? そういう類いのお話は毎日のように。


 そんなお話をする時の顔は……私より幼い感じがしました。何千年も前の出来事をまるで見て来たかのように、笑い、悲しみ、怒りながら……。


 毎日お話を聴いて過ごしている内に、私は思ったんです。「あぁ、この世界を色々見て回りたいな」って。そうしていたら、もしかしたら死んだ両親の名残を、何処かで見付けられるかもしれない。


 あの方は何処までも広がるこの世界を、こーんなに小さくして、小さな私に一杯与えてくれました。世界は遠く、しかし身近に有り……だそうです。


 亡くなる数ヶ月前、あの方は寝床から動く事が出来なくなりまして。お世話する私に「もうじき私は死ぬから、あんたは本棚の魔術書を売って旅に出なさい」と言ったんです。


 その時の魔術書が……コレです。売らなかったんです、勿体無いというよりは寂しくって。何て書いてあるか分からないんですよ、どうやらあの方の一族の秘文字みたいで。


 ……読めます? ですよね。ちょっと分かりませんよね、アハハ。そしてあの方が亡くなった後、食べ物だけを背負い布に包んで旅に出ました。大きな街で荷運びや呼び込みをして稼いで、また旅に出てまた稼いで……この繰り返しです。


 大変ですが、楽しい旅です。今までも、これからもきっと。この札――と出会えましたし。


 ……ありゃ!? 《アンダーカット》じゃないですか!? あぁ……二五点足しての負けかぁ……。絶対イケると思ったんだけどなぁ……。


 じゃあ私が切って配りますね、はぁ……。


 そうそう、それでトランプとの出会いなんですけど。二ヶ月か三ヶ月くらい前、割りの良い日雇いがあるって聞きましてね、ドゥラン入りをしたんですよ。稼いだは良いけど、市街地がどうにも宿が高くて。格安の宿を探していたら、案内所のおじさんに「クミラン村へ行きゃあいい」と言われましてね。


 はい、トランプはそこで学びました。綺麗なから。

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