第3話

 この世には掃いて捨てる程に宗教がありますが――当然、我々ペラギィ教はそのような有象無象とは違いますがね――、何もせず、唯ノンビリしていれば信徒が集まって来る訳ではありません……どの宗教も、そりゃあ熱心に布教活動を行うものです。……そうしなければ、エヘヘ、多くの人々を救済出来ませんもの。


 宗教とは布教、伝道の歴史です。これ無くして栄える宗教はありません。一所でお話をするだけでは大勢の信徒を得られない、という事は、大勢の非信徒の、という事は――大勢の人間が不幸になるのを放って置くだけ、そんなのは非道いですよねぇ? エヘヘ。


 目のいていない方、要するに信徒ではない方ですね。我々はこの方を《目酩もくめいの徒》と呼んでいます。アナタも含め、ペラギィ様を信仰されていない方々は、ウーンと下……魔獄という、それはそれはいけない場所から湧いて来る、悪しき魔力に酔っているのですよ……?


 私、ミコリエ・ナイシンは魔獄六階層に住まう卑しき劣鬼獣れっきじゅう達の発する魔力に、何も知らずに酔い痴れる人々の下を訪れ、酔いを醒まし、真の救済と現来世の絶対幸福を約束しなくてはなりません……フフ、フフフフ。


 その為には……如何にクミラン村のような寒村であっても、必ずその土地の代表者、有力者にお伺いを立てるんですよぉ……? 「お願いします。布教させて下さいな」って……。


 私が村の入口に着いたのは夕方でした。傍を歩いていた木こりさんを呼び止めて訊きましたら、村長は夜になれば大抵酒屋で過ごすとか。宿も取らず――大した宿ではなかったのです、野宿の方がマシなぐらい――、酒屋の主人に、フフフ、そしてお客さんにもを渡して、しばらく待つ事にしました……。


 果実水を二杯飲んだ辺りで、小柄なご老人が現れました、それが村長でした。置くの席を借りて村長に顛末をお話すると、なんとなんと、いきなり怒り出したんですよぉ……ウフフ。「宗教なんざいらん、とっとと出て行け!」ってぇ……。


 今までこういった場面は何度も出くわしました……攻撃されないだけ全然マシです。有力者の理解が得られない時、役立つのが、フフッ、なんです……。主人やお客さんが興奮する村長を宥めてくれました、「そんなに悪い人には見えない」って。


 村長、なかなか頑固でした……「良い人そうに見える奴など信用ならない」なんて言い出すものですからぁ……私、こう提案したんですよぉ。「村長さんが、一番信用している方と、トランプで勝負させて下さい。勝ったらお話をさせて貰って、負けたら村を出て行きます」って。


 湧いたお湯のようにカッカしていた村長が、その時、フッと冷めた顔をして……ニヤリと笑ったんですよぉ……。


 えー、なになにぃって思ったんですけどぉ、フフ、少しして村長の使いが呼んで来た人を見て……私、思わず嫌な顔をしちゃいまして……。


 だって、連れて来られた人、でしたから――。

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