第10話:待ちに待ったゴールデンウイーク、一日目終了?
京都ライブ一日目が終了したその日の夜、宿泊先へ到着し部屋に入ると、そこには飛鳥達がいた。
「あ! 雪、お疲れ様!」
「あ、うん。あれ、なんでこの部屋に」
飛鳥がボクの腕を掴んで「速く速く」とみんなのもとへ引っ張った。
「あら、言わなかったかしら。私たち、この部屋の隣に宿泊するのよ?」
「聞いてないよ。いやいいんだけどさ」
「それよりすごかったよ! 今日のライブ! もう、サイッコーだった!!」
「うんうん! 大盛り上がりだったね!」
「ええ、他の観客も終わってからもずっと興奮冷めやらぬといった様子だったわね」
「いやぁ、あれをあんな最前列で見れるなんて幸せだなぁ、俺たち」
「あはは、そういってくれるなら、やった甲斐もあったね」
「ふふっ、そうね」
未だ興奮気味なみんなの様子に、ボクと夕はつい笑っていた。
「ところであなたたち、もう夕食は済ませたの?」
「ううん、まだだよ。お姉ちゃんたちと一緒に食べようかって話をしてたんだけど」
「もしかして、もう食べてきちゃった!?」
「まだだから大丈夫だよ、飛鳥。一緒に食べようか」
「やった!」
「なら、女将に言って持ってきてもらいましょう。もう準備は出来ているみたいだから」
「よっしゃぁ! 食うぞぉ!」
「私もお腹空いた~」
「あ、雪はこっちね!」
「はいはい」
そうして持ってきてもらった豪華な夕食を堪能したボクたちは、明日の予定を確認した後、温泉に入ることに。
「ふぅぅぅぅ~~………ああああ、いいお湯だぁ」
「…なんか年寄りくさいぞぉ、雪ぃ」
「そういう駿介も溶けきってるじゃん」
ボクと駿介は肩までお湯に浸かりながら、ぐで~んとしていた。
「あ、そうだ、忘れるところだっだ」
「ん〜? 何ぃ」
「こういう時にやって置くイベントがあるだろ」
「イベント? …なんかあったかな」
よくわかっていないボクに、駿介はチッチッチっと人差し指を立てながら言った。
「覗きだよ、の・ぞ・き」
「はぁ、覗きねぇ……え?」
「やっぱ男女で旅行っていったらコレだよな!」
ザパァと勢いよく立ち上がる駿介。
いや、覗きってキミ…。
「美乃梨がいるのに覗きなんてするの? あとでシバかれるよ」
「だがやはり、男のロマンは叶えるべきだと思うんだよ! つーわけで、さっそく行かせてもらうぜ」
そう言って女風呂との境目にある竹でできた柵へと近づく駿介。
「やめといた方がいいと思うけどねぇ」
「へっへっへ。さーてと、どっからだと見えるかねぇ…」
「ん〜〜〜? …何が見えるっていうのかな? しゅ・ん・す・け?」
突然聞こえた第三者の声にボクも駿介も驚いてそちらを向くと、仁王立ちして駿介の背後に立っている美乃梨がいた。
いつの間に。というか、顔が怖いです。鬼の形相になってる。
「い、いつの間に?」
「駿介の考えなんてお見通しなの。仮にも彼女やってないからね?」
「…ハ、ハハハ、デスヨネ」
「こっち来なさい、駿介」
「ハイ」
むんずと頭を掴まれ引きずられていく駿介。…ご愁傷様。ボクは心の中で合掌した。
「というか美乃梨、今堂々と男湯に入らなかった?」
「あら、知らないの? この時間は混浴になってて、女風呂は閉めちゃってるのよ」
「へえ〜そうなんだ〜って、は?」
またまた聞こえるはずのない声に振り返ると、夕と怜奈、その後ろに恥ずかしそうに立っている飛鳥がいた。
三人とも綺麗な肌だよね。ミルクみたいに白くてすべすべしてそう。スタイルもいいし……じゃなくて!!!
「え、ちょ、なんで入ってきて!?」
「だから、今言った通りよ?」
「いやだからって! 普通ボクがいたら入ってこないでしょ!?」
「どうしてかしら」
「むしろどうしてさ!?」
必死に目を瞑って見ないようにしながら抗議するボク。だけど願い叶わず三人は湯に浸かってしまった。
「はぁー、気持ちいいわねー」
「ええ、なんだか心まで暖まる感じですね」
「…うう〜、なんで二人ともそんなに平気そうなの? 私恥ずかしすぎて死にそうだよ〜」
「あら、いつも真っ先に姫様に抱きついたりしているくせに、こういう時は恥ずかしがるのね」
「それとこれとは全然違うでしょ!? 裸になる訳じゃないし!!」
「けど飛鳥、いずれはそういうかんけ「わーわー!!! ストップストップ!!!」…ムグムグ」
途中で慌てて怜奈の口を塞ぎ、何やらブツブツと話始めた飛鳥。何をそんなに慌てているのだろうか。
「…はぁ。雪、本当に分からないの?」
ボクの考えを悟ったのか、溜息を吐いて夕がそう聞いてきた。
「え? 何のこと?」
「…いや、いいわ。私が言うことじゃないものね」
「???」
何の話をしてるんだろうか。いまいち分からない。
しばらくして落ち着きを取り戻した飛鳥と怜奈が戻ってきた。
「ご、ごめんね。お待たせ」
「ああうん。いいけど、何の話?」
「いえ、何でもないわ。気にしないでちょうだい」
「はぁ、まあいいけど」
聞き出せそうに無いと判断して、これ以上は追求しないことにしたら、飛鳥はどこかホッとしていた。
「それより雪、あなたもうこちらを普通に見ているのね。ふふっ、やっぱり男の子ってところかしら?」
「…もう諦めただけ。っていうかむしろ、夕たちがもっと恥じらいを持つべきだと思うけど?」
「私達だって、誰でもいいって訳じゃないわよ」
「そうね、姫様相手だからこそ、よ」
「私はまだ恥ずかしいけど、タオル巻いたままだし、雪だけなら、なんとか」
「ね?」
「解せぬ」
飛鳥はまだいいにしても、怜奈と夕は何かこう、感覚がおかしい気がする。
とはいえもう入ってしまった以上、諦めるしか無い。ボクが出ればいいだけだとしても、正直まだ浸かっていたい気持ちが強いからね。
「それにしても、いいお湯ねぇ」
「はい、疲れが取れていくのがわかります」
「雪もちゃんと休んでね」
「わかってる、飛鳥もね」
ゆったり温泉に浸かりながら、今日飛鳥達が京都を観光したことや、ライブの話にまた盛り上がっていった。
温泉から上がって部屋に戻ると、美乃梨がまだ駿介にお説教していた。
「まだやってたの」
「ゆ、ゆき…か。頼む…助けてくれ」
正座させられている駿介が力無く助けを求めるが。
「まだ終わってないんだけど?」
相変わらず鬼の形相のままな美乃梨に、ボクは体を震わせながら。
「ごめんムリ」
速攻で断った。
「助けてくれーーーーーー!!!」
部屋を出ると悲鳴が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。
「けど、どうしようかな。終わるまで待とうにも、どこで時間潰そうか」
と考えていると飛鳥がやってきた。
「あれ、雪どうしたの」
「ああうん、まだ中でお説教してたから、適当に時間潰そ…うと」
そこから先は言葉が出なかった。
初めて見た飛鳥の浴衣姿に、自然と見惚れてしまったのだ。心臓もドキドキしてる。さっき温泉ではまだそこまでじゃなかったのに。
「うん? どうしたの?」
「あ、いや、なんでも無いよ。うん、なんでも」
「そう? それで時間が何?」
「えっと、時間をどう潰そうかなって」
「あ、それなら向こうにお土産売り場があるから、行ってみない?」
「そうだね、行こうか」
どうしてだろう、今までこんなこと無かったのに。今の飛鳥を見てると、心臓がうるさくなる。
「あ、見てみて、これ可愛い!」
こうなるともう、彼女の何気ない仕草の一つ一つまで気になってくる。だんだん訳が分からなくなってくる。
「ねぇねぇ、これも可愛いって、ど、どうしたの!? 顔真っ赤だよ!?」
「え、あ…や…なんでもない。大丈夫だから」
「けど…」
「本当に大丈夫、別に風邪とかじゃないから」
「そう? ならいいけど」
とまだボクを心配そうに見てくる飛鳥に、ボクはやはり心臓をうるさく鳴らすのだった。
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