04話.[イカれた発言も]

「で、結局なんなんだよあれは」

「なんにもねえって言っているだろ」


 先程からずっとこんな感じだった。

 もうお互いに自宅にいるというのに言い争いみたいになっている。

 理由は俺だ、だから責められるのは俺ではあるがあれはおかしい。


「言えよっ」

「なんにもねえから言えねえよ!」


 じゃあ暗い顔なんかしてんじゃないっ。

 あの場で俯いていたりしなければスルーした。

 でも、実際は違かった。

 しょうがないみたいに、受け入れるしかないみたいに存在していた。

 だから連れ出したのに結果はこれ。

 余計なことをしているのかもしれないけどさ、俺らは友達なんだしさ……。

 なんにもないなら席を戻せよ、なんにもないならもっと楽しそうにしろよ。

 自分のクラスと他のクラスにいるときの差がありすぎなんだ。


「はぁ、素直じゃない奴め」

「大体、なんで透がそこまで気にするんだよ」


 けど、そう言われると確かにそうなんだよなあと。

 俺なんて自分が快適に生活できればそれで良かったのだ。

 だから本来は関係ない、本人が言っているんだからってなっているはずのところ。

 

「別になんにもない」

「ならいいだろ、俺はあれで困っているわけじゃない」


 むかついたから通話を一方的に終わらせてベッドに寝転んだ。

 勝手に悪く捉えてマイナスな方に考える俺がおかしかったで終わる話だ。

 頼まれてもないことを何度も何度も口にして呆れさせて。

 こんなの馬鹿としか言いようがない、なにをやっているんだ俺は。


「しかも相手は同性だぞ」


 ある程度のことは自分で乗り越えられる強さがあるはず。

 それにどうせなら異性のために動けよと考える自分もいる。

 だって同性と仲良くなってもただ遊べるぐらいなだけだろ?

 その点、女子を助けたりしていれば発展もあるかもしれない。

 もちろん、そういうことのために行動するのは違うけども。


「馬鹿らしい」


 とにかく、らしくないことをしたのは確かだった。

 これならまだこの時間を母のために使っていた方がマシだった。

 心配だから言っているのに可愛げがないし、すぐに大声出すしよ。

 1階へ移動したら母は椅子に座ってうとうととしていた。

 風邪を引いてしまうからと言っても言うことを聞こうとしない。

 だからいつも愛用しているブランケットを背中にかけて電気も消す。


「もう寝るかな」


 本当に困れば本音というのを吐いてくれるはずだ。

 逆に足立や東城だったら話しやすいのかもしれないな。

 困っていそうだったら助けてやってくれと明日頼んでおこう。




 色々と頼んで昼休みはいつも通りのところで過ごしていた。

 俺なんかなにもなくてもこうして出てきたくなるというのに木村はすごいな。

 弁当を食べて、残りの時間は読書に使う。

 本来であればこの時間は幸せなはずなのに今日は微妙な気分だった。


「透くんはいつもここだね」

「まあな」


 なにを気にしているのかわからない。

 教室にいると劣等感を抱くからだろうか?

 でも、木村にとってはそうじゃないということなんだよな?


「言わないでいてくれてありがとな」

「教える意味がないからね」

「助かるよ」


 どうせ可愛げがないから来ることはないだろうが。

 そもそも構ってほしくて違う場所を選んだわけではないのだ。

 なのに来てしまったら無意味なものになる。

 木村はともかく俺はひとりの時間を大切にしているんだから。

 ま、足立の奴がこうして来ている時点で意味もないんだけどな。


「東城は?」

「茂樹くんと一緒にいると思う」

「そうか」


 変な心配をしなくても異性の前でだったらぽろっと吐き出しそうだ。

 それかもしくは頑なに格好つけて問題はないと言うか。


「東城が付き合っているって本当か?」

「うん、三樹ちゃんは他校の男の子と付き合っているよ」

「いいのかよ、普通そこは足立が付き合うところだろ?」

「僕じゃ無理だよ、大体釣り合わないし」


 身長が大きくても小さくても男として見られない人間は沢山いる。

 最近であれば尚更のことだ、お互いに理想を追い求めすぎてて膠着状態。

 が、幸せな関係を築いている人間を見ると理想は下げられず、妥協できず。

 それで結果的に独り身な人間が増えているという形だろう。

 大事なのは中身だなんだって言うけど、やっぱり見た目も最低限を求めたくなるのが人間で。


「それに、僕に彼女がいたらぶっ飛ばすんでしょ?」

「はは、冗談に決まっているだろ」

「そうかな? 透くんはそう言っていたときマジな顔だったけど」


 ふたりきりのときだけいちゃいちゃするというのであれば構わない。

 もっと仲を深めて結婚までいって、そのうえで子どもも産んでくれたらもっといいな。

 人間が多すぎるのも問題だけど、真似したくなるような人間が増えるかもしれない。

 って、他人がどうしようと関係ないけども。


「茂樹くんのこと気にしているよね、どうして?」

「足立はクラスにいるときの木村を見たことがあるか?」

「うん、みんなと席を離していたよね」

「あれっておかしく思わないか?」

「んー、でもなにかを言われている感じもしなかったからね」


 彼は「三樹ちゃんやきみといるときは楽しそうだし」と重ねてきた。

 まあ、この件については自分の考えすぎ、困ったらふたりを頼るだろうで片付けている。

 情けないが、それが事実だったとしてもなにもしてやれないから。


「仮になにかがあったとしても茂樹くんが求めてこなければ駄目だよ」

「そうだけどさ」

「変に僕らが行動したりすると逆効果になる可能性もあるからね」


 自分から頼れない人間もいるからって気にしていたんだけどな。

 いまの木村からすればまず間違いなく面倒くさい相手だと思う。

 俺だってなんでって不思議で、そう片付けていても引っかかっていて。


「そろそろ戻るか」

「そうだね」


 すっきりさせるためにバスケットボールでも買って運動でもするか。

 別に無理してなければいいんだ、友達でもなんでも話すわけでもないし、なにができるわけでもないし、引っかかっているのも時間の問題だろうし。

 俺なんて自分がなに不自由なく生活できれていればそれでいいんだ。

 他人が裏でどういう風に困っていようが、俺の道に足を踏み入れてこなければ関係ない。

 最低だと言われても構わない、俺はずっとそうやって生きてきたのだから。

 だからこの時間を最後に忘れてしまうことにした。




 これから店に行こうとしたときのこと。


「うっ……」


 たまにくるじんわりとした頭の痛みが自分を襲う。

 これが発生すると大体1週間ぐらいはこのままとなってしまう。

 いつからだっけか、あ、中学2年生ぐらいからかな。

 体育のときにそれこそバスケットボールが頭にぶつかってから発生するようになった。

 気になるから病院に行ったことはあるが、特に別状もないというままで。

 しかもなにもできない程じゃない、常に絶妙な感じの痛みが出てきているだけ。


「おい」

「……なんだ?」


 最初から不機嫌そうな感じの木村と遭遇した。

 セルフでこめかみ辺りをちょっと突いて落ち着かせる。


「なんだよ?」

「あ、一緒に帰ろうぜ」

「おう」


 なんか一緒に帰ることになった。

 俺らは毎日一緒に帰るというわけでもないから珍しい。

 まあその大抵は東城や足立と盛り上がっているから先に帰っているだけなんだけども。


「はぁ……」

「ひ、人といるときにため息なんかつくんじゃねえよ」

「木村についてじゃない、スルーしてくれ」


 この絶妙な感じが意地悪いんだよな。

 痛いところを先端の尖ったものでちくちく突かれている感じ。

 なにもできない程ではないものの、読書とかには集中できないレベルだった。

 あとはこれが続くということが気になるところ、気にしたって治らないし質が悪い。


「なあ、透の家に行ってみたいんだが」

「来ればいい、どうせ暇だろうからな」

「なっ!? ひ、暇じゃねえからな!?」

「わかったから大声はやめてくれ」


 適当に飲み物だけ出しておけば問題もないだろう。

 着いたら適当に寝転んで休憩しておけばいい。

 食欲も湧かないし、寝てもいいかもしれないな。


「ほぅ、ここが透の家か」


 予定通り飲み物を渡して寝っ転がっていた。

 が、そこでいちいち気にするのが木村という精神的に小さい男。


「客がいるのに寝転ぶな!」


 木村はすぐ声が大きくなる人間だ。

 これぐらい大声を出してやれば教室でだってなにかされることもないよな。

 でも、見ていない間もきっと俯いているだけなんだろう。

 変えられない現実を前にその場に留まっているだけ。


「無視すんな!」

「悪い……」


 反対側を向いたら背中を軽い力で蹴られたが気にしない。

 立っていたり座っていたりしているときよりも楽だからしょうがない。

 別に適当に対応しているわけではなくそこそこを保つためにしている。


「調子が悪いのか?」

「転びたくなっただけだ」

「だから転ぶなっ、せめて俺が帰ってからにしろ!」


 木村からもっともなことを言われると笑えてくるな。


「これでいいのか?」

「ああ」


 特にすることもないしすぐに帰るだろうと考えていた自分。

 が、俺は木村がほぼひとり暮らし状態だということを忘れていた。

 しかもちゃっかり帰ってきた母作の夜ごはんも食べていた。


「木村、これやるよ」

「はっ? ほとんど食ってねえじゃねえか」

「風呂に入ってくる」


 いい気分になれる風呂に入っているのに今日は最悪としか言えず。

 さっさと出て、さっさと部屋に戻ることに。


「はぁ……」


 枕を顔の上に置いてしばらくじっとしていたら母がやって来た。


「また調子が悪いの?」

「ああ……悪い、残して」

「気にしなくていいわ、それより木村君はどうするの?」

「帰ってくれって言っておいてくれ」

「わかったわ」


 ふとしたときにくるのがいやらしい攻撃だ。

 だからって常にあったら最悪だから勘弁していただきたいが。

 これならまだ激痛だけど1日で済む、の方がいい。

 とはいえ、1週間ずっと謎の腹痛に襲われるというよりはマシか。

 そうしたら席に座っていることすら満足にできなくなるからな。

 学生でも社会人でも腹痛は困る、その場に留まり続けなければならないのが多いし。

 それに比べたら遥かにマシだ、頑張って対応しようかね。




 どんな状態だろうと教室以外で過ごすのが常のことだ。

 というか、そうして逃げておかないとみんな声が大きくて頭が痛い。

 本当に困ったものだ、俺の頭のこれについてだが。


「あ、また教室から逃げ出して」

「東城か、どうしたんだ?」


 彼女は横に座って「どうしたじゃないよ」とぶつけてくる。


「頭が痛いんでしょ」

「まあ、そんなところだな」

「やっぱり、だって顔色が悪いんだもん」


 木村や足立には言わないでくれと頼んでおいた。

 特に木村に知られると面倒くさい、別に心配してもらいたいわけじゃないしな。


「寝る? そうしたら膝を貸してあげるけど」

「彼氏がいる女子にしてもらおうとするわけないだろ」

「そういうのとは別じゃない?」

「別じゃない、怒られないようにしっかり自衛しておけ」


 転んだ方が楽なのは確かだからそのまま寝っ転がっておく。

 しかしそのタイミングで予鈴が鳴り、残念ながら戻ることになった。

 東城には教えておいた方が楽だと考えて実際にしたが、正しい選択だろうか。

 ただ、授業が始まってしまえば誰にも邪魔されないという点ではいいかもしれない。

 こういうときに限ってなんてべたな展開にもならず1時間ずつ終わっていく。


「木村」

「おわっ!? な、なんだ急に……」

「これやるよ、放課後になったら容器は返してくれ」


 明日から母に弁当を作ってもらうのはやめようと思う。

 いまはなにかを食べているより転んでいたいから。

 寝すぎて午後の授業に遅刻してもあれだから校舎内で寝転んでいることにした。


「うおりゃあ!」


 そう大声が聞こえてきた後すぐにどばんっと音が聞こえてきて飛び起きる。


「へへへっ、僕が参上したよっ」

「子どもかよ、あ、子どもだな」

「高校2年生だよ!」


 本当に小さいな足立は。

 少し立ち上がって持ち上げてみた。


「わー! 怖い怖い!」

「ん? ここは高い高いだろ?」

「そうじゃなくてっ、階段っ、階段だからあ!」

「あ、悪い」


 床に下ろしてやると「こ、殺されるかと思った」なんて変なことを言ってくれていた。

 こちらはまた寝転んで下から見ても小さい少年を見ておく。


「小さいな」

「大きいよ!」


 なんでこんなところに来たのかなんていちいち聞かなくてもわかる。

 東城と足立間で情報が共有されているのだ。

 その証拠に戻ろうともせずに横に座ってきたし。

 そもそも足立はあれから来すぎだ、全くひとりの時間を味わえてない。


「東城から聞いたのか?」

「ううん、見ていれば調子が悪いんだなってわかるから」

「ま、そうだからな、だから弁当も木村にやってきた」


 それでこんなところに寝転んでいると自嘲気味に笑っておく。

 床が汚かろうとどうでもいい、寝転ぶことでかなり楽になるんだから必要なのだ。


「わかっているなら大声を出さないでいてくれるとありがたいんだけどな」

「ごめん、でも人が床に寝転がっていたらヒーローが駆けつけるべきところでしょ?」

「はは、足立はヒーローとは言えないな、逆に助けられるべき人間だろ」

「なっ、馬鹿にしてっ」

「ほら、すぐムキになってしまうところが子どもらしいからな」


 ヒーローならもっと動じないようにしなければすぐに悪役にやられてしまうぞ。

 この場合の悪役は俺かな、わざと困っている人間のように振る舞って助けに来てくれたところをぶすりと刺して相手を殺すんだ――って、頭が痛くてイカれたみたいだな。


「木村にだけは絶対に言わないでくれ」

「透くんがそう言うなら言わないけどさ、どうせばれるんじゃない?」

「それならそれでいい、でも言わないでくれ」


 木村が向き合わなければならないのは自分のことだから。

 もっと東城や足立といる時間を増やして寂しさをなくすことだな。

 幸い、3人ともバスケが好きなようだしいいだろう。

 対するこちらはさっさと1週間が経過するのを待つしかない。

 そうしないと母作の美味しいごはんを美味しいと味わえないから。


「でも、茂樹くんに対してだけあれだよね」

「は? 変な風に考えてくれるなよ?」

「ははは、透くんは頑固なのかもね」

「頑固なのは木村だ」


 意地でも自分の言うことを聞くまで同じことを言い続けるからな。

 そのくせ、こちらの言うことなんてなんにも聞いてくれない。

 なんでそこまで気にするかって心配だからに決まっているだろうに。

 いままで他人から気にされたことがあまりなかったのだろうか?


「同性だからって気にしないで甘えてもいいと思うけどね」

「弱音を吐いたら木村は何回もそのことで弄ってきそうだろ?」

「茂樹くんはそんなことしないよ、真っ直ぐな生き方をできている子だから」


 いや、同性に甘えるとかそれは最終的な手段だろ。

 単純に恥ずかしいし、女子からは求められないから同性に走っているみたいじゃないか。

 別に同性愛者の人達を気持ち悪いだとかは考えないが、自分がするのとは違う。

 待て、そもそも他人を頼る=甘える=恋愛という短絡的な考えがおかしい。

 頭が痛いときはイカれた発言もすることがあるから気をつけないとな。

 そうしないと東城や足立、それに木村がせっかくいてくれているのに駄目になるからな。

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