第48話:生徒会、新たなお仕事?

 ――――翌日、月曜日。


 今日も放課後は生徒会室へ向かった。メイド服に着替え、気持ちを切り替えてみんなの元へ向かうと、まだ美雨が来ていないことに気付いた。


「美雨様はまだ来られていないのですか?」

「うん、職員室に寄ってから来るって聞いてるよ」

「そうでしたか」

「……そういえば、もうすぐあれがあるんですよね」

「あ~、確かにあれがあるから、会長今日は遅いのかもね」

「……“あれ”、とは?」

「雪先輩、もしかして知らない?」

「あ、でも仕方ないかも。去年は確か天音君、参加できなかったはずだもの」

「……そういえば、そうでしたね」


 なんだかボクだけ分かっていないようだ。


「文化祭ですよ、天音先輩」

「……文化祭、ですか」

「ええ、なので生徒会は早い段階から下準備等を始めておく必要があるんですよ」

「なるほど」

「だからもしかしたら、今日から早速忙しくなるかもしれないよ」


 文化祭。学園で行われる、学生が主催のお祭り。各クラス、あるいは部活が屋台や演劇、バンド等々といった出し物を準備の段階から学生のみで行うのだ。


 中学の頃からそういった行事には全然参加してこなかったためか、そもそもそういう催し物があること自体、頭から抜けていたが。


(今年からは、参加できるんだよね)


 そう思うと、少し楽しみになってきた。


「もしかして、生徒会でも何か屋台を出したりするんですか?」

「どうだろう、去年までは当日になると、学園全体を見回りしたり、最後は生徒会長が閉会の挨拶を行うくらいだったけど」

「でもでも、今年は雪先輩がいるし、会長も何か考えてるかもね!」

「ええ、あの人の事ですから、あり得そうですね」

「……な、なるほど」


 ロクでもないことでなければいいのだけど。なにせメイドにさせられた前科があるし。


「ま、流石にそこまで変なことは考えてないと思うよ」

「そうでしょうか……そうだといいですね」


 友里がボクの考えてることを察したのか、そう言ってくれたけど、ボクはやはり疑うばかりだ。


 と、そうこうしているうちに、当の本人である美雨が生徒会室へ入ってきた。


「おまたせ~、みんなちゃんとやってるかな?」

「言われなくてもやりますよ。それより、文化祭の話ですか?」

「流石都子、分かってるね~。その通りで、さっき先生とも話をしてきてね。今年は生徒会からも出し物を考えることになったよ」

「やっぱりそうなんですね。でも、当日の見回りはどうするんですか?」

「そこは大丈夫。今年は風紀委員に任せてあるから」

「わかりました。それで、出し物と言っても、何をするんですか?」


 都子が質問すると、美雨は「ふっふっふ」となにやら意味あり気に笑った。


「実は一つ、提案があってね。今年は我らが雪君がいるわけでしょ? だからね………バンドをやろうと思ってるわ!」


 美雨はビシッと右手の人差し指を天井に指しながら、得意げに言った。


「……バンド、ですか。なんか得意げに言うから、何かもっと特別なことをやるものとばかり思ったのですが」

「チッチッチ。これがただのバンドじゃないんだな~」


 その人差し指を振りながら、美雨は友里の言葉を否定する。


「なんと! 雪君には当日、そのメイド姿で歌ってもらうんだよ! 名付けて、『メイドイン雪ちゃんwithバンド』だよ!」

「絶対嫌です。あと長いですし、ダサいです」

「即否定!? っていうかめちゃくちゃ言われてる!」

「当たり前です。こんな格好で全生徒の前に出たくありません」

「ええ~~、いいじゃんいいじゃん。どうせもうその姿は生徒も教師も全員に知れ渡ってるんだし~」

「それでもです」


 いくら歌手をやっていた時、いろんな衣装を着ていたとはいえ、それももう過去の話。引退した今でさえも、こういう格好で歌わされるなんて嫌すぎる。


「いや、そもそも私達、バンドなんてやったことありませんよね」

「そこは大丈夫。まだまだ時間もあるし、教えてくれる人に心当たりがあるからね」

「心当たり、ですか」

「そ。まあそれは追々説明するとして……。雪君、メイドはこの際諦めるから、バンドはやってくれるかな」


「お願い」と顔の前で両手を合わせて頼み込む美雨。

 歌うのは好きだし、メイドじゃなくていいなら構わないかな。


「わかりました。メイドでなくて良いならば」

「ほんと!? やった! ありがとう、雪君!」


 嬉しそうにはしゃぐ美雨。しかし、どうしてそこまでやりたがるのだろうか。


「会長、どうしてそんなにバンドにこだわるんですか?」


 同じことを思っていた都子が、美雨に聞いた。


「ん、えっとね。せっかくこうして憧れの雪君と一緒に居られるようになったんだし、何か思い出を作っておきたいなって思ってさ」

「確かに、そもそも雪先輩が生徒会の手伝いをするのも、2ヶ月ほどですもんね。そういうのは今のうちしか出来ないし」

「そうそう、それで雪君と何をやろうかなって考えたら、やっぱり音楽関係かなって思ったわけ」

「それでバンドか〜。面白そうだし、私はいいですよ!」


 莉子は元気よく賛成した。


「……まあ、私も問題ありません。確かに天音先輩とのそういう思い出は欲しいですから」


 都子も賛成のようだ。


「はぁ、仕方ないですね。自信ないですけど、いいですよ」


 友里も渋々といった様子で賛成した。


「ありがとう、みんな。よーし、それじゃここに、生徒会バンド結成だね! みんな、頑張ろうね!」


 こうしてボク達生徒会は、バンドをやることになった。

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