第40話:生徒会、対象の好き人判明?

 図書室に戻って都子、莉子と合流して、再び調査というか観察を開始する。


 とはいったものの……。


「ん~、これ、今観察しても好きな人がわかるとも思えないんだけど」

「そうですね。それを判断するには情報が足りていませんし」

「じゃあどうする? やっぱり直接話してみる?」

「……そうだね。好きな人のことは置いといて、普通に話せる程度にはならないとダメかも」

「ですね。では私と姉さんで話しかけてみます。天音先輩はそこで見ていてください」

「うん、わかったよ」

「じゃあ行ってきまーす」


 二人は岸田さんの元へ向かった。


「やっほー! 岸田さん!」

「……っ! ああ、都子さん、莉子さん。こんにちは」

「こんにちは、岸田さん。今少しよろしいでしょうか」

「はい、大丈夫ですよ」

「実は私達、恋愛小説を読もうとしてまして……何かおススメなどはありますか」

「おススメですか………そうですね」


 本棚に視線を向けて小説を探す岸田さん。


 都子はうまいこと考えたものだ。おそらくそこから話題を発展させていく作戦なのだろう。


 やがて岸田さんは一冊の本を見つけると、都子に差し出す。


「これなんてどうでしょうか」

「なになに?」

「これは……『空に咲く花のよう』。どういった内容なのですか?」

「えっと、女性の主人公が自分から見たら高嶺の花、雲の上のような存在の男性に恋をするのですが、その恋はあることがあって叶わず、諦めてしまうのです。でもやっぱりその人を忘れられず、再び恋をして叶えようとする、というお話です」

「あることって?」

「………姉さん、それを聞いたら読む意味がないでしょう」

「あ……ごめんごめん」

「まったく」

「ふふ……」


 莉子の発言に呆れている都子。そんな二人のやり取りを見て、岸田さんは笑った。


「ところで気になったのですが、どうしてこれがおススメなのですか? 確かに面白そうだと思いましたけど」


 そう切り出して、都子が本題に入る。


「……えっと。詳しくは言えませんが、実は私も今、その主人公と同じなんです」

「同じというと…再び恋をして、叶えようとしている…と」

「はい」

「……その、失礼なことを聞きますが、お相手は男性ですよね」

「……? はい、そうですよ」


 岸田さんはきょとんとしながら肯定する。それはそうだろうと言いたいとこだけど、世の中美雨みたいな人もいるからね。案外そこは大事な部分かもしれない。


 それにしても、彼女の話の通りなら、相手は雲の上の存在、ということになるのかな。……見当もつかない。


「……なるほど。お時間くださってありがとうございます。この本は借りて今日にでも読んでみますね」

「はい、期限は一週間ですので、気を付けてくださいね」

「わかりました。それでは、失礼します」

「またね! 岸田さん!」

「はい、また」


 二人は岸田さんと別れて、ボクの方に戻ってくる。


「お待たせしました」

「お疲れ様。それで、どう感じた?」

「そうですね……確証はありませんが、大方の予想は付きました」

「え、本当?」

「ええ。…………天音先輩はどうですか」

「ボクはさっぱりかな。この学校の生徒のことも、ほとんどわからないし」

「……そう、ですか」

「……雪先輩、ほんとにわからないの?」

「え……うん」


 ボクがそう答えると、二人は少し離れて小声で何かを話し合っていた。

 なんの話だろうか。

 やがてこちらに戻って話を続けた。


「まあ、それは一先ずいいです。それより一度、生徒会室へ戻りましょう」

「あ、うん」


 ボクは言われるがままに二人とともに生徒会室へ戻った。



「そっか。……なるほどね」


 生徒会室へ戻って、早速都子と莉子が美雨に報告する。それを聞いて美雨はどこか納得したようにうなずいた。


 ……もう相手が誰か分かったのだろうか。


 隣の友里を見ると、彼女も納得と言った様子だった。どうやらわかってないのはボクだけのようだ。


「あの、結局誰なの、岸田さんの好きな人というのは」

「ん~、そうだなぁ。ここで教えてもいいんだけど……よし。雪君、明日は君も彼女に接触してみてくれる?」

「ボクも?」

「うん、その時の岸田さんの反応を見てみたいんだ」

「……はぁ。よくわからないけど、わかった」


 なぜそこでボクが出てくるのかわからないけど、一先ずそういうことになった。


「……いいんですか、会長。岸田さん、混乱しませんか」

「まあそうなったら都子が抑えてくれるでしょ」

「はい、お任せください」

「私も手伝うよ!」

「うん、期待してるよ、莉子。それじゃ今日のところはこの辺で解散ね。明日の放課後、またよろしくね」


 美雨の言葉で今日は解散となり、それぞれ帰宅することになった。結局ボクは最後まで分からず終いだったけど…。


 その日は真っ直ぐ家に帰ってリビングに行くと、夕がキッチンで料理していた。


「夕、ただいま」

「お帰りなさい、雪。夕飯もうすぐ出来るから、手を洗って着替えてきなさい」

「はーい」


 言われた通りにし、リビングに戻って夕飯を食べていると、夕が学校のことついて聞いてきた。


「そういえば雪、学校の方はどう? 楽しくやってるかしら」

「うん、楽しいよ。まあ今は生徒会の手伝いで放課後忙しいけど」

「ああ、単位が足りてないって以前言ってたわね。……ごめんなさいね、雪」

「いいってば。歌手の仕事も楽しかったんだし。夕には感謝してるんだよ」

「……そう。ありがとう」


 夕はそう言って笑ってくれた。


 ……そうだ、さっきの事、夕にも聞いてみようかな。


 ボクは先に依頼の事を話して、岸田さんの好きな人の話をする。


「それでさ、みんなは岸田さんの好きな人が誰なのか、分かってるみたいなんだけど、ボクはさっぱりで。夕はどんな人だと思う?」

「…………そう、ね」


 少し考えた後、夕はボクに聞いてきた。


「……その、雪はほんとに分からないの?」

「そうだけど。え、夕には分かるの?」

「何となくね…。けど、そう。………やっぱりこれ、私のせいかも」

「……?」


 最後の方はよく聞こえなかったけど、やっぱり夕にもわかるんだ。なぜボクだけわからないのだろう。


「……雪。一つだけ言っておくことがあるわ」

「何?」

「これから先、あなたは多分告白を何回も受けることになると思うの」

「……それ、生徒会のみんなも言ってた」

「あら、そうなの。よくわかってるわね。……ともかく、その時が来たなら、相手の気持ちをきちんと理解しようとしなさい。もちろん今までもこれからも、相手の気持ちをあなたが蔑ろにすることはないのは分かってるけれど」

「理解しようとするって、どういうこと?」

「相手がどうしてあなたを好きになったのか、どうして告白までしたのか。そういったことを、きちんと考えてみなさい。きっと、今の雪にとって一番必要なことだから」

「んー、うん。わかった」

「………本当かしら」


 夕は頭に手を当ててため息をついた。


 正直夕の言ってることはよくわからない……というより、どうしてそれをする必要があるのか、その理由が分からないけど、必要だというのならやってみよう。ボクはそう思った。

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