第4話

 ペラギィ教の教義に「獣人を愛せよ」という文言は出て来ません。それに、私、小さい頃に……獣人の盗賊団に襲われて、命からがら逃げたって事がありましてぇ……すっごい嫌いなんですよぉ。


 そんな事がありましたからねぇ、街で獣人を見掛けた時は避けて通るんです。あっちだって私の嫌な顔を見たくないだろうし、こっちだって嫌な顔したくないしぃ……。


 でもでも、エヘヘ……あんないきなり、しかも間近にが現れたんです、こう、不意に出ちゃったんですよぉ。いやーな顔が!


 すぐ謝りました。「ごめんなさい、歯が痛くって」なんて嘘を吐いて。けど……その獣人は黙って私を見て、酒屋の主人からトランプを一組受け取りました。いや、もしかしたら睨んでいたかもなぁ……フフ、あの獣人、それはもう魔獄にいそうなくらい、冷たい目をしていましたから……。


 気付くと周りには人集りです、それも皆、ニヤニヤと私と獣人を見比べては「保養になるねぇ」と酒を一口。ウフフ、やはり……華麗を極めたペラギィ様の信徒ですものねぇ……内外と美しくもなりますよぉ……。


 はい? トランプは出来るのかって? そりゃあ勿論ですよぉ、ウフフ……。歴史によれば、ペラギィ教が興った国には、トランプを初めて遊んだ人のお墓があるくらいですし……。アナタは? あらぁ……お強そうですねぇ。


 さてさて、その獣人との戦いなんですが……フフ、村長が《ジン・ラミー》で勝負しろと言うんです。私としちゃあ何でもいいんですが、何故かあっちが技法を指定してくるものですからねぇ、つい、訊ねちゃいますよねぇ。「皆さんの信ずる神に背く行為はいけませんよ」と……。そしたら村長、今度は顎が外れるくらい笑い出して。こう言うんですよぉ?


「下らない心配など無用だ。お前こそ、その訳の分からない神に祈れ。何とか勝てますように、と。どんな手も使いますから、と」


 不思議な事に……この間も、その後も、ずーっと……獣人は喋らないんです。ウフフ、何を考えているのか分からない、まぁ、不気味な獣人でした……。身振り手振りで村長達と意思疎通はしていましたが、何となく、喋れないって訳じゃあなさそうで。


 それなら何で喋らないんだ、ってなりますよねぇ? 札を配り終えた後に、私、本人に訊いてみたんですよぉ……「何故に口を利かないのですか」って。するとその獣人、私の目をジーッと見つめて、手振りをするんです。


「いいから勝負をしろ」と……ウフフ、フフフフ……。


 あぁ、忌々しい。

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