第9話:待ちに待ったゴールデンウィーク、ボクには無いけど?
4月末直前、いよいよ明日から8日間のゴールデンウィーク。世間もこのクラスも、今か今かと浮き足立っている。無理もないよね、ボクだって楽しみだもん。…何も予定が無かったならね。
というのも、ゴールデンウィーク中、最後の2日以外は全てライブで埋まっている。しかも京都、大阪と行って最後に東京。それぞれの場所で2日間ずつ行う事になっている。いくらボクが歌が好きとはいえ、このスケジュールはしんどい。
これからの事にげんなりして机に突っ伏していると、飛鳥達がやってきた。
「ありゃ、どしたの雪、げんなりしてるけど」
「…明日からのハードワークに心が折れそうになってるだけ」
「確か6日間ぶっ続けのライブだよな。そりゃしんどいわ」
「ええ、ファンとしてはもちろん楽しみではあるけれど、友人としては心配ね」
「うう〜ん、何か手伝えることがあったらいいんだけど」
「素人の私たちが入ったら余計に負担を掛けるだけだよね」
「あはは、ありがとう、気持ちだけ受け取っておくね」
みんなの気持ちをありがたく思いつつ、体を起こす。すると怜奈がこんな提案をした。
「手伝い…は確かに無理でしょうけど、一緒に行くことなら可能よ」
「一緒にって?」
「6日間のライブに、私たちも行くのよ」
「え!? 行けるの!? 本当に!?」
「ええ、私の権限でどうとでもできるわ。旅費はもちろん、宿泊先なども姫様と同じ場所を手配するわよ」
「やった~~!! 愛してるよ怜奈!」
嬉しそうに怜奈に抱き着く飛鳥。けれど駿介と美乃梨は少し困った様子だった。
「うーん、いいのかなぁ、なんか職権乱用というか…」
「つーか、さすがに金まで出してもらうのは忍びないんだが」
「私は別に構わないのだけれど、もし気になるなら後から返す形でもいいのよ」
「…それならまあ。私も行きたいし」
「じゃあ今回はお言葉に甘えさせてもらうとするか」
「決まりね、詳しいことは今日の夜までには連絡するわ。みんなは旅行の準備をしておいてね。それと姫様は6日間の宿泊先等、詳しい内容を聞かせてもらえるかしら」
「あ、うん、了解」
なんかあれよあれよという間に一緒に行くことが決まっていた。…怜奈ってもうなんでもありって感じだね。怜奈に詳しい内容を伝えると、「それでは準備があるからお先に失礼するわね」と言って先に帰宅した。
「雪! 一緒に旅行、行けるね!」
「う、うん。そうだね。…といっても、ボクがみんなと一緒に居られるのは限られてるけどね」
「それでも! だよ!」
「…そっか、そうだね」
憂鬱だったゴールデンウイークが、少し楽しみになってきた。
「じゃあ旅行先のもろもろは帝堂に任せるとして、俺たちはすぐにでも宿泊準備しなきゃな。なんせ6日間と長めの旅行だし」
「あ、そうだよね。私もいろいろと足りないかも」
「じゃあこの後買い出しに行こうよ、みんなで」
「そうだね、駿介はどう?」
「ああ、雪はどうだ?」
「少しなら大丈夫。今日の夜には京都に行くから」
「ああそっか、じゃあ速いとこ行っちゃおうよ」
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
買い出しへ行く途中、駿介がボクに聞いてきた。
「そういえば、6日間のライブって全部同じ内容なのか?」
「いや、場所によってやれることが違ってくるし、全部同じだと詰まらないからっていう事務所の理由で、3都府それぞれ違う内容になってるよ」
「ほえ~、けどそれ余計に大変じゃない?」
「だから憂鬱だったんだよ」
「今は?」
「…まあ少し、楽しみかな」
照れくさくて顔を背けて言ったボクに対して、みんながニヤニヤしだした。
「……なにさ、その顔」
「いや~、なんでもないよ~」
「そうだな、なんでもないな」
「雪、可愛い!」
「もう、なんなのさ」
そんなこんなで買い出しも済ませて、ボクらは日が暮れるころには帰宅したのだった。
そしてその日の夜、ボクと夕は一緒に京都へと向かっていた。到着するまでの間、今日の出来事を話していた。
「そう、美乃梨が道理でやたらとはしゃいでいると思ったら、そういう事になっていたのね。…それにしても、その怜奈って子は凄いのね。前日の事なのに、そんなあっさり決められるなんて」
「うん、なんか申し訳ない気もするけど」
「わからなくもないけれど、それであなた達が楽しめるなら、彼女にとっては安いものなんじゃないかしら」
「…そういうものかな」
「ええ、きっとね。だからあなたも、一緒に居られる時間は割と少ないでしょうけど、楽しんでいくといいわ。それがライブへのモチベーションにもなるだろうし」
「うん、そうするよ」
「ふふっ。あ、それと頼まれていた件だけど、…はいこれ」
そう言って渡してきたのは、3都府分のライブのチケットだった。しかも最前列の。
実は怜奈から連絡があり、ライブのチケットだけはどうしても用意できないと言っていた。まあそれの抽選会なんてとっくに終わってるし、無理ないかなって思ったのだけど。
ただ怜奈が言うには、どうやら最前列のチケットを転売している輩がいるという話で、それを買い占めれば行けると言っていたが、そこまでしてもらうのも忍びないので、何とかならないか夕に頼んでみたところ、なんかあっさりチケットを回収していたのだ。
…夕ってほんとすごいなぁ。
「…ほんとに最前列のチケットだ。ありがと、夕」
「これくらいお安い御用よ」
と得意げに言ってみせる夕。…それにしても、とボクは思った。
「いったいどうやったの?さすがに全部買い占めるなんて不可能だと思ってたけど」
「あら、聞きたいかしら?」
なんかやたら笑顔で聞いてきた。こういうときの夕って結構怖いんだよね。
「…やっぱやめとく」
「そう、残念ね。少し転売元の輩を設定金額の半分で売れと脅した話をしたかったのに」
「やめとくって言ったのに!?」
どうしても話したいらしい。今のだけでもわかるよ、どうせ恐ろしい手を使って手に入れたんだろうことくらい。
「冗談よ、半分…いえ、3分の1くらい」
「ほとんど本気じゃん…」
夕にあきれ返るボク。基本まじめな夕だけど、怒らせたりするとほんと何するか分からない時あるからなぁ。ボクも気を付けないと。
「んっ…ふぁ」
「あら、眠くなった?」
「うん、着くまで寝るよ」
「ええ、お休み、雪」
最後に夕の声を聴いて、そのままボクは眠りについた。
「…明日から大変だけれど、頑張りましょうね、雪」
次の日の午後一時半、京都での初日のライブがいよいよ始まった。来場客の数は一万人。会場は最初から盛り上がっており、こんなに楽しんでくれているのかと実感する。
一曲目はカッコイイ印象の“焔”。以前の生放送でも歌ったお気に入りの曲だ。二曲目、三曲目と歌い続けているうち、ふと最前列を見やると、飛鳥達がサイリウムを振って大はしゃぎしていた…特に飛鳥と怜奈が。
飛鳥はまあ普段通りかもだけど、怜奈があそこまではしゃぐのはかなり珍しい。前に興奮して鼻血を出したりなんてことはあったけど、それでも割と冷静な感じだったからね。なんかそんな姿を見れただけでも新鮮だし、ライブをやった甲斐があるなって思った。
ボクはあくまで他のお客さんも含めた皆に向けて、笑顔で手を振ってみせた。
「「「「わあああああああ!!! 姫様ぁぁぁぁぁ~~~~!!!!!!」」」」
めちゃくちゃ盛り上がった。…あ、怜奈が我慢できずに鼻血を出してる。そしてそれを飛鳥が拭いてる。なんだかいつもの光景だ。
そんなこんなでライブは進んでいき、最後の一曲となった。
『次が最後の曲になるよ! みんな! バテずに付いてこれるかな~~!?』
「「「「もちろんでーーす!!!!!」」」」
『それじゃあ行くよ! “To get up again”!』
こうして会場のテンションは最高潮のまま、京都ライブの初日が無事終了した。
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