第20話:婚約破棄の後は、転校生で飛鳥のライバル?

 その後、無事に婚約破棄を果たした怜奈は、ボクにすごく感謝していた。ボクは大したことはしていないのだけど、嬉しそうな彼女を見ていたら、それを言う気も失せていた。


 破棄した後も何日かは帝堂グループの元で仕事をした。最後にプチライブを披露することになったのだが、当日は収拾がつかないくらい盛り上がりすぎて、翌日の仕事に影響が出たのだとか。


 とにかくそんなこんなで、今回の件は無事解決。それからは今まで通りの生活と仕事に戻った。


 今日の朝もいつも通りに登校すると、クラスは何やらザワついていた。気になって既に席に着いていた駿介に聞いてみる。


「何かあったの?」

「おう、雪か。いやそれがさ、どうやら転校生がくるらしいんだよ」

「転校生? この時期に?」

「ああ、らしいぞ」


 滅多に無いことだと思う。なにせ今はもう夏休みが迫ってきているのだから。


「どんな人かなぁ」

「ここはやはり美少女ですな!」

「いやいや、やっぱりイケメン男子でしょ!」

「グヒヒ…美少女転校生と…姫様が、組んず解れつ…」

「「「それだぁ!!」」」

「「「それだぁ! じゃ無いわ変態ども!」」」


 クラスメイトはまだ見ぬ転校生の話に夢中のようだ。


 やがて飛鳥達みんなも合流して、ボクらも何だかんだ転校生の話をしていた。


 HRのベルが鳴り、担任の西村先生が教室に入ってくる。


「はーい、みんな席に着いてー。HR始めるよー」

「せんせー、転校生はー?」

「なんだ、もう聞いてるの?なら早速紹介したほうがいいわね。…入ってきて!」


 扉の向こう側にそう言うと、ガラッと扉が開き、ついに転校生が入ってきた………って、うん?


「はい、じゃあ自己紹介お願いね」

「はい」


 そう返事をしては黒板に自分の名前を書いた。


「みなさん初めまして。長瀬みずなと言います。よろしくお願いします」

「「「「うおおおおお!! 美少女キターーー!!」」」」

「え!? ていうかあれって、あの水門水菜じゃない!?」

「あ! ホントだ!!」

「すげえ、このクラスに有名人が二人も!」


 長瀬さんの自己紹介が終わると同時にクラスが盛り上がる。


「あーもー、みんな静かにして!」


 西村が止めに入るも中々収まらず、特に男子は大盛り上がり。


「あ、あはは」


 長瀬さんは苦笑いしながらクラスを見渡している。するとボクと目が合い、彼女は驚いた様子で見ていた。


「やっぱりそうだよね」


 ボクもボクでやっぱりと思う。彼女が間違いなく、あの水門水菜みなとみずなであること。普段のボクと同じで少しだけ変装しているし、苗字も違うしでちょっと自信なかったけど。


 彼女もボクがそうであることを確信したのか、ずっとこちらを見ていた。


「はいはい、ほんとにそこまでにして! 長瀬さんの席は彼、天音君の後ろね」

「あ、はい」


 長瀬さんはボクの方へ歩きながら、小さく「よろしくです」と言った。


 ボクもうなずいて見せて、彼女が席に着いたところで西村先生が話を進める。


「えー、長瀬さんはみんなの言う通り、歌手の水門水菜さんです。天音君と同じで仕事をしながら登校という形になるので、そこは念頭においてね。それと、先に言っておくけど、サインだとか握手だとかは無しね。一度でも許しちゃうと、収拾付かなくなるから」

「「「「はーい!」」」」

「長瀬さんもそういう訳だから、一応気をつけてね。何か困ったことがあれば、それこそ天音君に言って頂戴。なんとかしてくれるから」

「丸投げイクナイ」


 そこは自分に言ってと言うべきだろうに。


「冗談よ。とにかくみんな、その辺はよろしくね。それじゃあHRは以上。授業の準備をしておいてね」


 そう言って西村先生は教室から出て行く。


 するとクラスはやはり再度盛り上がり、長瀬さんの元へと集まり質問タイムが始まる。


「長瀬さんはどうして転校してきたの?」

「普段は何してるの?」

「ご趣味は?」


 などなど、矢継ぎ早に質問していくクラスメイトにタジタジになる長瀬さん。無理もないよね。


「みんな、そんな一気に聞かれても答えられないでしょ。せめて順番に一人ずつにして」

「っと、そうだよな。悪い長瀬さん!」

「ご、ごめんね」

「う、ううん、大丈夫だよ」


 ボクの言葉にみんなが素直に従った。


「ありがとうございます、天音さん。助かりました」

「あはは、いいよ。それより聞きたいことがあるから、お昼一緒に食べない?」

「あ、はい! ぜひ!」


 と嬉しそうに頷いてくれた長瀬さん。ボクはそれを見てから、飛鳥達に「いいよね」とアイコンタクトで聞くと、みんなも頷いてくれた。


「…姫様と水門さんが、微笑んでいる」

「…やべぇ、尊死する」

「ああ、ここがエデンだったのね!」

「グフフ、やっぱり姫様と美少女が…組んず解れつ」

「「「それだぁ!!」」」

「「「クドイわ!!」」」


 何やらまた不穏な言葉が聞こえた気がしたけど、ボクは無視することにした。



 昼休みになり、ボクの元にいつものメンバーが集まった。


「それで、長瀬さんはどうしてこの時期に転校してきたの?」

「うん、まあありきたりな理由だけど、お父さんの転勤に合わせてね。変な時期だから、これからどうなるのか心配だったけど、天音さんがいてくれるなら、大丈夫かな」

「…雪とは、知り合いなんだよね?」

「うん! 以前生放送ドタキャンしちゃったとき、助けてくれたの!」


 と嬉しそうに話す長瀬さんに、飛鳥が若干不機嫌そうな表情をしていた。


「どうかしたの? 飛鳥」

「え? う、ううん。何でもないよ! うん」

「そう?」

「ねぇねぇ長瀬さん! その時の話聞かせて!」

「あ、うん! えっとね…」


 そうして長瀬さんはあの時の事を話し始めた。





 私は今、少しだけ焦っていた。というのも…。


 HRの時、雪の方を見てすぐに嬉しそうな表情をしていた事。


 今雪に助けてもらった時の話をした彼女の表情。


(どう見ても、恋しているそれよね)


 私はここに来て、自分のライバルが出現したことに、心中穏やかではいられなかった。

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