第21話:飛鳥、みずなと対立す

 放課後、ボク達は長瀬さん、もといみずな-と呼ぶことになった-に、校舎を案内することになった。


「ここが音楽室! 急に歌いたい衝動に駆られた時はここに来るといいよ!」

「いや、そんなときは来ないと思うけど…」


 美乃梨の言葉に苦笑いするみずな。


 そんな調子で次へと向かう。


「ここが保健室だな。ちなみに保険の先生ってかなりの美人で…」

「駿介?」


 やたらと怖い笑みを浮かべながら、美乃梨が駿介に詰め寄る。


「ひぇっ!? あ、ちょ、イッタ!! 痛い痛い!? 待ってくれ美乃梨! 腕はそっちには曲がらないからぁ!!」


 あっ〜〜〜〜〜!!! という悲鳴が校舎に響いた。



「次、ここが職員室だよ。なんだかんだで来ることがあると思うから、覚えておいた方がいいかもね!」

「うん、わかったよ」

「って、なんでわざわざ私のとこまで来たの?」


西村先生がジト目を向けながら言った。


「いやぁ、何となく?」

「何となくで来ないで欲しいわね…。まあいいわ、それはそうと福谷君、ちょっといいかしら」

「何すか?」

「この間の現文の作文、あれは何?」

「え? 今を生きる若者達に向けた言葉っすけど」

「あなたも若者でしょうが。じゃなくて何なの、『お前が主人公だ、青春を駆け抜けろ!』って。そもそもこの議題もよ。勢いだけでガーッて書いたんでしょ。後でやり直して貰うからね」

「そんなぁ!?」

「福谷君、あなた…」

「バカだなぁ、駿介は」

「やめて! そんな目で俺を見ないでくれぇ!」


 やはり今日も駿介は散々なようだった。



 ひとしきり案内を終えて、ボク達は校門前まで来ていた。


「今日は本当にありがとう! 大体場所はわかったし、何より楽しかった!」

「それなら良かったよ! 案内した甲斐があったね!」

「そうね。みずな、改めて今日からよろしくね。仲良くしましょう」

「あ、私もよろしく! みずな!」

「うん! よろしくね、みんな!」

「んじゃ、今日はこれで解散だな」

「うん、それじゃあまた明日!」

「またねー」


 そうしてみんなが帰っていく中、みずなと飛鳥はまだ残っていた。


「あれ、天音さんと飛鳥ちゃんは帰らないの?」

「あ、私たちはおんなじ方向なんだよね。みずなはどっち方向なの?」

「えっと、こっちだよ」


 そう言ってみずなが指した方向は、どうやらボク達と同じだったようで。


「あれ、じゃあ私たちと同じだね! 一緒に帰ろうよ!」

「うん!」

「じゃあ行こっか」


 そうしてボク達は同じ方向へと歩き出す。


「そういえばみずな、こないだLステに出てたよね? 新曲すっごく良かったよ!」

「見てくれたんだ、ありがとう!」

「あれ、そうなの? 知らなかった」

「ええ〜、勿体ないなぁ。今度絶対聞いた方がいいよ。私の今の二番目の推し曲!」

「そこは一番じゃ無いんだね…」

「えへへ、ごめん。一番は常に雪の歌だから」


 頬を掻きながら笑ってそう言う飛鳥。微妙にみずなの反応が気になる発言だけど。


 チラッとみずなを見ると、彼女は飛鳥に同意すると言わんばかりにブンブン首を縦に振っていた。


「わかる! わかるよ飛鳥ちゃん! 私も一推しは絶対天音さんの曲だからね! これだけは譲れないよ!」

「みずな!」

「飛鳥ちゃん!」


 ガシッと手を組んでウンウンと頷く二人。気持ちは嬉しいけど、なんか恥ずかしくなってきた。周りの人達にもクスクスと笑われているし。


「二人とも、せめて声抑えてくれる?」

「「あっ…」」


 ボクの指摘で気づいたのか、顔を赤くしながら周囲にペコペコ頭を下げる二人に、ボクは苦笑いをした。



 しばらくして、ボクの住むマンションの前に着く。


「それじゃあボクはここだから、またね」

「うん、また明日!」

「また明日です、天音さん」


 ボクは手を振ってから、中へと入っていった。




 私たちは雪と別れてからも、一緒に帰っていた…のだけど、ふとみずなが立ち止まって、私の方を見ていた。


「うん? どうしたの、みずな」

「…あの、飛鳥ちゃん。聞きたいことがあるんだけど、いいかな」

「聞きたいこと?なにかな」


「飛鳥ちゃんは、天音さんのこと、好きなんだよね?」


「…え」


 いきなり言われて私は戸惑った。なんでバレてるの?そんなにわかりやすかったかな。


「…えっと、答える前に、どうしてそんな質問を?」

「私にとっても、重要なことだからかな」


 彼女の真剣な表情を見て、私は何となく察した。だからこそ、私はちゃんと答えることにした。


「…。うん、好きだよ。大好きなの」

「……そう。やっぱり、そうなんだね」


 納得したようにそう呟くみずな。それを見て、今度は私から聞き返す。


「みずなも、なんだよね?」

「はい、好きです。私を助けてくれた、あの時から」


 おそらく生放送の件だろう。あの後雪が弱ってる彼女を救ったと聞いた。その時に、恋をしたんだろう。


「そっか。それで、聞いてどうするの?」

「私は天音さんの恋人になりたい。けど、飛鳥ちゃんが天音さんを好きなのは見て分かったから、ちゃんとフェアな条件で行きたいと思ったの」

「…お互いの気持ちを確認したうえで、どっちが恋人になれるかってこと?」

「うん。負けたく無いけど、知ってて何も言わずに取っちゃうのは違うと思って」


 みずなの言葉に少しだけ驚く。この子は何て言うか、負けず嫌いなのかもしれない。


「わかった。じゃあここからは勝負だね! どっちが恋人になっても、恨みっこなしだよ!」

「うん! ありがとう、飛鳥ちゃん! 私も負けないからね!」


 お互い決意を新たにして、そう意気込むのだった。





「あ、でも両方選ばれない、なんて事もなくは無いか…」

「怖い事言わないで! 飛鳥ちゃん!」

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