何処かに蔓延る御伽話

在る所に自分はもともと狼であったという主張をする少年がいたという。彼はある村のほとんどの人間にこのことを吹聴していたが、とうとう理解されることはなかった。村の多くの人間は彼のことを虚言癖の狂人だと噂し、彼を外れ者として扱った。一人の少女は彼のこの噂を払拭しようと尽力するもその願いはハレー彗星のように呆気なく消えた。兎にも角にも彼の更生も噂の是正もすることが出来なかったのだ。それどころか彼女はそれっきり彼のことを嫌うようになってしまったのだ。彼女が言うには狼だった少年はもともと狼なんぞではなく醜い悪魔であり、それこそが欲に塗れた人間なのだと。何故彼女がここまで言うようになったのかはいまだに明らかにはなっていない。

そうして孤独になった少年は家から一歩も出ることなく鬱屈とした生活を続けており、村人たちも彼がいなくなったも同然のように旺盛な生活を続け、少年に対し眼鏡も、歯牙にさえもかけなかった。彼の心中を察するに鬱蒼としたものを想像される。


そうして穏やかで、どこか不穏な日々は進み、在る秋風の香る日の黄昏刻、一人の笛を持った影法師のような男が村を訪問した。彼が訪れると同時に仮面を被って生活していたであろう村人たちのその杞憂が村全体を覆い隠した。男が言うには狼だった男を探しているという。


村人達は此の質問を聴いた瞬間、嬉々として男を歓迎した。それは先ほどまで調律がなされず、不調な音を奏でていたピアノが調律師の手によって、美しい旋律を奏でるように、村の杞憂を払拭した。


村人は狼であったと吹聴していた少年の家を彼に紹介した。謂わばこれは厄介払いであり、善行であった。


翌日狼であったと吹聴していた少年は笛を持った男と共に何処かへ消えた。その後、かつての少年の姿をいまだに誰も見たことがないという。

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