乙女子キユリの記憶

第1話

 ふぅー……極楽極楽……あっ、すいません、他のお客さんがいるのに声を出しちゃって……アハハ、どうも……。


 は、はい! そうなんです、そうなんですよね! やっぱりこういった沢山のお湯に、こう、身体を沈めるとすごーく気持ち良いですよね! 分かってくれますか――へっ? 言葉?


 言葉、言葉……あぁ、って言葉ですか? うぅーんと……詳しい意味は分からないんです。唯、私がまだこーんなに小さかった時、母さんが浴場でこう言っていた気がしまして。いや、父さんだったかな?


 ここにですか? 私一人で来ました。一人で旅をしているんです。結構長いですよ、二年くらいかな? 北から南、東から西、また北に……色々行きました。それなりに苦労もしましたよ、大きな獣に追い掛けられたり、行商に騙されてお腹を壊したり……まっ、生きているから良いんですけど。


 理由? 旅の理由ですか? いえいえ、お答えしますよ、全然隠す事じゃありませんし。


 私、父さんと母さんがいないんです。亡くなったんですよ、昔々に、私だけを遺して。そんな私を引き取ってくれた方がいるんですけど、二年前、その方も亡くなってしまって。今際の際にその方が――。


 あのっ、余り暗くならないで下さいよ! そういう子って沢山いるじゃないですか、マカシオって国じゃ、私なんかよりもっと可哀想な子供達がいましたし。


 どうして明るいの……って? そりゃあ、たまには私だって暗くなりますよ、街を歩いていたら子供連れの家族を見たり……。羨ましいなって。でも、それだけです。


 ……えっ!? ご飯をご馳走してくれるんですか!? いやでも悪いですし、そのぉ……一杯食べちゃったらアレだし……。


 い、良いのかなぁ…………。




 すいません、沢山食べてしまって……。この国の食べ物って凄く美味しいもので……はぁ、そう仰ってくれればアレですけど。


 うぅん、何かお礼をしなくちゃなりませんね。何かお宝でも持っていれば差し上げたのに……あるのはガラクタばかりです。はぁ……。


 はい? コレ、ですか? 《ドゥラン》って国のクミラン村で貰ったもので、色んな遊び方が出来る札らしいです。でも私が知っているのは、何だっけ、じ、じ……《ジン・ラミー》だったっけ。


 えっ、出来るんですかジン何とかを!? うわぁ凄いですね、私達! 奇跡ですよ奇跡! やっぱり旅って良いですよね、こういう事が普通に起こるんですもの!


 ……えぇ、それは流石に悪いです。旅の面白い話をするだけなんて。ちょっとぐらいお金を払った方が――うぅ、そう言われては返す言葉も無いです……。


 それじゃあ、せめてそのお酒のお代わりぐらいは出させて下さい! そして、ジン・ラミーをやりながらお話しても良いですか? 丁度思い出したのが一つありまして、それも、フフ、ジン・ラミーに関わるお話なんです!


 そうそう、申し遅れました。私はキユリ、キユリといいます! よろしくどうぞ!

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