第22話:期末試験、みんなで勉強会。一方ボクは?
7月も半ばに差し掛かろうかという時期、西村先生から学生にとっては苦行であるイベントが迫っていることを告げられる。
「え~、いよいよ来週から期末試験が始まります。みんな、赤点だけは取らないよう十分に準備を進めてくださいね」
「「「「「うげぇぇぇぇ~~~~!!」」」」」
「文句を言っても試験は無くならないわよ。以上、解散」
そう言うと先生は教室を出ていく。クラスはその試験の話題で持ちきりになっていた。
そしてそれはボク達も例にもれず、これからどうするかを話し合っていた。
「勉強会しない? みんなで」
「いいね! やろやろ!」
飛鳥と美乃梨がそう提案する。
「そうね、わからないところは教え合えるし、いいんじゃないかしら」
「うん、私も賛成かな。期末まではお仕事も休みにしてもらったし」
と怜奈とみずなも賛成のようだ。
「俺もいいけど、雪は大丈夫なのか?」
「うーん、なるべく休みは取るようにしたけど、いくつか仕事が入ってるから、全部は参加できないかな」
ボクはあまり勉強に自信が無い。仕事の合間に勉強することはあるけど、がっつり時間を取れたことはないから。だから今回は参加しておきたかったけど、そうそう甘くは無いらしい。
「そっかぁ、残念」
「やっぱり歌姫ともなると、そう簡単に長期休暇って取れないものですか?」
「う~ん、どうなんだろう。他の人と比較していいものかがまずわからないけど。まあ一週間丸々ってわけにはいかないのが現状かな」
実際のところ、今の自分の環境が”忙しい”に入るのかよくわかってない。何の仕事であれ、結構楽しくやっているからか、そもそもそういう自覚がないのだろうと思う。
そう話をすると、みずなは感心したように相槌を打っていた。
「ほぇ~…。やっぱり天音さんは凄いです! 私も見習わないと!」
「参考にしていいかどうかは、わからないけどね」
「そんなことありません! どんなお仕事も楽しく…前に天音さんが言ってくれた言葉ですね! 私もがんばります!」
みずなはふんすっ! と鼻息を荒くして意気込む。
「まあそのためにも、まずは期末をちゃんと乗り越えてね」
「あうっ。はい、わかりました」
「あはは、みずなちゃんは勉強苦手派?」
「そうなの。特に数学はよくわからないことが多くて…」
「じゃあなおさら勉強会はやったほうがいいかもね。私は得意な方だから、よかったら教えるよ?」
「いいの? ありがとう、美乃梨ちゃん!」
みずなが美乃梨の手を握ってお礼を言う。そんな二人をよそに、駿介がボクに聞いてくる。
「それで、結局今日は参加できるのか?」
「ううん、今日は無理かな。明日は参加できるから」
「そうか、なら今日のところは雪以外でやるか」
「うん。雪、明日は絶対だからね!」
「はいはい、わかってるよ」
顔を近づけながらそう言って微妙に圧を掛けてくる飛鳥に、ボクは苦笑しながら答えた。
すると携帯の着信音が鳴り、画面を見てみると夕から学校前に着いたという連絡だった。
「あ、夕が来たみたい。じゃあボクはこれで。また明日ね」
「バイバーイ!」
「はい、また明日です」
「お仕事頑張ってねー!」
ボクは教室を出て、夕の元へと向かった。
私たちは雪が教室を出てから、机を寄せて勉強会を行うことにした。
「さて、じゃあ始めましょうか」
「うん、何からやろうか」
「各自、苦手科目からってのはどうだ?早めに苦手を克服したほうがいいと思うんだ」
「そだね、私は賛成」
「うん、私も」
というわけで、各自苦手な科目の教科書とノートを取り出して勉強を始める。みんなで分からないところは教え合いながら、割と順調に進めていった。
そんな中、怜奈がある疑問をみずなに向けた。
「そういえばみずな、聞きたいのだけど、どうして姫様には敬語を使っているのかしら。呼び方も“天音さん”というのも気になるわね」
「あ、それ私も思ってた。なんでなんで?」
美乃梨も交じってみずなに質問する。彼女は少し照れながら話し始めた。
「えっと、前に助けてもらった話はしたと思うけど、その時に恩人であると同時に一番尊敬する人にもなったの。だからかな、天音さんには敬意を表する意味でもさん呼びで敬語で話すのは」
そう説明すると、みんなは納得したようにへぇ~とうなずいた。
「でもわかるかも。姫様ってかわいいけど、ふとした表紙に急に大人っぽくなるし」
「そうそう! しかもいざというときはすっごくカッコいいんだよ!」
「あなたは特に実感しているでしょうね、飛鳥」
「あ、去年ナンパからつけてもらった時の話だよね?」
「うん、あの時はかっこよかったなぁ」
とうっとりした表情でその時のことを思い出す飛鳥に、駿介はこの場に居なくてよかったなと思うのだった。
「けどそうね、ただ可愛いというだけでなく、そういう色んな一面を持っているからこそ、たくさんの人を惹きつけるのでしょうね」
「うんうん! 私たちもそういう姫様だからこそ、一緒に居たくなるわけだしね」
「はは、愛されてるなぁ雪は」
みんなが同じ思いでこの場にいない雪を褒めていた。
「っくしゅ!」
「あら、風邪なんて引いたら承知しないわよ」
「あんまりだよそれは」
ボクは休憩室で試験勉強をしていた。隣に座っている夕の物言いに、思わず突っ込んだ。
「勉強は順調かしら?」
「まあぼちぼち。例によってあんまり時間取れないのが難点だけど」
と少し皮肉を交えてチラッと夕を見ながら言ってみる。
「それに関しては申し訳なく思ってるわ。ただその分夏休みを少しでも多く満喫できるように計らってるんだから、むしろ感謝しなさい」
「ほんとに申し訳なく思ってる?」
と再度突っ込まざるを得ない。夕って割とボクに厳しいときがあるのは、いわゆる親心的なやつだろうか。わからないけど。
「…それで、前に言ってたことは、結局決まったの?」
「う~ん、まだ何とも。でもひとまず、そこが大きな区切りかなっては思ってる。…ずっと叶えたかった夢だからね、それが無くなったら、続ける意味も無いかな」
「…そう。そうね、あなたはずっと、それを叶えるためにやってきたのだもの」
何か思い返すようにそう言った夕は、どこか寂しそうな表情をしていた。
「…まあ、そうなるにしても、もっと先の話だし。まだ決めかねてるから、あんまり気にしないでよ」
「ええ、わかってるわ」
でも、と夕は続ける。
「あなたが歌手を辞めることになったとしても、私はあなたの保護者であることは辞めないから。そのつもりでいてね」
夕の言葉に少しだけ驚いたけど、夕ならいいかと思い、ボクは笑って言った。
「うん。これからもよろしくね、夕」
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