伝道女ミコリエの神託

第1話

 ……ご、ごめんなさいねぇ? お見掛けしたところ旅人さん、ですよね? エヘヘ、いや本当にごめんなさい……折角お疲れでしょうに、相部屋だなんて。


 あぁいえいえ、結構です結構です。私、こういった旅に慣れているものでして、フフ、その、フカフカな毛布より、丁度こんな――板のような布っ切れが性に合っているんです。


 本当すいませんねぇ、荷物だけ、こっちの寝床に置かせて貰いますから……。よいしょっと。フゥ……エヘヘ。


 申し遅れましたね、私の名前はミコリエ、ミコリエ・ナイシンといいます。お見知り置き下さい、唯の、ヘへ、お馬鹿な女です。フフ。


 あらぁ、ここには時計が無いんですねぇ? すいませんが、ちょっと時間を教えて貰えますか? お恥ずかしい事に、旅先で盗まれまして……フフ。へぇ? まだこんな時間? 日の入りが早くなりましたもんねぇ。あぁビックリしたなぁ。フフ。


 それじゃあ、私はちょっと出て来ますから。旅人さんが少しでもゆっくり出来るよう、そこらを散歩して来ます。あぁお構い無く、お構い無く……ついでにやりたい事もありますし、エヘヘ……。


 では、また後程……。




 ……おや、起こしてしまいましたか? どうもすいませんねぇ……あら、寝酒でしょうかぁ?


 ふむぅ、なるほど、なるほどぉ……。迷惑料と思ってお持ちしたコレが、どうもお役に立ちそうですね? エヘヘヘへ。良いんです良いんです、この街は古酒に強く、また安いという好事家御用達ですからねぇ、手に入るんです。


 ちょっと、すいませんけど飲んでみて下さいな。どんな味か気になるものでしてねぇ、フフ。


 ……あっと、持ち込んでおいてなんですが、私、事情がありましてお酒を飲めないんですよぉ。体質じゃないんですよ、その、まぁ……《ぺラギィ教》の信徒ですから、ヘへ、エヘヘヘへ……。


 へぇっ? あれ、ペラギィ教をご存知なんですかぁ? はい、はいはいはい、そうですそうですぅ! そのペラギィなんですよぉ! えぇー何でご存知なんですかぁ? 余程の神話研究家とお見受けしましたが……。


 はい、その通りです。私、ここからずーっと遠い国で祭司補佐を務めていたんですけどぉ、フフ、この度、二年くらいを掛けて伝道をしているんですぅ。フフフ。


 大変失礼ですけどぉ……アナタ、何処かの宗教に入られていますかぁ? いない? あぁそれならば是非、是非是非是非、私のお話を聴いて頂けませんかねぇ、そのお酒にピッタリの肴も、ほら、買って来ましたから……。


 え? 興味が無い? 信じるのは自分だけ?


 ………………あぁ、そう。


 ……まぁ、相部屋も全てはペラギィ様のご意向ですし、アナタと過ごす一夜には何らかの意味があるのでしょう。お暇潰しに、私の苦労話でも聴いて下さいなぁ。教義第一九則、『汝、会話を楽しめ』――。

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