第42話:恋、それは?

 ―――次の日。

 教室へ着くと、すぐさまボクはクラスメイトに囲まれた。

 どうやらボクのメイド姿の写メが出回っているようだった。

 そのおかげでみんなが大騒ぎ。そこへ先生が来て騒ぎを静める…かと思いきや、先生まで待ち受けにしたと騒ぐ始末。


 ……これもう、どうしたらいいですか。


「あはは、今その写メ学校中の生徒と教師が持ってるって噂だよ」


 飛鳥が苦笑いしながらボクに教えてくれた。


「そうなの? ……てことは飛鳥も?」

「えへへ、待ち受けにしました」


 そう言いながら携帯の画面を見せてくる。確かにボクのメイド姿だった。


「なんか恥ずかしいなぁ」

「でもすっごく似合ってるよ?」

「…ありがと」


 あんまり嬉しくはないけど、一応お礼を言っておいた。


「それはそうと、生徒会はどう? やっぱり大変?」

「………ん。今のところそんなでも無い、かな」


 昨日の事を思い出し、少々言葉に詰まった。けどそういうのに敏感な飛鳥が見逃すはずも無く。


「…どうかしたの?」


 心配そうにボクを見る。


「なんでも無いよ」

「嘘。そういう時の雪って、絶対何かあるもん」

「うっ……」


 バレてるし。これはもう観念するしかないかな。


「えっと、実は…」


 昨日のことを飛鳥に話した。ボクがわからなかった事も全部。


「……そっか。雪はそれがわからないんだね」

「うん。叶わないってわかってて、どうしてなんだろうって。昨日はずっと考えてて、でも答えが出なくて」

「うーん、そうだなぁ」


 少し考え込んでから、飛鳥は言った。


「多分さ。それって雪がまだ、本気で人を好きになった事が無いから、わからないんじゃないかな」

「…本気で好きに?」

「うん。私はその女の子の気持ちも依頼者の気持ちも、よくわかる。……まあ私は叶わないなんて思ってないけどね」


 ウィンクしながらボクに向けて言った。


「ふふっ、強気だなぁ」

「それくらいじゃないと、歌姫は落とせないからね。…それでね、きっと今の雪がどれだけ考えても、わからないままだと思うの。だからね…」


「雪も、本気で恋をしてみるのが一番だよ」


「…本気で、か」

「そ。少なくとも、今焦る必要は無いってこと。ゆっくり考えていけばいいんだよ」


 飛鳥は笑いながらそう言った。


「あ、もちろん相手は私かみずなだよ?」

「…ほんと、強かというか、なんというか」

「ふふん、もっと褒めてくれていいんだよ?」

「調子乗りそうだからイヤ」

「え〜、いいじゃーん」


 飛鳥はもっと褒めてとボクの制服の袖を掴んで揺らす。

 伸びるからやめて。


「あら、楽しそうね。なんの話かしら」

「あー! ずるい飛鳥ちゃん! 私も混ぜて!」

「朝から賑やかだな」

「あはは、まあこのクラスらしくていいんじゃない?」


 そんな事をしていると、みずな達もやって来て、ボクの周囲も騒がしくなった。


 ……一応今、HRの時間なんだけどね。


 そう思ったところで、飛鳥が「そういえば」とボクに聞いてきた。


「結局生徒会のお手伝いって、いつまでやるの?」

「えっと、予定では2ヶ月ほどって聞いてるよ」

「そっかぁ。長いね…」

「何かあるの?」

「その、せっかく雪に時間が出来たと思ったのに、全然遊べてないからさ。そろそろ遊びたいなぁって」

「あ、そうだよね。最近みんなで遊べてない」

「それなら今度の土日はどうだ?」

「私は構わないわよ」

「私も大丈夫だよ」


 怜奈と美乃梨は大丈夫とのこと。


「私もお仕事無いから行けますよ」

「うん、私もオッケーだよ」


 みずなと飛鳥も大丈夫そうだ。


「雪は?」

「うん、いいよ。どこに集まるの?」

「あ、じゃあ雪の家行きたい!」

「ボクの? いいけど、何も無いのは知ってるでしょ?」

「ふっふっふ。実はちょっと面白いボードゲームを見つけてさ。みんなでやってみたいなって思ってたんだ」

「ボードゲーム? どんなの?」

「それは当日までのお楽しみってことで」

「じゃあ土曜日の11時頃に、姫様の家に集合でいいかしら」

「はーい」

「うん、わかった」


 そういうことになった。



 ―――放課後。


 生徒会室では、今朝の写メの話をしていた。


「いやぁ、今朝はほんと大騒ぎだったねぇ」

「ええ、まさか教師まで写メを撮っていたなんて」

「まあ、あんな格好で出歩いたら、そうなりますよね。ましてやそれが歌姫ともなれば」

「あはは! 私も画像はしっかり保存してますよ」

「……そんなに良いものでしょうか」

「雪君は当事者だから、これの価値は分からないだろうね」

「そうですか。…会長、紅茶をどうぞ」

「うむ。苦しゅうない」


 美雨は偉そうにふんぞり返って紅茶を飲む。


「ん……。相変わらず美味しいね、雪君の紅茶は」

「ありがとうございます」

「ところで……、もう大丈夫そうかな?」

「え? 何がですか」

「昨日の帰り、元気が無かったでしょ? 心配だったんだけど」

「ああ、はい。ご心配をおかけしました。………あの、一つ聞いてもいいかな」


 ボクはいつもの口調に戻し、美雨に質問する。


「うん、何かな」

「えっと、ちょっと恥ずかしい質問だけど。……恋って、何かな」

「恋?」

「うん。昨日の事で、ちょっと考えてて」

「…なるほどね」

「それで元気なかったんですね」

「うん」


 美雨は少しだけ考えて、ボクにこう言った。


「…恋……それは、青春だ!」

「青春?」

「アオハルとも言う!」

「アオハル?」

「会長、混乱させるようなこと言わないでください」


 ボクがわからずにオウム返しになっていると、友里が止めに入った。


「あはは、ごめんごめん。…まあ、要するにさ、青春すればいいんだよ」

「…はぁ」

「雪君はこれまでに、学校での行事は参加していたかな」

「ううん、ほとんどしてない」

「じゃあお友達と遊んだりは?」

「今年は去年までよりは多かったと思うけど、あんまり」

「それだよ。今の雪君には、圧倒的に青春が足りてないんだ。だから恋が何なのか…いや、どういったものが恋なのか、それが分からないんだ」

「足りてない…」

「だから、まずはたくさん遊ぶこと。まあ今は生徒会のお手伝いをしてもらってるから、取れる時間は限られてるけど。とにかく遊んで、学校イベントも全部参加して、お友達ともっと友情を深めること。そしたらきっと、自然と恋をしている……かもしれないね」

「…………」


 美雨は明るくそう言った。ボクはまだよくわからないけど、多分それも含めて、美雨の言ったことに答えがあるのだろう。


「…よくわからないけど、やってみるよ」

「うむ。よろしい!」

「あ、紅茶入れなおしてきますね」

「お、お願いね」


 ボクは一度お湯を沸かし直すため、電気ポットを持って隣の部屋へと水を汲みに行った。



「良かったんですか、あんなこと言って。会長の言ったことを否定はしませんが」

「いいんだよ、あれで。雪君はずっと多忙を極めていたし、周りには大人しかいない環境で育ってきたようなもの。それ故に、機会が全く無かったんだと思う」

「だから、恋が何なのかわからない、と」

「うん。もっと言うと、告白する意味は何なのか、それもよく分かって無いのだと思う。だからこそ…」


 私は一度区切って言った。


「きっと、雪君が本当の恋を知るのは、もっと先の話だろうね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る