第4章

引退と先輩と後輩と生徒会と?

第35話:学校再開、これから楽しくなると思いきや?

 翌日の朝。

 いよいよ学校が再開し、生徒たちは元気よく………いや一部ない人もいるみたいだけど、まあとにかく元気よく登校している。


「おはよ、姫様」

「おっす、雪」

「おはよう、駿介、美乃梨」


 二人と校門あたりで合流し、一緒に教室へと向かう。


「そういや、クラスの連中、あんま騒がなきゃいいけどな」

「………? どういうこと」

「ほら、姫様の引退の話。絶対みんなそのことで聞いてくると思うんだよね」

「……ああ、そっか。そうだよね」


 考えてなかった。けど言われてみれば、確かに普段からよく騒ぐクラスだから、今回は特に…なんだろうな。


「帰っていいかな」

「ダメだってば」

「……前にもこんなやり取りしたような」


 なんだか猛烈に帰りたくなったけど、駿介が阻止したため、仕方なく教室のドアを開ける。


 そして――――。


「あ! 姫様!」

「おはよう姫様! 早速なんだけどさ!」

「引退ってほんとかよ!?」

「急にどうして!?」

「姫様~! 辞めるなんて嫌だ~!」

「グフフ………一か月半ぶりの姫様……萌える」

「お前はほんとブレないな!?」


 矢継ぎ早に質問してくるクラスメイトに、ボクはやっぱりこうなるんだね、と半ば諦め状態となった。


「も~、みんな。そんないっぺんに質問しない! 雪が困ってるでしょ?」

「そうよ、身の程を知りなさい、家畜ども」

「いや怜奈ちゃん、それはあんまりだよ……」


 ボクがどうしようか迷っていると、登校してきた飛鳥と怜奈、みずなが止めに入った。


「おっと、そうだな。悪い姫様」

「ごめんね、姫様」

「いや、いいよ。それより、引退の事だけど、記者会見で言ったことが全てだから。それ以上に言えることは無いかな」

「そっか。まあ姫様が決めたんだもんね、しょうがないか」

「だな。それに、引退したとしても、俺らの中ではずっと姫様なわけだし」

「そうそう。姫様は不滅なりってな!」

「うんうん! やっぱり姫様が一番だよ!」


 ああ、この流れは……。


「「「「ひーめ! ひーめ!」」」」


 やっぱり、謎の姫コールが始まった。ボクはもうそれを無視して自分の席に着く。


 飛鳥達もかばんを置いてボクの元へ来た。


「あはは、結局こうなったね」

「まったく、毎度騒がしいわね、このクラスは」

「まあ、つまらないよりはマシなんじゃない?」

「そうだね、私も転校したばかりの時は、一切話しかけられないよりはありがたいと思ってたし」

「みずなはいい子だねぇ」

「今の年寄りくさい言い方だったぞ、美乃梨」

「うっさい!」

「ゴフッ!?」


 駿介の物言いに、美乃梨は肘打ちをお見舞いした。痛そう。


「はーい、みんな席についてー。HR始めるわよー」


 いつの間にか時間が経っていたのか、西村先生が教室に入ってきた。


 先生の話を聞きながら、つい思った。


(これからは、みんなにとってのこういう普通の時間を、ボクも毎日過ごすんだよね)


 あの日決めたやりたいこと。そしてこの普通の生活。


 なんだか今から楽しみになってきた。


「ああそれから、天音君。悪いのだけど、この後お話したいことがあるの。いいかな」

「あ、うん。わかった」


 ボクは先生に呼ばれて教室を出る。一緒に職員室まで行くと、先生が本題に入る。


「話というのは、例の引退の件なの。…………その、一応教師として確認なのだけど、本当に引退して、普通の学校生活に戻るのよね」

「うん、そのつもり」

「……そう、わかったわ。じゃあそんな天音君に、一つご報告があります」

「報告? 何?」


 こほんと咳ばらいをすると、デスクの引出しから一枚の紙を取り出して、ボクに見せる。


「これを見て頂戴」

「ん………これって………え」

「そう。天音君……あなた、現時点で、単位が全く足りていないのよ」

「………………………………」


 終わった……そう思った。だって、これ、マジっすか。


「え、どうすれば」

「安心して、学校側も事情は把握しているし、足りない理由も仕方ないと判断してるわ。だから、今回は特別に、ある救済措置を取ることにしたの」

「きゅ、救済措置?」

「そう、天音君にはこ2学期の間、単位を補給できるまで、ある奉仕活動をしてもらうわ」

「奉仕活動?」


 なんだかオウム返しになってきた。考えることを放棄し始めているのだろうかボクは。


「……生徒会のお仕事を手伝ってもらうわ」

「…生徒会の?」

「ええ、実は今年、生徒会メンバーが一人足りないのよ。具体的には庶務がいないの」

「えっと、理由は」

「ん~、その、今年の生徒会長が、ちょっと変わった性癖というか、その。可愛い女の子しか入れたくないって言っていてね」

「なにそれ」

「私にもよくわからないけど、とにかくそういう子なの。それで、今メンバーが足りていないのよ」

「はぁ、なるほど。で、単位が足りていないボクにしわ寄せが来たと」

「そういうこと。引き受けてくれる?」

「ていうか引き受けなきゃ単位もらえないんでしょ? 選択肢なくない?」

「あはは、じゃあそういうことで。ああでも、今日からではなくて、天音君が引退した後の話だから、そこは安心してね」

「うん、わかった」

「詳しい話もその時にするから、今日はもういいわよ。…最後のライブ、頑張ってね」

「あ……うん、ありがとう、先生」


 ボクはお礼をして職員室を出る。


 一先ず単位のことは何とかなりそうだからよかったけど、先生の言ってた生徒会長がどんな人なのかが、すごく気になってきた。


 あれ、そもそも男子か女子か、学年も知らないや。後でみんなに聞いてみようかな。


 なんにしても、これで後はライブを待つのみ。ボクは改めて気合を入れるのだった。

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