09話.[質が悪い男だよ]
10分休み、昼休み、そして放課後。
必ずこちらのところに来てはなにも言わないという繰り返し。
いや、無言だからこそより伝わってくるというか、好きだと言えと圧をかけられているのは確かだ。
「まだ言ってあげてないの?」
「誰でも純みたいに強くいられるわけじゃないんだぞ」
「でも、もう出かかってるじゃん、しかも相手が求めてくれているじゃん?」
確かにそうかもしれない。
俺は茂樹のことが好きだと自覚していて、その本人が言え言え言えと猛烈な口撃を仕掛けてくる現状。
言えば恐らくあっという間に受け入れられて終わることだろう、これまでのがなんだったのってぐらいに。
けれど俺は捨てるって決めたんだぞ、それをすぐに破ることになるなんて自分が納得できない。
「言った方がいいよ」
「純……」
「そんな顔をしても駄目ー、これは透くんが頑張らなければならないことだから」
って、その頑張ってぶつからなければならない相手が近くで突っ伏しているから気になるんだよ。
「透くん、頑張って!」
「東城まで……」
「だっていまのままの雰囲気でいるとみんなにばれちゃうよ?」
うっ、それは流石に避けたいな。
なんかひそひそ話とかされたら嫌だからな。
つか、東城は引いたりしないんだなって今更ながらに考えていた。
もういいか、だって……結局内にあるのは変わらないんだからな。
「茂樹、帰るぞ」
無理やり立たせる。
別にこちらを睨んだりすることもなく荷物を持ってくれた。
別にもったいぶりたいわけじゃないんだ、家に帰ってからだとなんか嫌だしと言わせてもらうことに。
「あー、その、茂樹」
「……なんだよ?」
一応、全方位を確認してから、
「す…………き……だぞ」
と、口にした。
冗談ではない状態で言うのはこんなに緊張するのかと初めて知った。
やっぱり純はすごい、もう無理、こんな勇気は2度と出せない。
「どういうところがだっ?」
なっ、こいつ急に元気良くなりやがって!
「ま、真っ直ぐに動けるところとか……かな」
「ほー」
「くそ……帰るぞっ」
絶対に泊まったりはしない。
そんなことをしたら確実に調子に乗らせる。
「俺のことが好きなんだろ?」とか言われながら命令されたら殴る自信があった。
「透」
「は? なん!?」
いや待て、これは一体どういう状況だ。
そもそも茂樹はどうして受け入れてくれたのかがわからない。
だって同性を好きになるような人間には見えないぞ、斜に構えていれば見えるのだろうか?
とにかく、困惑しかなかった、いまは嬉しさよりもその方が上だ。
「ふっ、なん!? ってなんだよ」
「な、なにしてるんだよ!」
「俺は透の要求を受け入れたんだぜ? こういうことだってするだろ、いや……したいだろ?」
俺が言うのもなんだけど茂樹はおかしいわ。
やばい、随分とやばく、おかしい人間を好きになってしまった。
しかも好きになるというのは1種の呪いみたいなもの、強気にはなかなかどうして対応できなくなる。
くっ、やっぱり同性を好きになるというのは茨の道というか、本当に過酷なルートだな!
「……せめて歯を磨いた後とかタイミングを考えてくれよ」
「はははっ、乙女かよっ」
「いまから茂樹を殺して俺も死ぬわ」
「やめろ、いいから帰ろうぜ!」
くっそう、なにもかも作戦だったようだ。
そこに東城と純の援護もあって、俺が動く気になって。
それでも俺が言うまでは暗い感じを出しておいて、言ったらいつものテンションを取り戻す。
「質が悪い男だよ本当に」
「真っ直ぐだろ? 自分のしたいことに」
俺はそこを好きになっているわけだから強気に出れない。
つまり詰み、やはり相手に伝えられても大変なことには変わらなかった。
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