第5話
トランプは絵札がありますよねぇ……? 私、あの絵札が好きじゃないんですよぉ。宗教画のような雰囲気は好きなんですけど、大体の技法って、無駄に割り振られた点数、高くないですかぁ? 技法によると思うんですけど、なぁんか重たい感じがして……。
獣人とやった《ジン・ラミー》も当然のように、絵札が一律一〇点。一回戦は絵札が四枚も入っていて、それも♡Qと♢J、♣Kに♠Qっていう、散らかったようなやつでしたぁ……。あっ、アナタはジン・ラミーご存知ですか? 手札と捨て札を取り替えて――そうですかぁ、だったら手順の説明は省きましょう……フフフ。
私は絵札が嫌いなものですから、サッサと捨てて軽い手札に仕立てたいんですよぉ、エヘヘ。その分、相手は絵札を集めて
相手の捨て札、また拾う札……フフ、これをキチンと観察、そして記憶しておけば、此方で止めておくべき札も自ずと分かるもの。たった五二枚の札です、幾つもある教義や戒律を憶える我々にとって、お遊びですよ……エヘヘ。
揃い手は余り作りません、どちらかといえば
へぇ? へぇー、
話を戻しましょうねぇ……フフフ。一回戦、二回戦は勝って負けてでした。点数差は僅かに三点、この辺りから私は、いつものように卓上を記憶し始めた訳です。
三回戦、私の手札は幸運にも数価八以下ばかり、オマケに♣が五枚と実に素敵な様相でした。獣人は私の捨て札など気にしないようで、山札から引いては軽い数字ばかりを捨てて……手札を重たくしているようでした。
こんな時は早上がりが一番!
フフフ……クッ、あぁ…………腹立たしいですねぇ。
あっと、これはすいません……つい、あの獣人を、いや、悪魔を思ったら信徒らしからぬ顔を……。
えぇ? はい、そうなんですよ。
……ペラギィ様への祈りが足りていなかったのでしょうねぇ、その後、私は失点を繰り返すようになりまして……ヘへ。
そんなつもりは無かったんです……無かったんですけどぉ……フフ、何故か、絵札を手元に置いておきたくなったんです。別に揃い手を作りたくなった訳でも、捨てる手間を惜しんで長い連番を目指した訳でもなくて……。
八回戦で、あの獣人が……くぅ……こう、コツコツっと卓上を叩いた時、私は青ざめましたよぉ……。「さぁ見ろ」と言わんばかりに開かれた手札は、それはもう見事な三枚の揃い手と、残りは全てが連番……。ちなみに、絵札は一枚も無かったのです……。
鮮やかな首切でした。
まぁ、今更ではありますが、何となく、絵札を抱え込みたくなった、あの時の私の考えが分かる気がします。
あの獣人が最初、絵札をせっせと集めているのを見て……フフフ、私はこう思ったんです。「追い詰めてやろう」と。嫌いな獣人種だったというのもありますが、私は崇敬されるべきペラギィ様の教えを伝道に来た者です……ここは一つ、ドカンと強さを見せてやろう――って。そうすれば村長にも、村人にも……強い衝撃を与えられる、そう踏んだんですよぉ……。
まっ、思えば、あの獣人は別に絵札を好んで集めている訳じゃなかったんですねぇ……。それならば、何故? 事故の起こりやすい手札を、危険を冒してまで何度も集めていたのか?
アナタ、どう思いますぅ……?
……ふんふん、ふぅーん……。エヘヘ、私達、気が合いそうですねぇ?
えぇ、えぇ……やっぱりそうですよねぇ? やっぱり、あの獣人は私を完膚無きまでに倒そうとしたんですよねぇ?
いやいや、実に素晴らしい悪魔でしたよあの獣人は……。エヘヘ、だってそうじゃありませんかぁ、私は折角……遥々クミラン村までやって来て、何も村民を欺して変なものを売り付ける気も無く、唯々、天上からの幸福音を届けに来ただけなんですよぉ?
なのに……あの悪魔は、ペラギィ様の教えを拒否するどころか、村から追い出してしまった! 何という損失でしょうか、何という愚行でしょうか……。
断言しますよぉ? 今後、アナタがあの村の近くを寄ったとしても……決して足を止めぬよう。ウフフ、まぁ観光には適しませんし、余所者憎しといった感じですから……。
…………ふぁーあ、大分お話しちゃいましてすいませんねぇ……。アナタのような方を前にすると、つい口が軽くなっちゃって……エヘヘ。
それで、どうでしょう? アナタも教書を読んでみませんかぁ? いえいえ大丈夫です、目酩の徒であれば本来ならお気持ちを頂くのですが、アナタは特別……私の素敵な隣人として……ウフフ、無料でお渡ししますよぉ?
………………あぁ、そう。
それじゃあ、お休みなさい…………チッ。
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