第2話

 この街の傍を通るキレンゼン街道を北方に進んだところに、ドゥランという国があるのをご存知ですかぁ? あら、ご存知? アナタは大変に知識を多く持たれているようですねぇ、教義第四則、『汝、深い知、深い愛を持て』を満たしていますよ?


 このドゥランは国教がありませんから、ペラギィ様の超愛を伝えるには打って付け……という訳なんです。幸いにも伝道行為を禁止する法律は無かったし、治安も良かったので。


 大変なんですよぉ? 実際、伝道とは。皆が皆、アナタのように穏やかで理性的な人でしたら良いのですが、中には宗教と聞いた瞬間、汚水を掛けてくるような方もいるんです、フフフ、困りましたね。


 最初、王都――といってもこぢんまりとした、可愛らしい街です――で始めようと思いまして、市場近くの空き家を借りて、即席の礼拝所を作ったのですが……立ち寄る人は礼拝所をだと勘違いしているらしく、礼拝前に飲む薬草茶を飲むと、私の話も聞かずに「ありがとう」と足早に去って行くんです。


 それでも何日か経つと「そういうところだったのか」とご理解を頂き、一人のご老人が私の話を通してペラギィ様の信徒になられましたよぉ。どうして信徒になられたのか、伺ってみると、「孫の嫁に来てくれないか」ですって。教書だけをお渡しして、その日で礼拝所は畳みました、フフフ。


 ドゥランに入った頃は誰も彼もが無神論者だと思いましたが、ある意味では正しく、ある意味では間違っていた事に気付きましたぁ……。


 皆さん、《トランプ》を熱心に遊ばれているんですよぉ、ご存知ですか? 手の平程の大きさで、大体は白くて――あらぁ、本当にアナタは物知りですねぇ。そうです、ドゥラン人は神霊の代わりに札遊びを崇め、偶然の絡む技法でも「自分の実力だ」と信じ込んでいるんです。


 コレだ、と私は思いましたよぉ!


 教義第一五則、『汝、適度に遊べ。適切な遊び事は良縁をもたらす』。この教義とドゥラン人のトランプ信仰が合致する事に気付いた私は、エヘヘ、六日程で信徒を一〇〇人近くまで増やせました。


 どんな困難もペラギィ様がご用意されたもの、その信徒が必ず乗り越えられると畏れ多くも信じて下さっているから! また一つ、私はペラギィ様の深慮に報いる事が出来ましたぁ、エヘヘ。


 王都での布教は代表者にお任せして、次に私は地方へと足を運びました。殆ど人家がない場所でも、私は……ウフフ、しっかりと布教していくつもりですからね。うん…………そのつもりでした。


 馬車を信徒からお借りして、着いた先はクミラン村という寒村……聞いた話によれば、昔は王都に行き帰りする旅人を癒した温泉があったそうですが……枯れたらしいです、フフ。


 この村は――はぁ……。口にするのも憚られるような……忌々しい場所でした。


 文字通り、悪魔の巣食う場所でしたから……。

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