第52話:文化祭、みんなのクラスは?

 放課後、生徒会メンバーがボクの部屋に集まり、夕の指導のもと練習に励んでいた。二時間ほどで休憩に入り、ボクが曲の確認をしていると友里が後ろから声を掛けてきた。


「そういえば天音君のクラスは出し物決まったの?」

「うん、喫茶店をやることになったよ」


 ボクが答えると、みんなが「喫茶店⁉」と驚いた。どうしてだろう。


「喫茶店ってことは、つまりあれかい⁉ 雪君がメイド服を着てご奉仕を……」

「しません」

「なぜ⁉」


 クラスのみんなもこの人達も、どうしてそんなに驚くのだろうか。


「クラスメイトの実行委員が言ってたんだけど、ボクがメイド服を着て接待すると色んな意味で他のクラスにまで迷惑が掛かるから、それは却下だってことになったんだ」

「あ~、そっかぁ。そういう問題があるんだよね~」

「納得ですね」

「あはは! 確かに、雪先輩目当てで来る人が殺到しそうですね!」

「そういう訳で、まだ具体的に決まってるわけじゃないけど、当日は多分裏の手伝いをする感じかな」


 あるいは校内を歩いて宣伝くらいはするのかもしれないけど、その辺の判断は怜奈に任せようかな。


「まぁメイド服は生徒会で着てもらってるから、私達はそこまで推したいわけじゃないけどね。けどそれなら、当日の服装はどうするの? 生徒会としては、あまりコストのかかるものは許可出来ないよ?」

「ああ、それなら大丈夫です。制服の上に黒いエプロンを着けようってことになったので」

「なるほどね。それなら大丈夫かな」

「……ところで、みんなのクラスの出し物は決まってるの?」


 逆にボクからみんなに聞くと、最初に莉子が「はいはい!」と元気よく手を挙げる。


「私と都子のクラスはお化け屋敷ですよ! 雪先輩、絶対来てくださいね!」

「細かい部分はこれからですが、結構本格的なものにしようという話になってます」

「そうなんだ。うん、じゃあ楽しみにしておこうかな」


 お化け屋敷はうちのクラスでも候補が挙がったから、被らなくて良かった。


「友里のクラスは決まった?」

「ええ、うちは屋台を出すことになったわ。何を作るかはこれから検討するけど、多分焼きそばとか無難なところになると思うわ」

「あれ、友里って料理は出来るんだっけ?」

「出来ますよ。そんなに凝ったものでなければ」

「へ~、なんかちょっと意外……ハッ」


 会長は途中でしまったと言わんばかりの顔をして、古びた機械のようにギギギッ…と首を回すと、そこには満面の笑みを浮かべながら明らかに怒っている友里がいた。


「ヒッ……」

「会長、今の発言はどういう意味でしょうか」


 恐ろしく冷たい声で言い放つ友里に、思わずボク達も身をすくめてしまう。というか満面の笑みなのに、目が全然笑ってない。


「い、いやあの、ね。ほ、ほら、友里みたいに真面目な子ほど、家では結構ずぼら……じゃなくて、えっと~その~……」

「会長、ちょっと向こうでお話しましょうか」


 友里は会長の襟をガシッと掴むと、そのまま引きずるようにして部屋を出て行く。


「あっ…ちょっ。ま、待って友里! ごめん、ごめんってば~……!」


 バタンと扉が閉まると、途端にこの部屋に静寂が訪れた。莉子と都子を見てみると、二人とも顔を蒼白にしながらわずかに震えていた。


「…………えっと、二人とも、大丈夫?」

「……はい、まぁ。ああなった西村先輩はとんでもなく怖いですけど」

「うん、めっちゃくちゃ怖かった」

「あはは……そうだね」


 この時のボク達の考えていることは、おそらくまったく同じだっただろう。友里を怒らせてはならない……と。


 5分程経った頃に会長達が戻ってきた。友里は相変わらず満面の笑みだが目がやはり笑っていないまま。会長はというと……。


「うわぁ……会長、大丈夫ですか」


 もはや魂が口から抜けているんじゃないかと思うほど白目を向いて、力なく友里に引きずられていた。


「大丈夫よ。どうせすぐ元に戻るもの」

「そ、そうですね……」


 さも当たり前のように言い放った友里に、都子がドン引きしながら頷いたのだった。



 ―――そんなこんなで休憩後も練習を再開し、日が暮れ始めたころには解散した。


 練習は順調に進んでるし、この分なら本番では問題なく演奏できるかも。そう思いながら歌番組に出てトークをしているみずなを見ていると、夕食の準備をしていた夕がこちらを向いた。


「あ、そうそう。雪、文化祭当日は私も行くからね」

「え、来てくれるの?」

「そりゃそうよ。雪の学校がどんな感じか気になるし、何より私が育てたバンドがちゃんとやれてるか、この目で見届けないと」

「……マネージャーの時の目になってる」

「まあそういうことだから、案内よろしくね」

「うん、わかった」


 そう言ってボクは再びテレビに目を向けた。


 多分今のボクの顔は少し赤くなっているかもしれない。夕が文化祭に来てくれる、そう思うと嬉しくなると同時に、少し気恥ずかしい。今まで文化祭に参加できたことは無いから、余計にそう感じるのかもしれない。


「雪? どうかしたの?」

「ううん、何でもない」


 とはいえ、当日がより一層楽しみになってきた。クラスの喫茶店も、生徒会のバンドも成功させて、みんなでたくさんの思い出を作りたい。


「ただ、早く当日にならないかなって」

「……ふふっ、そうね」


 そんな思いを抱きながら歌番組に目を向けると、笑顔で楽しそうに歌っているみずなが映っていた。

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