第39話:生徒会、依頼を受けるのも仕事?
ボクがそんな心配をしていると、ドアをノックする音が鳴った。
「どうぞ」
「し、失礼します」
どこか恐縮したような縮んだ声でそう言って入ってきたのは、ボクの知らない男子生徒だった。
「君は?」
「い、一年の
「そうなのね。どうぞ座って」
美雨が促すと西田は手前の椅子に座って、辺りを見渡すとボクと目が合い、心底驚いた。
「え!? ど、どうして歌姫様がここに!? ていうかなんでメイド!?」
「ボクの今の仕事ですので。お茶をお持ちしますね…紅茶でよろしかったでしょうか」
「あ、は、はい! お願いします!」
ボクが紙コップに紅茶を入れて差し出すと、「あ、ありがとうございます! あ~、歌姫様に入れてもらえるなんて………」と呟いた。
そんなにいいものだろうか。
そう思っていると、美雨と西田が依頼について話し始める。
「ところで、依頼というのは」
「あ、はい。実は俺、好きな人がいるんですけど、どうやらその人にも、別に好きな人がいるらしくて」
「ふむふむ、それで?」
「はい、できればその好きな人が誰なのかを調べてほしいんです」
「なるほど……けど西田君、それならいっそ本人に聞いてしまった方が早いんじゃないかな」
「うっ、そ、それは…」
「もう会長。それが出来ていたらここまで来ませんよ」
「むっ、それもそうか。ごめんね、西田君」
「い、いえ」
友里の言う通り、それがパッと出来たら苦労はしないだろうね。
「けど、どうして調べるんですか? 正直、相手に好きな人が居ようと居まいと、告白は出来ると思いますが」
「そうだけど、俺がその人に敵うかどうかは、やっぱ気になるだろ」
「そういうものですか」
「佐藤妹にはまだわからないと思うぞ、そういうの」
「……それはどういう意味でしょうか」
西田の発言に明らかに不機嫌になった都子。空気が一瞬で冷え切ったような…。
「…ヒッ!?」
「まあまあ都子、落ち着こうよ、ね」
「…はい」
「西田君も、今の発言は良くありませんよ」
「は、はい。すみませんでした。佐藤妹も、悪かった」
「いえ」
莉子と友里が何とか治めると、空気が戻った。それを感じ取った美雨は、改めて依頼内容を確認する。
「じゃあ依頼内容を確認するね。西田君の好きな人に、別の好きな人がいるため、それが誰なのかを調査すること。これでいいかな」
「はい」
「それで、その好きな人というのは?」
「……あの、誰にも言いませんか」
「個人情報だからね。必ず守ることを約束するよ」
「わかりました……えっと、同じクラスの、
「ほぇ~、そうだったんだ」
「知ってるのですか?」
「はい、私達も実は彼と同じクラスなので」
「そそ! それで岸田さんっておとなしいし、あんまり目立つことしない子だから、ちょっとだけ意外かなって思ったんです」
「そうでしたか」
どうやらそれで先ほどからお互い知っているかのような口ぶりだったのか。
「岸田さんね。じゃあ期限は3日間くらいでいいかな。この件は…そうだなぁ、都子と莉子、それから雪君に任せようかな」
「はい」
「了解です!」
「え、ボクもですか? 正直あまりお役に立てるとも思えませんが」
「まあ今回はあくまで、こういう依頼をこなすことも多々あるよっていうのを、実感して欲しいからかな」
「多々あるのですか」
「うん。ほんとはそういう依頼を受ける専門の部活、ないしボランティアなんかがあればいいんだけどね。生憎とそういうのは簡単には作れないから、こうして生徒会で受けているってこと」
「そうでしたか」
期間限定とはいえ、ただでさえ学校行事に加えて、通常業務もあるのに、こういう依頼まで受けているなんて。素直に称賛する。
「それでは早速取り掛かりましょう」
「うん! 善は急げってね! 行こ、雪先輩!」
「はい、かしこまりました」
「よろしくね~」
ボク達は西田と共に生徒会室を出る。
「ところで、その岸田さんという方は、まだ学校に残っているのですか?」
「あ、はい。岸田は図書委員なので、毎日放課後は図書室に居ます」
「あれ、そうだったんだ」
「…姉さん、知らなかったんですか」
「いやぁ、私あんまり岸田さんとお話しないからなぁ」
「…ほんとに大丈夫なのか? これ」
西田がそう心配する。まあ無理もないけど。
「では一先ず、図書室に向かうとしましょうか」
「はーい」
「わかりました」
そうしてボク達は図書室へと向かった。
……向かっているのは良いけど、なんかもの凄く視線を感じる。写メ撮ってる人もいるし。
「あの、天音先輩。今更ですが、生徒会室以外では何もメイド服のまま出なくても良かったのでは…」
「……あ」
原因がわかった。というか忘れてた。
―――図書室に着き、中に入って辺りを見渡す。
「それで、岸田さんはいますか?」
「え~と………あ、いました。あの子です」
奥の方の本棚付近に、岸田さんがいた。可愛らしい顔つきで、知的な印象もあるといった感じの子だ。
「どうする? もういっそストレートに聞いちゃう?」
「い、いやそれは。流石に素直に教えてもらえないだろ」
「そうですね。どれだけ親しい人が相手だったとしても、ペラペラとそういうことを話す人はいないかと」
「そっか~。じゃあしばらくは観察するしかないかな」
「ええ、そうですね……西田君、後はこちらでやっておきますので、今日のところは帰っても大丈夫ですよ」
「そうか。なら任せるよ。定期的に報告くれればいいからさ」
「りょうかーい」
「歌姫様も、すみませんがよろしくお願いします」
「はい、お任せください」
西田はそう言ってこの場を去っていった。
「さて、それでは早速始めましょうか」
「………その前に、天音先輩」
「なんでしょうか」
「やっぱり外ではメイド止めませんか? 特にこういう仕事の時は目立つので」
「…………」
確かに、さっきから視線を集めすぎている。これではこっそり観察なんて出来るわけ無いよね。
「そうだね……ちょっと着替えてくるよ」
「はい、そこの席で待ってますね」
ボクは一度生徒会室に戻り、制服に着替えて図書室に戻った。
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