第41話:生徒会、依頼完了?
そういえば、もう一つ聞きたいことがあったのを思い出した。
「ねぇ夕、もう一つ聞きたいんだけど」
「何?」
「夏休みくらいまでさ、飛鳥やみずなを見たときドキドキすることがたまにあったんだけど、今は全然無くって………これってどういうことかわかる?」
「……ドキドキ、ね」
夕は考え込んだが、やがて答えを出した。
「きっとそれは単純に、同世代の可愛い女の子に耐性が無かったんじゃないかしら」
「耐性?」
「ええ。これもこちらのせいとも言えるけど、去年までは今年みたいにたくさん女の子と遊んだことって無かったでしょ」
「………まあ、そうだね」
「だから普段は普通に話せても、ふとした時にドキッてするのは、そういうことだから、だと思うわ」
「……そっかぁ」
その時はてっきり、これが恋なのかと思ったけど、違ったみたいだ。二人には失礼な話かもしれないけど。
「まあいずれにしても、さっき言ったことをちゃんとやれば、おのずとわかってくると思うわよ」
「うん……」
結局のところ、ボクは恋をしたいと思いながら、恋についてほとんど分かっていなかったという事だろう。
(まあ、これからだよね)
ボクはそう楽観的に考えた。
――翌日の放課後。
その時はすぐに訪れた。
昨日と同じく生徒会室へ向かい、メンバー全員が揃う。
「さて、じゃあ三人とも、今日もよろしくね」
「はい」
「了解です!」
「うん」
今日は最初から生徒会室から出ていくことはわかっていたので、メイド服は着ていない。
ボク達は早速図書室に向かい、再び岸田さんに接触する。
「こんにちは、岸田さん」
「ヤッホー!」
「あ、都子さんに莉子さん。こんにちは………え?」
「えっと、初めまして。ボクは天音雪。よろしくね、岸田さん」
ボクが挨拶をすると、何故か固まった。しかも一気に顔が真っ赤になっていった。
「あれ、岸田さん?」
「………はっ。あ、あにょ! あう、噛んじゃった。…あの、岸田杏奈と言います! よ、よろしくおねがいします!」
「うん、よろしくね」
なんだか酷く緊張しているようだけど、どうしたんだろうか。
「……姉さん、これはもう」
「うん、決定だね」
一方で都子と莉子は何か確信を得たと言った様子だ。
「何が決定なの?」
「あはは、それより雪先輩、あっちで面白そうな本ないか探そうよ!」
「え、ちょっと莉子?」
ボクは腕を掴まれ引っ張られる。莉子は去り際に都子に何かサインの様なものを送っていた。
「なんなのさー、もう」
「いいからいいから」
よく分からないまま、ボクはされるがままでいた。
姉さんが天音先輩を連れ去ってから、私は岸田さんにある事を確認する。
「岸田さん。昨日言っていた、あなたの好きな人というのは、天音先輩の事でいいんですよね?」
「ふえ!? な、なんで…」
「先ほどの反応でバレバレです」
「うっ。……はい、その通りです。私は天音先輩のことが、ずっと好きでした」
「一度は諦めたというのは、やはり先輩が歌手だったから、ですか」
「はい。でも引退した今、私にもチャンスがあると思って、だから今度はちゃんと、気持ちを伝えたいなって」
「……なるほど」
私は考える。今回の依頼はあくまで岸田さんの好きな人が誰なのかを確認すること。そしてそれがわかった今、後は西田君に報告するだけなのだが。
(正直に伝えたら、確実に諦める気がする)
相手は元歌手にして歌姫。西田君は分が悪いと判断するだろう。けど本当にそれで良いのかと問われれば……。
(良くはないわね)
私はあることを決めた。
「岸田さん。あなたの思い、今伝える気はありますか?」
「え? ………それは」
言ったものの、やはり早急過ぎただろうか。
岸田さんは考え込んだが、やがて真剣な表情で答えた。
「はい。伝えたいです。どんな結果になるとしても、ちゃんと伝えたいです」
「……そうですか、わかりました。では今から天音先輩を連れてきますので、そこから先はお二人にお任せします」
「は、はい。おねがいします」
私の作戦は単純。
まずは彼女が自分の思いを伝えて何かしらの結果を出す。そこで岸田さんと天音先輩が付き合うなら、それはそれで良い。そうはならなくても、岸田さんはその恋をきっと諦める。
後は西田君にはもう少し日を置いてから、告白してもらう。失恋してすぐにというのは、失礼な話だから。
私は先輩を呼び出し、岸田さんのところまで行って欲しいと頼み、後は影で姉さんとこっそり見守ることにした。
ボクは図書室の隅で、岸田さんと向き合う形で立っていた。
何かあるのだろうか。全然わからないが、岸田さんは先ほどと同じく顔を赤くしてる。
「えっと、どうかしたの、岸田さん」
「……あの、天音先輩。先輩に、伝えたいことがあるんです」
「……? 何かな」
岸田さんは一度深呼吸をして、その想いをボクに伝えたのだった。
「天音先輩のことが好きです。私と、付き合って下さい!」
結果から言えば、ボクはその想いに応えることは出来ないと告げた。彼女は悲しそうに、けど伝えられて良かったといった様子だった。
依頼に関しても、西田には彼女は最近失恋したばかりらしいから、告白するなら日を置いてからにして欲しいとだけ告げた。
彼は納得してお礼を言うと去って行った。
「うんうん、三人ともお疲れ様。これで依頼は達成だね」
「はい。今回は天音先輩に一番頑張って貰いましたが」
「……雪君、どうかしたの? 元気ないけど」
「なんか、図書室出る時からこんな状態で」
「あー、なんだかよく分からないけど。一先ず今日はこれで解散。みんな、お疲れ様」
「「「お疲れ様でした」」」
そうして全員生徒会室を後にした。
帰宅してからも、ボクは何をするでも無くボウっとしていた。
「………雪、何かあったの?」
夕が心配そうにボクを見る。
……岸田さんの告白。今までに無かった感覚だった。
告白をされたことは何回かあるけど、歌手だからと、歌うことが全てだからと、相手にも自分にも言い聞かせる様にして断ってきたけど。
今日は全然違った。告白された時、ちょっと嬉しかった。自分を想ってくれる人がいるんだって事実に。
そして同時に胸が痛かった。
岸田さんは、断られた時ちょっと悲しそうだったけど、それでも笑っていた。伝えられて良かったと。
どうして断られたのに、笑えるんだろうか。
西田にしてもそう。
相手次第にせよ、叶わないと思っているのに、それでも岸田さんを好きでいられるのは、どうしてなのか。
飛鳥とみずなも以前想いを伝えてくれた。嬉しかったけど、ボクはどうなのか。
夕の言ったことを考えたけど、サッパリわからない。
「……夕」
「うん?」
「……恋って、難しいんだね」
ボクは今、心からそう思った。
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