◉記念碑
すっかり水が引いた遊園地の一画に、文字の書かれているプレートがはめ込まれた小さな台座が設けられ、アムールトラの手枷が飾られている。そこへカラカルとキュルルが、神妙な面持ちでやってきた。
カラカル「アムールトラ…草も木も山も海も…アンタのおかげですっかりパークは元通り…平和な世界になったのよ。それなのに…それなのに肝心のアンタは…。」
キュルル「“奇跡のフレンズ・アムールトラの手枷”か…、まるでお墓だよ…、縁起でもない…。」
博士「冗談じゃないのです、まったく。」
後ろから博士の声がして、キュルル達は振り返った。そこには博士と助手、そしてかばんさんとサーバルが立っていた。
サーバル「あのね、それはあの子が帰ってくる時の目印なんだって!」
それを聞いた2人は驚いた。
カラカル「ええっ⁉︎」
キュルル「あの子が…、帰ってくる⁉︎」
するとかばんさんがうなずいた。
かばん「過去の記録の中に、ビーストに関するものが見つかったんだ。それによると、この手枷は誰かがつけたものじゃなくて、ビーストが生まれつき持っている毛皮の一部だったんだよ。もしあの子に何かあったのなら、これも一緒に消えてしまう。でもほら、まったくそんな気配はないよね。」
博士「ビーストとは、時々生まれてくる強大な力を秘めたフレンズの総称だったそうなのです。彼女らはまず戦いを覚え、その中で他者と関わり言葉と心を育んでいったのです。そして力の操り方がしっかり身につくと、手枷は外れるそうなのです。」
助手「その手枷には、ある程度ビーストの感情を鎮めたり力を抑えたりする力もあって…、言ってみれば独り立ちするまでの補助器具だそうなのです。『備えあれば嬉しいな』、なのです。」
そしてかばんさんが、コンピュータから見聞きしたアムールトラの過去を2人に語った。
かばん「…とまあこんな事があったそうなんだ。でも長い年月の間に、フレンズ達は女王事件とアムールトラの事をすっかり忘れてしまった。ここからは監視装置の記録も合わせた推測になるのだけど、ある日、なんらかのトラブルが起きて衛星が止まり、パークのサンドスターが変異を始めた。ちょうど、フレンズから野生解放が失われたあたりだね。それを感じ取ったアムールトラは、長い眠りから目覚めて施設を飛び出した。」
「彼女はビーストとしての力の他は、知識も経験も言葉も、全て忘れてしまっていた。そしてパークの各地で強大な力を振るい続けた。でもフレンズさん達の話をまとめると、彼女はその力をセルリアンにしか使わなかったんだ。ただ、知っての通りセルリアンはものを取り込むからそれごと壊してしまったり、力が強いから周囲の自然にまで被害が及ぶ事もあったけどね。」
カラカル「ちょっと待って。ならあの噂はなんだったのよ⁉︎」
かばん「どうやら彼女の悪評を広めていたセルリアンがいたようなんだ。緑色の小さなやつで、いつも他のセルリアンの陰に隠れていたらしい。そしてビーストの力と相まって、みんな彼女は怖い存在だと信じ込んでしまったんだ。」
キュルル「じゃあモノレールで聞こえた小さな声は、そいつだったのか…。」
カラカル「あたし達の勘違いだったの…?なら、あの子に謝らなきゃ!」
かばん「それからさらに長い時間が経ってから、キュルルさんがコアから出てきたんだ。君が彼女を思い続けたのは、もしかすると過去の出来事が関係しているのかもしれない。けど、気にしなくていいよ。過去も女王も関係ない、キュルルさんはキュルルさんなんだから。」
すでにサーバルは何回も同じ説明を聞いているのだが、まだよく分かっていないようでポカンとしている。そしてカラカルが首をかしげた。
カラカル「でもそれなら…、何であたし達の前に現れないのよ?」
かばん「…分からない。けど経験を積んだビーストの中には、神獣になった子もいたらしい。もしあの子がそのような存在になってしまったのだとしたら、もう僕達の考え方では測れないよ。」
キュルルは、うつむきながら体を震わせた。
キュルル「いいんだよ…、そんな事は…!生きてさえいれば…、必ずまた会えるよ!だって…、だってあの子が帰ってくる所は…!」
そして顔を上げ、両腕をバッと広げた。
「ここしかないんだからさ!!」
キュルルは涙を浮かべながら、満面の笑みを浮かべた。それを見たみんなも笑顔で応えた。
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