クミラン村にて
旅人ウェーリーの嘆き
第1話
うわっ! 止めろよその音! それだ、そのコンコンって音を止めろ! 俺はその音が大嫌いなんだよ! 分かった分かった、お前さんの六点勝ちだな。
……すまねぇ、俺とした事が取り乱しちまったよ。いや、ちゃんと理由があるんだ。丁度一休みしたいところだ、休憩がてら話していいかい? ありがとよ。
あれは、とんでもねぇ夜だった。今でも「あの事」を思い出すと、頭にくるやらゾクゾクくるやらで身体が忙しい。だが、まぁ、こんな風に旅先で話せるネタが増えたんだから良しとするか。
お前さんもご存知だろうが、ドゥランって国があるだろう? そこじゃ『可愛い子にはトランプをさせよ』って言われるくらいに《トランプ》が遊ばれていてよ、右を向きゃあトランプを切る音がして、左を向きゃあ大男がトランプに負けてオイオイ泣いていやがる。
要するにドゥラン人は、水と飯と空気と、トランプが無ければ生きていけない人種なんだ。
ドゥランって国は面白いぜ、賭事は一切禁止なんだが、ことトランプ賭博に関しては――黙認という訳なんだ。……おっと、警備兵はいるかい、いないみてぇだな。
ほら、酒場ってあるだろ? そうだ、俺達が今グダグダしているこの場所だ。ドゥランの酒場には必ずと言って良い程、トランプが売っている。こいつを一組買えば、後は相手を見付けて勝負……って流れよ。
俺は勝ち続けた! お前さんにも見せてやりたかったぜ! 毎晩毎晩、各地の酒場に出向いてはトランプを買い、命知らずを募った。奴ら、見ない顔の俺が調子に乗っていると思ったんだろうな、ホイホイ集まって来やがったよ。
何? 何の技法で勝負するかって? 日によって様々だが……最も多かったのが《ジン・ラミー》だ。今までやっていただろ。俺はこの技法が一番強いんだ。事実、地元じゃ殆ど負けた事が無ぇ。
お笑いだったよ、ドゥラン人の顔ときたら! 俺はすぐに《ノック》するのが好きなんだが、奴らは《ノック》を弱虫のやる事だと思っているらしい。
一日目は怖かった。あまりに勝ち過ぎたからさ! 奴らが怖いんじゃない、トランプの女神が気まぐれで俺に大勝ちさせたのかと思ったからな。
二日目は楽しかった。目的地に着くまで何度か日雇いをやろうか考えていたが、一気にそんな心配は要らなくなったからさ。膨れていく皮袋を突く度、揺らす度に俺はトランプの女神に感謝した!
それから俺は夢のような三日目を過ごし、煌めくような四日目を堪能し、――そう、五日目だよ。五日目に、俺は悪夢を見せられた。
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