第49話:バンドの練習、始める前に?

「と、いうわけなので……雪君。マネージャーさん紹介して欲しいな」

「…………一応聞きますが、どういうわけでしょうか」

「嫌だなぁ、分かってるくせに。教えてくれる人に心当たりがあるって言ったじゃない」

「まさか、それが夕……元マネージャーだとでも?」

「そうだよ?」

「……会長、あなたという人は」


 美雨の発言に友里が呆れていた。心当たりって夕のことだったのか。

 ただ……。


「あの、夕はバンドなんてやったことありませんが」

「あ、そうなんだ。じゃあ夕さん? 自身にではなくて、夕さんにそういうツテが無いかな」

「……そういうことなら、おそらくあるかと思います。マネージャーとして音楽界に携わる様々な人と交流を持ってましたので」

「よしよし。それじゃ早速夕さんに会いに行こう。いいかな、雪君」

「ええ、構いません。それでは着替えてきますね」


 夕もこの時間なら家にいるだろうし、事情を話せば分かってくれるだろう。


 ボクは制服に着替えて、みんなの元に戻る。


「いきなり押しかけて大丈夫なの?」

「そうですね、夕さんって人にも都合があるでしょうし」

「ううん、大丈夫だよ。今日は一日うちにいるはずだから」

「……うちにって、天音先輩の家に、ですか?」

「うん。夕はボクの母親だからね。義理だけど」

「え、そうなの? 何気に驚愕の事実」

「その、失礼ですけど、ずっと一人暮らしだと思ってました。ご両親の事は、ニュースを見たの覚えていたので」

「ん、一応その後すぐに、夕は保護者になってくれたんだよね。一般に公表する事は無いけど」

「そうだったんですね」


 みんなが驚いている中、美雨はパンパンと手を叩いて移動するよう促した。


「はいはい、そういう話は雪君の家に着いてからね。ほら行くよ」


 そうしてボク達は生徒会室を後にした。



 帰宅してから、早速みんなを夕に紹介して、バンドの事を話した。


「そう、バンドを…ね。ツテなら無くもないけれど」

「ほんとですか!?」

「ええ、けど頼むのは難しいわね。今は誰もが冬の音楽祭や特番に向けて、相当練習をしているでしょうし」

「あう。そっか〜」


 そういえば、今の時期はそうだったっけ。ボクも去年まではこの時期相当忙しかったからなぁ。


「けど…そうね。私でよかったら、教えてあげるわよ」

「え、夕が? 出来るの?」

「楽器を弾いた事は無いけれど、いろんな人から知識は得ているもの。教えるだけなら、問題ないわ」

「いいんですか!?」

「いつも雪がお世話になってるもの。これくらいは良いわよ。それに、雪だって音のズレとかに関しては指摘できるでしょ?」

「ん、まあ」


 ボクも弾いた事は無いけれど、何度も演奏は聞いてきらから、感覚的な事なら言える……と思う。


「ではそれでよろしくお願いします。練習場所は……どうしよう」

「……会長、まさか基本的に考えなしだった、なんてことないですよね」

「あ〜……、あはは」

「あははじゃないです」

「それなら、うちでやればいいじゃない。完全防音で出来てるし、楽器を弾いても問題ないわよ」

「そうだね。わざわざライブハウスとかに行くよりはいいかな。楽器は父のがあるから、それを使えばいいし」


 うちには、奥にある父のだった部屋にたくさん楽器が置いてある。生前ギターを弾いていた時、他の楽器にも挑戦したいと買い込んでいたのだ。

 まあほとんど一、二回程度でやめてしまったが。


「なんだか、至れり尽くせりで、申し訳ありません」


 友里と都子、莉子は流石に申し訳なさそうにしていた。


「いいのよ。さっきも言ったけど、雪がお世話になってるんだもの。遠慮なく使って頂戴」

「ありがとうございます、夕さん。雪君も」

「ん。それじゃさっそく父の部屋に行こっか。誰がどの楽器を使うか、決めないとね」


 全員で父の部屋に入り、中にある沢山の楽器の中から、どれが良いかを選んでいく。


「とりあえず、雪君はボーカルとして、私達はどれが向いてるかを一通りやってみた方がいいのかな」

「そうだね。別に曲を弾く必要はないから、とにかく触ってみて」

「はいはい! じゃあ私ギターから!」


 莉子はそう言ってギターを手に取り弦を弾く。


 最初だから、やはり音は全く響かないものの、莉子はそれでも楽しそうだ。


「おお〜、なんか楽しい! 私これが良いな!」

「まだ決めるには早くない? もう少し他のも触ってみたら?」

「ううん、これにする! なんか運命を感じたから!」

「運命って……。じゃあ莉子は一先ずギターって事で」

「では、次は私が」


 今度は都子が楽器を触って行く。莉子とは正反対の性格をしているためか、一つ一つ慎重に感触を確かめていく。


「……決めました。私はこれにします」


 そう言った都子は、キーボードを指していた。


「キーボードか。なんだかお淑やかな都子にはピッタリって感じね」

「ええ、一番しっくりきたので」

「じゃあ、残りはベースとドラムね。会長はどっちがいいですか?」

「ん〜そうだなぁ……ベースで雪君の隣で弾くのも魅力的だけど、ドラムを叩くのもやってみたいし〜……。逆に友里はどっちが良いの?」

「私は……ドラムが良いですね」

「お、そうなの? ちょっと意外」


 ボクも美雨と同じ気持ちだ。何となくでしかないけど、友里はベースを選ぶかと思った。


「そうですか? まあ私も何となくいいなって思っただけなんですけど」

「そういう感覚って実は結構大事だったりするから、自信を持って良いと思うわよ」

「夕さん……ありがとうございます」

「そしたら、私はベースだね」


 全員無事に楽器を選んだところで、美雨は気合を入れて言った。


「よーし! それじゃみんな、改めて、絶対成功させるために、頑張るぞー!」

「「「「「おーー!」」」」」


 こうして今日から早速練習を始めるのだった。

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