第12話:待ちに待ったゴールデンウィーク、IN大阪?
ザリっと音がして後ろを振り向くと、飛鳥が浴衣姿でこちらにやってきていた。
「あ…えっと、どうしたの雪、眠れない?」
「…うん、まあ」
「…そっか」
今の聞かれただろうか…ああ、聞かれたかな。飛鳥の様子、少し気まずそうだし。
「ごめん、変なこと聞かせちゃったね。忘れて」
「え、う、うん…あの」
「それより、飛鳥こそどうしたの?」
「あ、えっと、私も眠れなくて、起きたら雪が居なかったから、それで」
「そっか…そろそろ冷えてきたし、戻ろうか」
「うん…」
ちょっと強引だっただろうか。けどあまり触れて欲しくない話だからと、ボクは飛鳥の前を歩いて部屋に戻る。途中飛鳥はずっと沈黙していた。どうしたものかと考えていると、飛鳥が突然パチンっと両手で頬を叩いたのだ。
「わっ、どうしたの急に」
「えへへ、ごめんね。なんだか私暗くなっちゃってたから。気分入れ替えなきゃって思って」
「そ、そう。って顔赤くなっちゃってるよ」
そう言ってボクは飛鳥の頬に手を当てる。
「ひゃっ!? あう、あの、雪?」
「ボクの手冷たいから、これでちょっとは冷やせるんじゃない?」
「しょっ、それはそうかもだけど!……ちょっと恥ずかしい、かも」
「我慢して」
「あう〜〜〜」
と謎の声で身悶える飛鳥。それを見ているとボクも少し恥ずかしくなってくる。
あれ、そういえば昨日は飛鳥の浴衣姿にもの凄く動揺したけど、今はそうでもない。じゃあ昨日のは何だったんだろう。不思議だ。
とそこまで考えたところで、飛鳥がまた静かになっていることに気づいた。
「どうしたの?」
「…あのさ、さっきのことなんだけど」
少しギクリとした。やっぱり気になるだろうか、そう思ったのだが。
「今は聞かない。聞いて欲しく無さそうだから。…でも、いつかは聞かせて」
「…あんまり、いい話じゃ無いけど?」
「それでも、知りたいんだ、雪のこと。もっとちゃんと、知っておきたい。だから、お願い」
真剣な表情でボクを見る飛鳥。
…本当は知られたく無い、というのが本音だけど。どうしてかな、飛鳥になら話してもいいと思えるのは。
けどやっぱり話すにも心の準備とかあるし、飛鳥も今じゃなくていいと言ってくれるなら…。
「わかった、いつか話せる様になったら、その時はちゃんと話すよ。さっき言ったことの意味」
「うん、ありがと」
飛鳥は笑顔になってそう言った。
それを見た瞬間、また動悸が激しくなる。多分顔も赤い、なんなんだろうか、これは。
「あれ、雪、顔赤いよ? 昨日もだったし、やっぱり風邪引いたんじゃ…」
「あ、いや違うよ!? 何でも無いからね!うん!」
「あちょっと、雪!?」
ボクはそう言い残して早足に去っていく。この気持ちが何なのか、全くわからないまま部屋に戻って早々に布団に潜ったのだった。
大阪一日目の今日もリハーサルからライブ本番まで無事に終了。京都と変わらずの盛り上がりを見せた。プログラムが京都とは割と違っているのもあってか、飛鳥達も大いに盛り上がっていた。
…怜奈はまた鼻血を出していた。この旅行中貧血で倒れなければいいけど。
旅館に着いて豪華な夕食を味わいながら、午前中にみんなが観光した様子を聞いていた。
「それでさ、駿介ってば恐竜ザパークでデッカイ恐竜を見た時、『ぎゃぁぁぁぁぁ喰われる〜〜!!』って、本気でビビってるの! そんな訳ないのにね! ふふっ笑っちゃったよ〜」
「うっ、だってものすげえ迫力あったから。ていうかそれは言わなくていいやつだろ! 周りの人にも笑われて恥ずかしかったぜ」
「あはは、目に浮かぶなぁ」
「あとあれもあったよね、同じとこのフライドダイナソー! しっかり体固定してるのに、『イヤー!!落ちる〜!!』って叫んでた!」
「いやあれは流石に叫ぶだろ! 360度回転したんだぞ!?」
「360度?」
「ええ、あれは確かに凄かったわね。何でも空を飛ぶ恐竜に捕まった状態での飛行を再現したのだそうよ」
「ほえー、今ってそんな事まで出来るんだね、確かに凄いかも」
「だろ!? 雪だってあれ乗ったら絶対俺とおんなじ事になってたね!」
「ええー、それはどうかなぁ」
最早若干意地になりつつある駿介を、ボクはニヤニヤと敢えて煽ってみた。
「な、なんだよ俺だけだってのか!? いやそんな訳ない! 帝堂! 俺は知ってるぞ!」
「あら、何をかしらヘタレ君?」
「変なあだ名付けんなよ!? じゃなくてお前、4K3Dのあのアトラクションで、飛び出してくるたび、ビクッてなってたぞ!」
「ええ〜、それだったら私もそうだよ?」
「私も! あれはなっちゃうよね〜」
「…ふふっ、だそうよ、ヘタレ君?」
「ちくしょう! 俺に味方はいないのか!?」
駿介は床に拳を叩きつけて悔しがる。煽っておいて何だけど、味方が一人もいないこの状況には、流石に同情する。
「けどやっぱりいいなぁ、ボクも行ってみたかったよ」
「雪…」
夕が申し訳なさそうな顔をしてしまった。しまったな、つい口に出してしまった。
「じゃあさじゃあさ! また来ようよ! 今度は雪もちゃんと休み取ってさ!」
「え?」
「そうね、今日も楽しかったけれど、やはり姫様が居ないとどこか物足りないものね」
「そうそう、次に行けるとしたら夏休みかな?」
「だな、今のうちに予定立てといて、夏に行こうぜ、雪!」
「お姉ちゃんもね!」
「え、私も?」
「そうですよ、みんなで、行きましょう!」
ボクと夕は目を合わせてしばらく固まるが、次第に自然と笑っていた。
「あはは、そうだね! 行こっか!夏に! いいよね、夕?」
「ええ、いいわよ。そのかわり、夏までにやるべき仕事は片付けて貰うから、覚悟しておいてね」
「うん、わかった!」
「やった! 決まりだね!」
「よーし、それじゃ俺らも色々計画立てないとな!」
「いやぁ、まだまだ先なのに、もう待ち遠しいよ」
「そうね、学校でもプライベートでも、これ程充実した時間を過ごせるとは思ってなかったわ」
「ふふっ、これも全部雪のおかげだね!」
「いや、ボク何もしてないよ?」
「雪が側に居てくれるだけでも、充分幸せなんだよ!」
「……っ!」
「あら飛鳥、今のは大胆な告白ね」
「ふえ!? あ、や、これはそういうのじゃなくて!?」
「えー、でも誰がどう聞いても告白だったよね?」
「だな。ほら見ろ、雪の顔も真っ赤じゃないか」
「いやこれは…って駿介、絶対さっきのお返しでしょ!」
「ふふん、そうだと言ったら?」
「…そういえば去年、美乃梨に告白する直前のことなんだけど」
「だぁぁぁぁぁぁ!!! ちょぉぉぉぉぉっと待てぇぇぇぇ!!!」
「えー何々!? 聞きたい聞きたい!」
「ヘタレ君の恥ずかしい話かしら? 是非聞きたいわね」
「それ私も知らない事!? 聞きたーい!」
「えーっとねー…」
「やめてくれーーーーーーーーーー!!!!!」
「ふふっ」
そんな大阪1日目の夜だった。
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