第33話:夏休み、飛鳥の決断?
姫様は合流場所をみずなに伝えて、その足で飛鳥を探しに行った。私はしばらくその後ろ姿を見つめているみずなを見ていた。
「よかったのかしら、行かせてしまって」
私の質問の意図が分かったのか、みずなはこう言った。
「うん、いいんだよ。必要なことだもの。それに」
「それに?」
「一度諦めるだけ。雪さんの答えはなんとなくわかったし、それなら私にはまだまだチャンスがあるんだもの。むしろあれだよ? 俺たちの戦いはこれからだ! っていう展開!」
「―――――」
私は驚いた。なぜならみずなは本当に、悔しそうな顔でもなく、泣きそうな顔でもない。本当に、これからの戦いに燃えている、そんな決意に満ちた顔をしていたから。
「なるほど、姫様は答えを出せたみたいね」
「うん! さすが雪さんだよ! あぁ……可愛くてカッコよくて。好きだなぁ」
「ふふっ、あなたもだんだん遠慮が無くなってきたわね」
「えへへ~、でしょう?」
どうやらこれからが楽しい局面みたいね。私にとっては。
ボクはあの噴水の前まで来たところで、飛鳥を見つけていた。
「はぁ~、よかったぁ、合流出来て」
「まったくもう、みんな心配してたよ?」
「えへへ、ごめんなさい」
全く悪びれもせず謝る飛鳥。まあいいんだけどさ、こうして見つかったわけだし。
「それじゃあみんなのとこに戻ろうか」
「あ、ちょっと待って、雪」
「ん?」
「二人きりで、話があるの」
「…………」
何となく内容を察したボクは、頷いてそのまま飛鳥の話を聞くことにした。
「あのさ、夕さんから聞いたんだ。今雪が将来のことで悩んでるって」
「ん、飛鳥、そのことなんだけど……」
「まあ待って、最後まで聞いて欲しいの」
「……わかった」
「ありがと。それで、私、考えたんだ。雪に何をしてあげられるだろうって。それで決めたの。…………あのね、雪」
「うん」
「この前の、彼女に立候補するって話。ごめん…あれ、一度無かったことにさせてほしいの」
「………」
「きっと、雪に恋したままの私じゃ、これ以上のことは出来ない。どうしても、その隙に私がって、邪なことを考えちゃうから。だから、雪が答えを出して、それを叶えるまでは、私は雪を諦める」
「……………」
「それが、私の答え」
飛鳥は芯の通った強い眼でそう言った。
―――みずなと同じなんだ。
飛鳥もまた、決断したのだ。自分のためでなく、ボクのために。
「………二人は本当、すごいなぁ」
「え?」
本当に、そう思う。こんな素敵な少女二人に、ボクは好きになってもらえたんだ。こんなに嬉しいことって、他にあるのかな。
……ボクも、ちゃんと伝えないとね。自分の決めた道。
「飛鳥、ボクも話したい事あるんだ」
「ん? 雪も?」
「……ボクね、決めたよ。これからの事」
「え…………決めたって……ほんと?」
「うん。ボクね……辞めるよ。夢を叶えたら、歌手を辞める。それで、新しいことをやってみたいから」
「―――――。そっか…」
「うん」
最初こそ驚いたみたいだけど、すぐにどこか納得した顔になった。もしかしたら、ある程度予想してたのだろうか。
「……ほんとに、いいんだよね?」
「うん。というか、気づけなかっただけで、答えは最初から出てたんだってことに、さっき気づいた」
「そっか……ふふっ、そっかぁ」
飛鳥は安堵したようにそう呟く。
「……あれ、じゃあ私、もしかして諦めなくてもいいの?」
「えっと……わからないけど、ただ、少なくともその夢を叶えるまでは、付き合うとかそういうことは無い……かな」
「………そっか。じゃあ、うん。やっぱり、一度諦めるね」
「ごめん」
「謝らなくていいって。そもそも、一度だからね! 雪が歌手を引退したら、またいっぱいアピールするんだから! 覚悟しておいてね!」
「うん。わかった」
「よろしい!」
「じゃあ、今度こそ戻ろうか」
「うん! ……あ、ところで、新しいことって何?」
「………秘密」
「ええ~~!? それはないよ~!」
「秘密ですー」
「もう、いいじゃん、教えてくれても~」
「…………」
「…………」
「「…………ぷっ」」
そこまで言って、ボク達は同時に笑い出した。ボクも飛鳥も、どこか吹っ切れたように。
それからみんなと合流し、屋上で屋台で買ったものを食べていると、ドーンッ!!と音がして空が光で照らされる。
「あ! 花火あがったよ!」
「ほんとだ! きれー!」
「でっかいな~」
「たーまや~!」
「お! いいねぇ、たーまや~!」
「しかし、なんで「たまや」なんだっけ?」
「あれ? なんでだっけ?」
「あなた達、知らないで言っていたの?」
「「えへへ」」
「あはは」
これからのことを決めたボク達は、晴れやかな気持ちで、花火を見ていた。
「そうか。……やっぱりというべきか。それでいいんだね?」
「うん。もうこのことで迷うことは無いかな」
「……そうか、わかった。なら、その方向で進めておくよ。ああ、もちろん穏便に済むだろうけど、一応気を付けるようにしてくれ。変態記者どもが押し寄せてくるかもしれないからね」
「夕も言ってたね変態記者。社長の入れ知恵なの」
「アハハ……」
次の日、社長と夕に昨日決めたことを話した。二人は特に反対もせず、納得してくれた。
「ところで、新しいこととは、何かな?」
「それは、秘密」
「なんだ、秘密とはね。いつからケチな性格になったのか…」
「絶対社長の影響です」
「なんと!?」
「あはは」
「ふふふっ」
「やれやれ…………では、私は早速メディア関連に伝えてくる。近いうち天音君にも記者会見など出てもらうから、心の準備だけしておいてね」
「わかったよ。……社長」
「うん? 何かな?」
「ありがとう、この前、忌憚のない意見くれたこと」
「……ああ、どういたしまして」
「それじゃあ後よろしく」と言って社長は部屋を出ていった。
「決めたのね。よかったわ」
「うん、夕もありがとう。みんなに話してくれたんだよね」
「ええ、けどごめんなさいね。勝手に……」
「ううん、そのおかげで気づけたんだから。感謝しかないよ」
「……雪」
「さて、ボク達ももう行かないとだよね?」
「っと、そうね。行きましょうか」
「うん!」
後は両親とボクの、今の夢を叶えるだけだ。
その後のことも、もう決めてある。
ボクは―――――本気で恋をしてみたい。
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