第2話

 この街から東に二〇〇ラープ(一ラープがおおよそ二キロメートル)、馬車を走らせたところにという宿場村がある。何処も彼処もボロくさい村だが、こんなところにもキチンと酒場はあるもんだ。無論――酒場があるならトランプが出来るって寸法よ。


 俺はすぐにホーデンドライを注文し――美味いよな、俺はいつもコイツを頼むんだ――、ツマミ代わりのトランプを一組買い、そこらで暇そうにしている爺を捕まえていつもの台詞を言ってやる。「よう、酔い覚ましのジン・ラミーはどうだい」ってな。


 得点方法はドゥラン人お決まりの《25/25制ニコニコ》、一〇〇点先取だ。最初に配ってやるのが俺の流儀でな、手際良く一〇枚を配り、先手後手を相手に選ばせる。当然、イカサマなんてしねぇぞ。そんな事をしなくとも勝てるからな。


 禿頭の爺は嬉しそうに先手を取った。「坊や、良いのかい? 儂ぁ強ぇよ」なんてフガフガ言いながらな。そりゃあドゥラン人同士の中なら強いのかもしれんが、俺は各地を回って腕を磨いたウェーリー様だ。ポンポン、ポンとノックを決めて、あっと言う間に八〇点差よ。


 それから間も無く、俺は当然のように勝利した。爺、顔を真っ赤にして怒っていやがった、「小僧、そんな手はドゥランには無いぞ」なんてな。当たり前よ、俺はドゥラン生まれじゃねぇからな。


 俺の戦い振りを見て闘志が湧いたのか、「次は俺とやろう」などと酒臭い息を吐きながら大工らしい男が前に座った。話すまでもない、奴にはキツい酔い覚ましを贈ったという訳だ。


 負けた衝撃で催したのか、この男が酒場の外でゲーゲーやっている頃、俺は次々と現れる挑戦者カモを薙ぎ倒していった。皮袋が土喰竜どしょくりゅうの腹みたいに膨れ上がった時、俺は――クソ、腹が立ってきた――余計な、それはもう死ぬ程余計な一言を言っちまった。


「この村で一番強いのを連れて来てくれよ。それとも、とっくに倒しちまったかな?」


 俺に毟られた奴らが歯軋りする中、五〇代ぐらいの中年女が「アンタ、まだやれるだろう?」と不敵に笑いやがった。「当然さ。何だ、が一番強いのか?」俺が訊ねると、女は「少し待っていな」と酒場から飛び出しちまった。


 奴の帰りを待たず、そこで宿に帰れば良かったんだ。後悔ってのは、いつでも遅れて来やがるんだもんなぁ。


 稼いだ金で三杯目のホーデンドライをっていると、さっきの女――が来た。他の客は拍手までしてその女を迎えたが、俺はアングリ開いた口を塞ぐのに精一杯さ。何故かって?


 その女は、だったんだ。

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