第17話:怜奈、許婚をどうするか悩む
怜奈の告白に驚くボク達。許婚とか、本当にそういうのあるんだ。しかも年上。
「ちなみに年上ってどれくらい?」
「今23だと聞いているわ」
「7歳年上かぁ。まあ最近は年の差婚とか結構聞くし、まだ普通かなぁ」
「…怜奈はその人にまだ会ってないの?」
「あら、よくわかったわね。ええ、顔も見ていないわ。聞いたのは年齢と名前だけよ」
「そうなんだ。なんか怜奈って、そういうの好まないタイプかと思って」
怜奈はあまり色恋の話には乗ってこないことが多い。飛鳥の話になると飛びつくらしいが…。
とにかく、それは自分に関しても同じで、興味無いのかなって思ってたから、許婚がいることにはホントに驚いたのだ。
「…怜奈、もしかして困ってるっていうのは」
「ええ、その許婚の話、どう断ろうかと考えているのよ。私が望んでいるわけでも無いし、正直父も母も乗り気じゃ無いみたいなの」
「うん? それならご両親から断るものじゃないの?」
「それが、あまり一方的に断ることもできないのよ。相手はうちと同じくらい有名で実力もある企業の社長息子なの」
「…あの、怜奈。その人の名前って?」
怜奈の話を聞いて、相手が誰なのかピンときたけど、ボクは一応確認してみる。
「加藤コーポレーションの社長、加藤慎太郎の息子、加藤浩太よ」
「えええええええ!? 加藤コーポレーションって、あの!?」
「やっぱりそうなんだ」
「って雪、わかってたの?」
「なんとなく予想はついてたかな。けどそうなると、確かに無下にしてしまう訳にはいかないよね」
「ええ、もちろんそうした後で、あちらが報復なり何なりしてきたとしても、どうとでもなるわ。ただそれでも面倒な事に変わりはないわ」
まあ確かに、帝堂家のほうが力はあるみたいだけど。ただ加藤の方が一方的に帝堂に酷いことされた、なんて話をメディアを使ってされたら、いくら帝堂でもかなりの手間が掛かるだろう。
「それで頭を抱えているんだね」
「ええ。ほんと、どうしたものかしら」
怜奈は少し疲れた様子でいた。どうにか力になりたいけど…。
そうこうしているうちに、どうやら帝堂家に到着したみたいだ。
「着いたわ。さ、降りて頂戴」
「…ほぇ〜〜」
「あはは、雪口がポカンってしてるよ?まあ初めて見た人なら、そうもなっちゃうけど。私もそうだったし」
帝堂家は門を潜ると、とても広い庭園から始まり、中へ進んでいくとこれまた大きな洋風のお屋敷が見えてきた。なんだか現実離れしたこの空間に、ボクは圧倒されていた。
「ふふっ。さあ、こっちよ」
怜奈の後ろを付いて行きながら歩いていくと、お屋敷の正面入り口が見えてきた。そしてその両サイドには人が立っている。格好から察するに、おそらく。
「メイドさん?」
「ええ、うちではメイドと執事を雇っているわ」
「…なんかここだけ異世界なのかな」
「あ、あはは」
「私も最初同じこと呟いたっけ」と言いながら飛鳥が苦笑いした。
入り口の前まで来ると、二人のメイドが扉を開けてくれた。
そのまま中へ入ると、奥に見える階段へ続く赤いカーペットが中心に敷かれていて、それを両サイド挟むようにして、複数のメイドと執事が縦にぴっしりと並んでいた。
「「「「「おかえりなさいませ、お嬢様」」」」」
「「「「「いらっしゃいませ、天音様、飛鳥様」」」」」
「ええ、ただいま」
「えへへ、お邪魔します」
「……お邪魔、します」
なんでボクのこと知ってるんだろうとか、これが怜奈の普通なのかとか。色々言いたい事はあったけど、ボクはやはり固まってしまう。
「お嬢様、旦那様がお話があると」
「わかったわ。二人のことお願いするわね」
「お任せください」
怜奈は執事と何か話してから、コチラを振り向いた。
「ごめんなさい、少し外すわ。二人にはこの執事とメイドを数人付けるから、部屋に案内してもらってね」
「はーい!」
「う、うん」
「ではまた後ほど」
そう言って怜奈は階段を上っていった。
「ではお二方、こちらへどうぞ」
執事にそう言われてボク達は付いていく。
「雪、すごいでしょ?」
「うん、ずっと驚きっぱなしだよ。でも怜奈にとってはこれが普通なんだよね」
「そだね。生まれた時からずっとって言ってたし」
そんな話をしているうちに、客室に着いた。執事が扉を開けてボク達を中へ招く。
「さあどうぞ中へ。すぐにお飲み物をご用意いたしますので」
「あっと、お構いなく…」
「ほほっ、遠慮せずとも良いのですよ天音様。お嬢様の大切なご友人なのですから」
「あはは、嬉しいですけど、慣れてなくて」
「おや、こういう場所は経験がおありと思っていましたが」
「はは、うちは至って普通ですよ」
「いやいや! あんな高級マンションの最上階に住んでて普通は無いからね!?」
と飛鳥が思わずツッコミを入れた。
「なるほど、帝堂家とはベクトルが違うだけでしたか」
「比べるのも烏滸がましい気がするけど」
「まあでも、ちょっと憧れるよね。こういう場所に住んでみたいって思うし」
「おや、お嬢様に申されれば叶うやもしれませぬぞ?」
「あはは、怜奈なら二つ返事でオーケーしそう」
「ふふっ、確かに」
そんな話をしていると、メイドが紅茶を持ってきてカップに注いでくれた。
「ダージリンでございます」
テーブルに置くと、メイドは扉の横に待機するように立ち、執事はそれを見て「では、ごゆるりと。何かあれば、そこのメイドにお申し付けください」と言って部屋を出ていった。
ボク達はしばらくダージリンを飲みながら、一時の優雅な時間を堪能していた。
私、帝堂怜奈は自室にカバンを置くと、そのまま父の部屋へと向かう。
扉の前に立ちノックすると、中から「入ってくれ」と声がする。
中へ入り、ソファに腰掛けている父の正面まで来ると、父が話し始める。
「怜奈、例の婚約の件だが、やはり意思は変わらないな?」
「ええ、もちろん。好きでもない相手と結婚なんてゴメンだわ」
「そうか。まあ、私も母さんも、同じ気持ちだ。怜奈には自由に恋し、結婚して欲しいからな」
知ってはいたけれど、正直ホッとした。急に意見を変えてくる可能性もあったのだから。
「…ちなみに、今例の彼が来ているのだったね?」
「姫様…天音雪のこと? それなら今客室で待ってもらっているわ」
「そうか…ふむ、怜奈。私に一つ、考えがあるのだが」
父の提案に、私はやはりそうなるのね、と思うのだった。
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