第47話:雪と夕、親子として?
――――翌日。
三人で朝食を取った後、飛鳥は午前のうちに家に帰った。昨日の事があったからか、少しだけ気まずかったけど、別れ際に飛鳥はいつも通りに笑っていたので、明日からはおそらく大丈夫だろう。
その後、今日はのんびりと過ごそうとソファでゴロンとしていると、夕が買い物に行こうと提案してきた。
「買い物? いいけど、何か必要なものあったっけ」
「そうでは無いけれど、ほら、せっかくいい天気なのに部屋でダラッとしているよりはいいでしょ」
「……今日はのんびり過ごそうと決めたのに」
「いいから行くわよ」
「強引だなぁ」
夕は寝そべっているボクの両脇を挟むようにして持ち上げる。仕方なく立ち上がり、自室で着替えを済ませた後、夕と一緒に車に乗って出かけた。
「それで、どこ行くの?」
「特に決めていないわ。雪は行きたいとこは無いの?」
「ええ~~……出かけようって言ったの夕なのに。……そうだなぁ、あんまり思い至らないけど」
「なら適当にドライブといきましょうか」
「ん、りょーかい」
そう決まると、ボク達は外を眺めながら会話をして、気になった場所で車を止めて寄っていく。
特に面白いと言えるような場所ではないが、雑貨屋や飲食店、本屋に宝石店。景色のいい開けた場所など、少しでも気になった場所に寄っては、その時間を満喫していた。
「ねぇ、夕」
「うん?」
「どうして今日は、急に出かけようって思ったの?」
「……だから、いい天気なのに部屋に居るのはもったいないって」
「それ、多分半分くらいは嘘でしょ」
「…どうして、そう思うのよ」
「だって、夕も大体はボクと同じで、なんにもない日はダラダラしていたい派だもん」
「むっ。そんなこと無いわよ……多分」
「それで、どうして?」
もう一度聞くと、夕は少し言いづらそうに、頬を赤くして言った。
「………だって、その、あなたとせっかくほんとの意味で親子になれたのに、何もしないというのも、ちょっと寂しく思ったのよ。だから、出かけようと思って」
「……夕」
「……何よ、文句ある」
「ううん、無いよ。ありがと、そんな風に考えてくれて」
「べ、別に。ほら、次行くわよ、次」
照れた夕はそれを隠すように車に乗り込む。そんな夕を見て、ボクは暖かい気持ちになっていた。
再び車で走りだし、しばらくしてボクは夕に言った。
「夕、さっきの事だけど」
「……まだ何かあるの」
「そうじゃなくてさ……夕の気持ちは嬉しいし、こういう時間を作れるようになった今、夕との思い出もたくさん作っていきたいけど、だからって、無理して出かけたりする必要も、焦る必要も無いと思うんだ」
「……ぁ」
「もう歌手とマネージャーじゃないんだから。ゆっくりでいいと思うよ」
そう言うと、夕はちょっとだけ驚いた表情をしたけど、すぐに元通りになって「そうね」と言った。
「雪の言う通り、少しだけ焦ったのかもしれないわ。今まで保護者と言っても、マネージャーとしてどこか一線を引いていたから。親子らしいことなんて、一つも出来てないって思ってた」
「うん」
「けど、そうね。これからたくさん時間があるんだもの。焦る必要は無いわよね」
赤信号で車を止めると、夕はこちらを見て微笑みながら言った。
「ありがとう、雪。気づかせてくれて」
「ううん、ボクの方こそ、ありがとう」
明確に言葉にしたわけじゃないけれど、互いが互いをどれだけ大切に思っているか、改めて知ることが出来た時間となった。
――――その日の夜。
お風呂から上がってリビングに戻ると、ソファに座った夕が例のメイド服を畳んでいた。
「あ、後でやろうと思ってたんだけど。ありがと、夕」
「いいわよ。………ところで、ほんとにこれ着て生徒会の手伝いをしているのね」
「うん、成り行きで」
「更には昨日飛鳥ちゃんにもこれを着てご奉仕をした…と」
「う、うん。そうだけど……あの、それが?」
「……いいわね、私もやってもらおうかしら」
「え……」
ニヤニヤした表情でメイド服をこちらに近づけようとする夕に、ボクは思わず後ずさる。
しかし夕は「ふふ」と笑うと服を下げた。
「冗談よ」
「………むぅ」
「そう膨れないで頂戴。というか、私にご奉仕するのはそんなに嫌かしら」
「…そうじゃないけど。出来れば生徒会以外でそれを着たくは無いだけ」
「そう、残念ね」
ちっとも残念そうには見えないけど。
夕は畳んだメイド服をそばに置くと、ソファに座ったまま、ポンポンと膝を叩いた。
「雪、こっち来て」
「ん、何?」
「いいから」
よく分からないけど、言われた通りに夕の隣に腰かけると、夕はボクの頭を押さえて自分の膝に乗せた。いわゆる膝枕というやつだろう。
「…あの、夕?」
「ん~?」
「なに、これ」
「知らないの? 膝枕よ」
「そうじゃなくて、何で膝枕?」
「今まで生徒会や飛鳥ちゃんにご奉仕してあげてたのでしょう? だからそんな雪に私が少しだけご奉仕してあげるわ」
そう言うと、そのままボクの頭を撫で始める。
「ん……」
「…相変わらず、綺麗な髪ね。一本一本サラサラだし、羨ましいわ」
「夕の髪もサラサラしてるでしょ」
「でも雪ほどではないわよ。そこらの女性全員、雪の髪も容姿も羨ましいと思ってるわよ」
「……そうかなぁ」
「そうよ」
まあそこを褒められたところで、やはり嬉しくは無いのだけど。
そう思っていると、夕の膝と手の感触が気持ちいいからか、だんだん眠くなってきた。
「……ふふ、寝てもいいわよ。後で部屋に運ぶから」
「…んぅ……おやすみ、夕」
「ええ、おやすみ、雪」
ボクは夕に頭を撫でられながら、そのまま眠りについた。
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