第13話:待ちに待ったゴールデンウィーク、ライブ最終日で?

 大阪二日目、そして東京へ戻り一日目のライブは滞りなく進み、これまた大盛況となった。


 そして今日、いよいよ最後のライブとなり、今雪は最終確認を行なっていた。


「いやぁ、今日で最後かぁ。なんかこう、感慨深いというか」

「そうね、とても長いライブツアーだったもの。そう感じるのも無理ないわ」

「けどほんと、怜奈には感謝してます。全部のライブを最前列で見れたなんて、これ程贅沢なことは滅多にないし」

「そだね。ほんとにありがとね、怜奈ちゃん!」

「ふふっ、どういたしまして」


 とみんなが怜奈に感謝していると、最終確認を終えた雪がこちらにやって来た。


「あれ、まだ客席の方行かないの?」

「ううん、もう行くけど、その前に雪に頑張れって伝えに来たの」

「あ、そうなの?ありがとう」

「私達も今まで以上に応援するわ」

「姫様、頑張ってね!」

「悔いのないようにな」

「うん、行ってくるよ」


 そう言って雪はステージ裏へと向かって行った。私達も客席へ向かい本番開始を待つことに。


 そして午後一時半、いよいよ最後のライブが始まった。これまでと同様に最初から物凄い大歓声が広がり、お客さんも雪もテンションMAXで進行していく。


 6曲目に入ると、以前一緒にCDを買いに行ったときの曲、“To get up again”が流れた。


 そういえば、大阪では聞かないことにしたけど、あの言葉、もしかしたらこの曲の歌詞とも何か関係あるのかな。


 私は雪が話してくれるまで気にしないようにしてたつもりだったけど、やはり思い出してしまうし、気になってしまう。


『ボクのせいで、死んだのだから』


 普段明るく振舞っている雪からは想像も出来ないほどの言葉と表情だった。一体どれほどの事があったら、あんな暗い表情になるのだろう。


「…すか……飛鳥!!」

「ふえ!? …あ、怜奈?どうかした?」

「それはこちらのセリフよ。さっきから呼びかけているのに、反応が無いんだもの」

「え、ああごめん! ちょっと考え事してて」

「珍しいわね、姫様のこと以外で夢中になるのは」

「べ、別に四六時中雪のこと考えてるわけじゃ…まあ今のも雪のこと考えてたけど」

「あらあら、お熱いことね」

「〜〜〜〜っ! ……もうっ!」

「ふふっ」


からかってくる怜奈の肩をポカポカと叩く。


 そんなことをしているうちに、6曲目も終了し、その後もどんどんライブは進んでいく。そして、最後の曲も歌い終わり、会場が大盛り上がりしていると、雪がマイクを口元に上げて言った。


『今ので本当は最後の曲だったんだけど、今日は最後ってこともあって、皆には特別に、まだ未発表の新曲を披露しようと思ってる』

「「「「「ぉおおおおおお!!!???」」」」」


 会場が驚きの声を上げる。無論、全く聞かされていなかった私たちもだ。


『といっても、音がまだない歌詞だけの状態なのだけど、今日はどうしてもみんなに聞いてほしくて! …みんな、どうかな!?』

「「「「「聞きた―――――い!!!」」」」」

『ふふっありがとう! それじゃあ行くよ! ……“旅の果て”』


 そうして歌い始めた雪。確かに曲が流れず、雪の歌声だけが響いてくる。けれどそのせいだろうか、雪の綺麗で透き通った声は、今まで以上に鮮明に聞こえ、今まで以上に私たちを魅了していく。


 ――――雪の声、こんなに綺麗なんだ。…でもなんだか。


 いつも聞いているはずの声に、この時はただただ夢中になっていた。




「――――――――。」


 自分でもわかるくらい、ボクの声だけが会場に響いている。


 この歌は、実を言うと昨日今日で考えた歌なのだ。みんなで行ったこの6日間のライブツアーで、見て聞いて、感じたことをそのまま歌詞に載せたゆったりした歌。いわばこの旅の思い出の歌。我ながらよくできていると、自画自賛してみる。もちろん心の中でだけど。


 どうやらお客さんも、聞き入ってくれているようだし、やっぱりやって良かったなと思う。この歌はもちろん、ライブツアーも。


 歌い終わると、会場はしばらくシンとしていたが、やがて拍手から始まり、大歓声へと変わる。


「「「「「ワァァァァァァ!!!」」」」」


 鳴り止まぬ歓声の中、ボクは観客に手を振ってステージを降りた。




 控室に戻り着替えを済ませたところで、コンコンとノックが鳴る。


「はぁーい」

「雪、夕だけど、入ってもいいかしら」

「うん、いいよー」


 ドアを開けて夕が入って来た。


「お疲れ様、雪。最後までよく頑張ったわね」

「はは、何とかね。夕こそおつかれ」

「私は付き添っていただけよ。特に疲れるようなことはしてないわ」

「そんなことないよ、ボク達アーティストは夕みたいなマネージャーにいつも支えてもらってるんだから。だからありがとう、だよ」

「…そう、なら素直に受け取っておくわね」


 微笑みながら夕はそう言った。


「みんなは?」

「今日はもう先に帰ってもらったわ。長旅の疲れもあるのか、だいぶ疲労が顔に出ていたから。今日のお話なら学校でも出来るものね」

「そっか、ありがと…ふぅ」

「今日は挨拶とかはいいから、このまま家に帰るわよ」

「うん、わかった」


 これで全て終了だと思うと力が抜けて、疲労が一気に襲ってきた。会場から出て夕の車に乗ってしばらくすると、今度は眠気も襲う。


「寝てていいわよ。着いたら起こしてあげるから」

「……んぅ、わかった…すぅ」


 夕の言葉に安心して、ボクはそのまま眠ったのだった。




「…本当に、お疲れ様」


 私は眠った雪にそう言った。


 ――――今日の最後に聞かせてくれたあの歌。


 本人から聞いたわけでは無いけど、おそらくこの旅行の事を綴った歌なのだろう。観客はもちろん、私もスタッフの方達も、あの場で聞いていた全ての人が、あの歌と声に魅了されていた。


 ただ、と私は思う。


(この子が自覚してるかわからないけど、確かに飛鳥ちゃんの言う通りだった。だとしたら、雪は今もずっとあの日の事を後悔してることになる。今も自分を責め続けてることに…)


 そう、飛鳥ちゃん達と別れる前、彼女がこっそり私に言ったのだ。


「あの歌の中に、自分を責め続けてる様な歌詞…というか、そういう感情が含まれていた様に思うんです」……と。

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