第11話:待ちに待ったゴールデンウィーク、京都2日目終了?

 京都2日目の朝を迎え、朝食を取ったボク達は、ライブ会場へと向かった。今日も午後一時半から開始で、ボクは午前中にリハーサルを行う。


「というか、どうして飛鳥達も来てるの? 本番は昨日と同じ時間だけど」

「えっとね、夕さんにお願いして、リハーサルから見せてもらうことになったの」

「リハーサルから? あんまり見ても面白いものじゃないけど…」

「そんなことはないわ。姫様が普段どれほど頑張っているのかを見られる、いい機会だもの」

「そうそう。姫様には一杯楽しませて貰ってるから。せめて姫様の頑張りを見届けようって思ったの」


 せっかく京都まで来たのだから観光すればいいものを、と思うけど、みんながそれでいいと言うならこれ以上は何も言わないことにした。


「そっか、まあ正直裏側見られるのって少し恥ずかしい気もするけど。じゃあ今日はずっと一緒ってこと?」

「ああ、大阪に行くタイミングも一緒にしてあるから、今日からはほぼずっとみんな一緒だな」

「あ、けど大阪に着いたら初日は観光するよ!  見てみたい場所結構あるし!」

「ふふっ、それがいいよ」

「姫様にはお土産をたっぷり用意するから安心して頂戴」

「いや少しでいいんだけど」

「…そう、あなたがそう言うなら…」

「あの、露骨に悲しそうな顔しないで。わかったよ、期待してるからその顔やめて!」

「あはは」


 そんなことを話しているうちに会場に着いた。


「じゃあ雪、直ぐに始めるそうだから準備して」

「わかった」

「みんなは私の側にいて、あまり離れないで頂戴ね」

「「「「はぁーい!」」」」


 そうして始まったリハーサル。場の雰囲気はいつもと同じで緊迫した感じだ。まあ当然といえば当然だろう。ライトだったり音響だったり衣装だったりと、本番では安全に、且つミスをしないように念入りに準備するのが当たり前だから。


 ただ飛鳥達はもちろん初めて見る光景だから、唖然としてるみたいだけど。ボクはステージの上に立って、そんな彼女達を見ていた。



「なんていうか、凄い緊張した空気だね」

「うん、怒鳴り声とか普通に飛び交ってるって感じ」

「安全面や会場の盛り上げ方など、常に最善を尽くさなければならない以上、仕方のないことだと思うわよ」

「あら、怜奈ちゃんはわかってるわね。ライブにせよなんにせよ、常に裏側は緊張感を持ってやってるわ」

「…みんなが楽しめてるのって、こういうスタッフさん達のおかげでもあるんですね」

「ふふっ、そういうことね」


 みんなが納得した様子を見て、私は微笑ましく思うと同時に、これほど素直でいい子達が雪の友達でいてくれることに、心の中で感謝した。


 するとそこへ、以前新曲の収録の際に一緒になった、プロデューサーの種島さんがこちらにやってきた。


「やあ有坂くん、久しぶりだね」

「おはようございます、種島さん。久しぶりと言っても、先月お会いしたばかりですが」

「はっはっは、そうだったね。それでその子達は?」

「雪の友達です。6日間のライブに同行する事になりまして。まあリハーサルの見学は今日と大阪2日目だけですが」

「おお、そうかそうか。君達がね。話は天音君から聞いているよ。いつも楽しげに話しているからね」

「そうなんですか?」

「うんうん、時に今年に入ってからは学校での様子とか、それはもうほん『ちょっと次郎? 余計なこと言わないでよ?』…おっと、これ以上は怒られてしまうね。それじゃこれで失礼するよ」


 マイク越しでクギを刺す雪に、観念したように去っていった種島さん。ていうかそこから聞こえてたの?


「えへへ、そっかぁ。雪ってば私達と一緒にいるのが楽しいんだぁ」

「ふふっ、これ以上嬉しいことはないわね」

「ああ、歌姫にそう思ってもらえるのは光栄だな」

「私達も毎日楽しいしね」


 …やっぱり、この子達が友達でよかったわね、雪。




 リハーサルも無事終了し、午後は本番となった。昨日と同じ、もしくはそれ以上の盛り上がりを見せたのだった。


『みんなありがとう!!  明日は大阪でのライブになるから、京都のみんなとはこれでお別れだけど!  みんな明日も応援よろしくね!』

「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」」

「絶対応援するぞー!!!」

「姫様〜〜〜〜〜〜!!!」

「愛してるー〜〜〜!!!」


 声援を送ってくれる観客に手を振ってステージから降りる。これで京都での全プログラムを終了した。まだまだ明日からも忙しいけど、ひとまずやりきったといった感覚に、ボクは満足していた。


「お疲れ様、雪。とてもいいライブだったわ」

「ありがとう、夕。ボクも満足だよ」


 労ってくれた夕にボクはそう答える。


「ふふっ。そうね。それじゃあ着替えたら一度旅館に戻るわよ」

「はーい」


 そうして着替えた後旅館に戻り、少しくつろいだ後チェックアウトを済ませて、大阪へ向かいため新幹線に乗った。


「はぁ、京都ともこれでお別れかぁ。ちょっぴり寂しいかも」

「そうだね。けど大阪に着けばその気持ちも無くなるんだろうね」

「まあそういうのは旅行に付き物だろう」

「むしろそういう事も含めるから楽しいのではないかしら」

「うん、そうだね……それより怜奈、まだ鼻血止まらないの?」

「いえ、止まってはいるのだけれど、心が未だ興奮状態にあるから、ティッシュを詰めているだけよ」


 ライブ中またもや鼻血を出していた怜奈だった。よく倒れないなといつも思う。


「けど大阪かぁ。やっぱりUAJとか海洋館あたりは抑えておきたいよね!」

「そうだね!  グルメ系も周ってみたいし!」

「時間に限りはあるけれど、有名どころは言っておきたいわね。姫様へのお土産もあるもの」

「だな。雪、何かリクエストあるか?」

「うーん、そうだなぁ…」


 次の旅行先である大阪に想いを馳せながら、みんなであれやこれやと会話に興じるのだった。



 その日の夜、大阪に着くなり宿泊先の旅館に向かい、時間も遅いのですぐに就寝することになった。けどなんだか寝付けないボクは、こっそり起きて外の空気を吸う事にした。


「……ふぅ。こっちの空気も結構澄んでていいな」


 深呼吸をしてこの場の空気を堪能する。


(…昨日今日のライブは好感触だった。自分の中でも最高のライブだった…でもそれとは裏腹に、気を緩めれば未だにあの時のことを思い出す。この感情に飲まれないようにしないと)


 両親を亡くしたあの時のことはふとした拍子に思い出す。その度に暗い感情になってしまうのだ。


 なにせ……。


「ボクのせいで、死んだのだから」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る